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第210話
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キマイラタイプの機体が欲しい。 正確には『シックスセンス』を扱える環境が欲しい。
その為に金が要る。 本来ならこれまでに溜め込んできたイベント報酬、緊急ミッションの報酬は新しい装備を購入する為に使用するつもりだったが、一時の欲望に負けて全て吐き出してしまった。
突っ走ってしまった以上、もう止まれない。
やってしまったと思わなくはないが、こうなった以上はいい機会だと割り切るべきだ。
集団戦闘の経験を積みつつ金を稼ぐ。 ツガルやポンポンは他人との連携を組む訓練を行う意味でもいい相手だった。
――まぁ、やり易いから教材としてはやや物足りないが……。
こうして組んでみると良く分かる。 彼等は非常に優秀なプレイヤーだ。
ヨシナリがアノマリーを一撃。 回避した敵機の移動先を狙ってツガルが機銃を連射して仕留める。
上手い。 こちらの狙撃意図を瞬時に汲み取ってそのまま追撃に繋げている。
元々、センドウというヨシナリよりも優れた狙撃手と組んでいるのだ。
バックを信用するといった行為自体に慣れているのだ。 期待されているとも感じられるので援護のし甲斐もある。 そういった意味でも他人を乗せるのが上手い。
次の獲物はとスコープシステムで敵を探すといい位置に敵が飛び込んできた。
美味しい獲物だったのでありがたく頂く。 一撃で急所を射抜いて仕留める。
ちらりと敵が飛んできた方向を見るとポンポンが居た。 どうやら仕留め易い位置に追い込んでくれたようだ。
――やり易い。
戦った時も思っていたが自分と似たタイプのプレイヤーで、どう動けば味方が戦い易いかをよく理解している。
「ナ~イス。 良い腕だナ!」
「追い込み助かります」
積極的に声をかける事も忘れない。 高ランクプレイヤーだけあって経験が違う。
今回のミッションは敵の精鋭――強化された蟻型エネミーとの戦闘だ。
五十機の蟻型エネミーはイベント戦で出現したのと同型だが、強化されているのか動きがかなり良い。
対するヨシナリ達の編成は前衛をツガルとポンポン、ニャーコの『豹変』の二人が行い、後衛がヨシナリとまんまる。 ヨシナリは身を隠しつつ狙撃で敵を削り、まんまるが砲で火力支援だ。
最後にフカヤが身を隠しつつ数を減らす。 即席のチームではあるがバランスも良く、個々の技量が高いので連携もスムーズだ。
敵は瞬く間に数を減らし――最後の一機をポンポンが撃墜して完了となった。
「うえ~い! おつかれだゾ!」
「うえ~い! お疲れー」
ポンポンとツガルがウエーイとテンション高めでニャーコとまんまる控えめにお疲れ様です小さく会釈。 それに合わせるようにフカヤもぼそぼそと「お疲れです」と呟く。
「即席のチームだから結構、連携がギクシャクするかと思ったがいい感じだナ!」
「敵の時は厄介だったけど味方だといいパスくれるな。 頼りになるぜ!」
「お前もナ! 上手に敵を引き付けてくれるからやり易かったゾ! 加点!」
二人のやり取りを見ながらヨシナリも手応えを感じていた。
同じ面子と組んで連携を高めるのも重要だが、違う相手と組んで刺激を得る事も必要だ。
特に高ランクのプレイヤーから摂取できる経験は何物にも代えがたい。
ミッションを片付けた後、ツガルが使用許可を取った『栄光』のユニオンホームの一室へ移動しての感想戦の最中だ。
「――キマイラにこだわってるのは偏りを防ぐ為か?」
「それもあるけど可変機って格好よくね?」
リプレイ映像を見ているとポンポンとツガルが、キマイラタイプの話をしていたので丁度いいとヨシナリは会話に割り込む。
「俺もキマイラタイプを買うつもりなんですけど、お勧めとか使ってていい所、悪い所とか聞かせて貰ってもいいですか?」
