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第215話

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 キマイラタイプ、シックスセンスとこれだけの装備を揃えたにもかかわらずふわわは未だに健在。
 分かり切っていた事ではあったが、手強い相手だ。 
 だが、手札に関してはある程度めくれてきた。 アップグレードを行った彼女の機体はブレードではなく刀を用いた斬撃に特化した構成へと変わり、戦い方もそれに合わせたものへと変わっている。

 基本的に太刀で攻撃、小太刀で防御。 本来ならそういった用途ではないような気もするが、銃弾を普通に切り払うふわわならではの戦い方だ。 気になるのは背中の野太刀。
 前に見た時は長いのが一振りだけだったが、以前に見たものよりもやや短い物を両肩にマウントしている。 

 今の所、使ってくる気配はなし。 
 使っている余裕がないだけだと思いたいが、狙っている可能性も高いので油断はできない。
 ヨシナリは今の所ではあるが優勢であると思っているので、気持ちにも少しだけ余裕があった。
 上を取り、一方的に銃撃を加え、センサーシステムのお陰で何をしてくるのかの予兆をすぐにキャッチできる状況。 少なくとも最低限の安全は確保できていると言っていい。

 並の相手ならこれだけの好条件が揃っているのなら簡単に処理できたはずなのだが、それをさせてくれないのがふわわの恐ろしさだ。 彼女は逃げ回りながらも何かを狙うように時折、こちらを窺っている。
 
 ――これがあるからあの人は怖いんだよなぁ……。

 それに気になる装備がいくつかある。 まずは両腕についているアームガンのような装着型の装備。
 非常に怪しいがふわわのスタイル上、射程の長い飛び道具とは考えにくい。 
 あり得ないとは思わない。 前回は思い込んだ結果、ドローに持ち込まれたのだ。
 
 ただ、彼女の射撃系武器に対する適性の低さは明らか。 安易な飛び道具とは思えない。
 仮にそうだったとしてもこの距離であるならそこまで怖い装備ではなかった。
 
 ――もしかしたらブレードか何かを入れている格納ケースの可能性もある。
 
 目立たないようにしてはいるが怪しい事に変わりはない。
 視線の先でふわわの機体がビルの隙間に入る。 ヨシナリは大きく旋回して先回り。
 ふわわ相手には常に背後を取る形にするのがベスト。 得意の切り払いを使うにも振り返るというワンアクションが必要になるので成功の難易度が上がる。 それにより彼女の動きを制限する事に繋がるのだ。

 ――露骨に視線を切りに来たな。

 一応、センサーシステムのお陰で位置自体は把握できているが、視界から消す事は怖いので可能な限り見える位置に置いておきたい。 そんな追いかけっこをしばらくの間、続ける事となった。
 時間が欲しかったのは両者に共通していたのである意味、思惑が一致した結果だ。

 ヨシナリは装備を新調したふわわの戦い方を分析したかった。
 それはふわわも同様でヨシナリの動きを観察し、どう切り崩すかの見極めを行いたかった。
 ヨシナリはアノマリーでふわわの背を狙撃。 彼女は見えているかのように横にスライドして回避。
 
 上手い。 明らかにシックスセンスを用いての先読みを視野に入れての回避だ。
 どうやってかは不明だが、ヨシナリがどのように動きを読んでいるのかを理解し始めている。
 その証拠に彼女が回避モーションに入るのはヨシナリが仕掛けに動いたのとほぼ同時。

 このタイミングが少し遅れていたのなら機体の重心移動やエネルギーの流れで挙動の前兆が掴めたのだが、それを一切感じさせずに回避を行う。 
 性能、装備の質は明らかに上回っているのに攻めきれない。 

 ――本当に厄介な相手だ。 
 
 そう思いつつも観察を続けて切り崩す方法に関してもそろそろ見えて来た。
 ここはさっくり勝って戦績をイーブンに持って行きたい。 
 仕掛けるのは次に回避の為に建物の陰に入ったと同時。 

 「練習の成果を見せてやるぜ」

 そう呟きながらアノマリーを発射。 エネルギー弾が放たれたと同時にふわわは建物の陰へ。
 ここだ。 ヨシナリは機体を戦闘機形態に変形させ、即座に最大加速。
 小回りは利かないが、直線加速ならエンジェルタイプですら凌駕する。

 最高速度のまま急降下。 地面スレスレを飛んで変形する事で制動をかける。
 それにより大きく減速。 チャンスは一回だが、散々練習した挙動なのでミスる訳がない。
 倒れ込むような姿勢でふわわの入ったビル隙間に銃口を向ける。 

 この隙間は狭くて縦に長い。 つまり横には躱せない場所だ。
 こういった地形に逃げ込んでくれるのを待っていた。 ふわわも左右に躱せない上、狭いので刀を振り回し辛い場所はさっさと抜けたいと思っているだろうが、ヨシナリが狙ったのはその僅かな焦り。

 意識の軸が路地から抜け出す事に傾いた隙を突く。 
 路地を視界に捉えるのは一秒にも満たない刹那。 ヨシナリのホロスコープが倒れ込むような姿勢で通り過ぎるその一瞬にアノマリーから一撃が放たれる。

 「――!?」

 流石のふわわもこれは予想できなかったのか驚いたように息を呑む気配。
 当たる。 そう確信した一撃の結果は見えなかった。 何故なら撃ったと同時に通り過ぎたからだ。
 だが、手応えはあった。 当たったのを前提にヨシナリは急上昇。 

 そのまま真上からの強襲に繋げる。 ふわわは――恐ろしい事に無傷。
 小太刀を二本抜いているところから交差させて防いだ? そんな馬鹿なと言いたいが、ふわわならやりかねないとも思うので気にせずそのまま追撃に入る。
 
 アノマリーを連射に切り替えて真上から実弾をばら撒く。
 ふわわは小太刀を柄で連結させると、手首を回転させて銃弾を防御。 
 上を取られ、左右には逃げられない。 そして満足に武器を振り回せないのならそうするしかない。

 ――あの刀、柄で連結できるのかよ。

 そんなどうでもいい事を考えながら畳みかけるべく連射。 即座に弾が切れるがエネルギー弾に切り替えて更に連射。 その間にマガジンを排除し、撃ちながら交換。
 完了と同時に実弾に切り替えて更に連射。 流石に防ぎきれなくなったのか後退して路地から飛び出す。

 ――行ける。

 そんな確信はあったが、警戒は怠らずにそのまま突っ込む。
 実体剣にそこまでの防御能力はない。 このまま撃ち込み続ければ――
 ヨシナリの予測は正しく、ふわわの連結した小太刀の刃は銃弾に耐え切れずに砕け散る。

 「あちゃー」

 ふわわはしまったといった口調でそんな事を言いながら折れた小太刀を投げつけつつ、右の太刀を抜く。 
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