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第217話

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 メインの防御手段は奪った。 小太刀は完全に破壊し、残りは太刀と使っていない野太刀だ。
 ヨシナリは自分が優勢である事を確信する。 ふわわの動きは完全に見えていた。
 行ける。 勝てる。 殺せる。

 最後の追い込みをかける前に自身を客観視。 
 今の自分は優勢である事に酔っていないか? 何かを見落としていないか?
 深く呼吸をする。 思考は明瞭、勝ちに焦ってはいない。

 ――よし、行ける。 前の借りはここで返させて貰う。

 ヨシナリはそう確信し、ホロスコープを加速させる。
 決着へと至る為に。 ふわわの小太刀がない以上、防御力は大きく落ち込んでいる。
 太刀で同様の事は出来るが長い分、回転が低い。 遠距離から更に削るという手段もなくはないが、実弾は無限ではないのでやりすぎると逆にこちらの首を絞める結果となる。

 だから行く。 
 加えて前回と同じシチュエーションを制する事により、借りを返したという事を強く実感できる。
 ふわわは近くの建物の陰。 向こうも逃げる気はないようだ。

 誘っている可能性も高いが、今の自分なら捻じ伏せられる。 
 両足のブースターを全開にして加速。 大きく円を描くようにふわわの隠れたビルを回り、彼女の姿を確認。 そのままアノマリーの銃身を排除。 削るのは止めだ。

 接近しながら実弾に切り替えて連射する。 ふわわは太刀で防御しながら回避。
 いつ見ても信じられない挙動だ。 回避しつつ直撃弾は太刀で叩き落している。
 だが、今のヨシナリにはふわわの機体の動きがはっきりと見えていた。

 狙いを上半身だけでなく下半身へと散らす。 最初に上半身を執拗に狙い、慣れさせた事で下半身を狙う。 彼女の最大の強みは機動性――要は足だ。
 足をやれば動きのクオリティが大きく落ちるのは前回で証明されている。

 ――狙いは最初から足を奪う事。

 狙いは右足。 完全破壊は出来なくてもスラスターの一つでも破壊できれば――

 「――は?」

 ヨシナリは思わず声を漏らす。 何故ならふわわは下半身を一切守らなかったからだ。
 右足が穴だらけになって千切れ飛ぶ。 代わりに背のブースターを全開にして突っ込んできた。 
 接近戦は望むところだが、明らかに何かを狙っている。 思惑を外す意味でもここは中距離を維持するべきと判断して後退しようとしたが、ドンと背に衝撃。

 ビル。 偶然とは思えなかった。 狙っていた?
 ヨシナリの動きを僅かに止める為だけに足を捨てる? ふわわの意図が読めなかった。

 確かにこのまま距離を詰めるつもりだったので背後をあまり意識していなかったが何を考えて――ヨシナリはふわわの機体のエネルギー分布を見て背筋が冷えた。 野太刀――その鞘に相当量のエネルギーが集まっているからだ。

 何だアレは? 明らかに大きな攻撃だ。
 まともに喰らうとヤバい。 そう判断したヨシナリは急上昇で回避しようとしたが、嫌な予感を感じて横に飛ぶ。 それは正しく、ふわわは残った左足で地面を踏みしめて跳躍。 
 
 太刀はいつの間にか腰の鞘へ。 そして両手は野太刀の柄を握っていた。
 鞘の隙間からバチバチと僅かに放電している。 見上げたヨシナリと見下ろすふわわの視線が絡む。
 彼女が真っすぐにヨシナリを見ていた。 明らかに狙いを定めている。

 同時に何をしてくるのかを完璧に理解した。 

 ――冗談だろ? なんてものを――

 喰らったら不味い。 相手は上、自分は下。
 距離は下がった時に開いたので数十メートルはある。 野太刀は長いが、届く距離ではない。
 大抵の相手はそう思うが、視えてしまったヨシナリは全力の回避を選択。 推力を最大にして斬撃の範囲から逃れようとする。

 ふわわの野太刀が解き放たれた。 あまりにも速すぎて音がしない。
 いや、音自体はしたのだ。 だが、遅れてだった。
 斬。 回避は際どい所だったが間に合った。 ヨシナリは自分が一瞬前まで居た場所を見て戦慄する。 ビルが綺麗にズレて両断されていたからだ。 地面にも綺麗な斬跡が残されており、攻撃が地下まで届いている事を示している。

 恐らくはレールガンと同じ理屈なのだろう。 
 あの鞘が銃身の役割を担い、エネルギーを溜めて射出。 それだけではあの攻撃範囲は実現できない。 ならあの馬鹿げた攻撃を成立させたのは何だ?

 あの野太刀自体にある。 目にしてようやく正体が分かった。
 液体金属刃。 瞬時に凝固する液状の金属は鞘から抜き放たれた瞬間にとんでもない長さに伸びたのだ。
 それによりあれほどの広い範囲を切り裂いた。 普通ならまともに斬れる訳がない代物だが、あの鞘と併用する事によって実現したようだ。 

 ――いや、だからといって切断できるのか?

 目の当たりにしても信じられなかった。
 液体金属刃に関しては多少の知識はある。 柄と鞘に液体金属を充填して凝固、刃を形成。
 上手に使えば見た目以上の攻撃範囲を実現できるが、それは理屈の上の話だ。
 
 液体金属刃は急拵えなので基本的に脆く、長くすれば更に強度が落ちる。
 そんな代物を限界まで延長して振った所で折れるだけで碌な威力を発揮しない――はずなのだが、地下まで届く斬撃を見てしまえば使い方次第なんだなと思ってしまう。

 ――真似できる気はしないが。
  
 「呆けててええの?」
 「うぉ!?」

 ふわわの声と同時に斬撃が横に飛んでくる。
 ヨシナリは咄嗟に屈んで回避。 通り過ぎたと同時に刃が元の液体金属に戻り、飛散する。
 回避の為に態勢を大きく崩したヨシナリが立て直した頃にはふわわはもう目の前だった。

 逃げられない。 だったら迎え撃つまでだ。
 相手に主導権を握られている状態での近接戦へ突入するのは危険だが、ここで背を向ける事は出来ない。 脳裏にチラりとここは勝ちを狙う事に固執するべきだといった思考が霞めたが、瞬時に野太刀の攻撃範囲、自身の態勢などの様々な否定要因が浮かび、棄却。 それ以上にあんな熱い一撃を見て逃げるとかありえないだろうと理性を捻じ伏せた。

 ふわわは狙っていたのだ。 
 自身の足を犠牲にして切り札であろう野太刀の一撃すらも囮にしてこの局面に持って行く為に。 
 彼女は言っているのだ。 前と同じシチュエーションで決着を着けようと。
 
 前はドローだったのだ。 ここで相手を捻じ伏せる事で自分が上だと証明する。
 
 ――上等だ。 やってやる。

 ふわわは柄だけになった野太刀を投げ捨て左右の太刀を抜く。
 この距離では使えないのでヨシナリはアノマリーを手放し、応じるように二挺拳銃に切り替える。
 間合いはまだこちらが上だとヨシナリは右を連射。 ふわわは片足にもかかわらず器用に躱す。
 
 斬撃の間合いに入った。 こちらにはシックスセンスがある。
 重心の移動から次にくる攻撃は分かっていた。 銃弾を叩き落としたモーションから右の袈裟から入る斬撃へと無駄なく繋げている。
 エネルギーではなく、実体剣である以上は問題ない。 右の銃床で受けて払う。
 
 ふわわの太刀が僅かに流れる。 

 ――その間に左の攻撃を意識しているのだろうが、その展開は前にもやっただろうが!

 同じ手は喰わんとヨシナリは銃に隠していたギミックを展開。
 銃口の下からエネルギーの刃が形成される。 ふわわの太刀を打ち払った状態なので刃の真下は手首。 振り下ろして手首を切断する。 太刀を握ったままの手首が切断され、そのまま落ちた。
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