「ってかお前、Fランでキマイラ狙いとか贅沢な奴だな! ま、キマイラユーザーの俺としては使用人口が増えるのは大歓迎だから特別に教えてやるぜ」
キマイラタイプ。 様々な亜種は存在するが、共通しているのは可変機能を備えている事だ。
様々な動物を模した形態。 それにより通常の人型では機動力が落ちる悪路や地形を物ともせずに性能を発揮する。 中でも最もスタンダードなもので、最も使用人口の多いのはノーマルのキマイラタイプ。
スタンダードというだけあって扱いやすく。 優れた性能は多くのプレイヤーに愛されている。
戦闘機形態への変形は空中での機動性を大きく引き上げ、戦場を切り裂くように飛ぶ姿は空中戦の華と言えるだろう。
「何よりも可変時の最大加速は積んでいるエンジンやジェネレーターにもよるがエンジェルタイプも超える」
「でも、トップスピードに乗るまでに時間がかかるがナ」
「ぐ、た、確かにそうだが、乗っちまえばそう追い付かれないぜ」
「後、旋回性能もエネルギーウイングに比べれば劣るから直線的な動きは読まれやすいゾ」
「そこは空戦機動を使いこなせればいくらでも補えるって」
「そうだが、割とハードル高いゾ? だったら素直にエンジェルタイプ狙いの方が楽だナ」
「……お前、凄っげぇディスるじゃねーか」
「あのナ、人に薦めるんだったら良い所だけじゃなくて悪い所も教えないとフェアじゃないだろ」
どうやら敢えて欠点を上げていたようだ。
「折角買ったパーツを使いたい気持ちは分からなくもないが、フレームってのは気軽に買える代物じゃねーんだ。 金は有限だから高い買い物をするなら長所だけじゃなく、短所にも目を向けるんだナ」
「ま、そーだな。 ただ、パーツの組み合わせ次第ではスペック的にエンジェルタイプと充分に戦り合えるレベルには持って行ける。 エンジェルタイプを使わないって割り切るならキマイラでAランク目指すってのも手だぜ?」
「そこは否定しない。 高いがエンジェルタイプと同水準のジェネレーターを積めばスペック面でも充分に戦えるレベルにはなるゾ。 ただ、総合的に見るとエネルギー兵器の使用効率はエンジェルタイプの方が上になるナ」
「ってかそれやるならエンジェルタイプ買えって話になっちまうな!」
「はっはっは、やっぱキマイラ駄目じゃないか?」
ポンポンの返しが面白かったのかツガルが笑う。
ヨシナリも釣られて笑う。 非常に面白い話だ。
「そういえばエンジェルタイプの話ってあんまり聞けてないんですけど、エネルギーの管理とかどうしてるんですか?」
気が付けば機体の情報交換会になっていたが非常に有意義な時間だった。
その為に金が要る。 本来ならこれまでに溜め込んできたイベント報酬、緊急ミッションの報酬は新しい装備を購入する為に使用するつもりだったが、一時の欲望に負けて全て吐き出してしまった。
突っ走ってしまった以上、もう止まれない。
やってしまったと思わなくはないが、こうなった以上はいい機会だと割り切るべきだ。
集団戦闘の経験を積みつつ金を稼ぐ。 ツガルやポンポンは他人との連携を組む訓練を行う意味でもいい相手だった。
――まぁ、やり易いから教材としてはやや物足りないが……。
こうして組んでみると良く分かる。 彼等は非常に優秀なプレイヤーだ。
ヨシナリがアノマリーを一撃。 回避した敵機の移動先を狙ってツガルが機銃を連射して仕留める。
上手い。 こちらの狙撃意図を瞬時に汲み取ってそのまま追撃に繋げている。
元々、センドウというヨシナリよりも優れた狙撃手と組んでいるのだ。
バックを信用するといった行為自体に慣れているのだ。 期待されているとも感じられるので援護のし甲斐もある。 そういった意味でも他人を乗せるのが上手い。
次の獲物はとスコープシステムで敵を探すといい位置に敵が飛び込んできた。
美味しい獲物だったのでありがたく頂く。 一撃で急所を射抜いて仕留める。
ちらりと敵が飛んできた方向を見るとポンポンが居た。 どうやら仕留め易い位置に追い込んでくれたようだ。
――やり易い。
戦った時も思っていたが自分と似たタイプのプレイヤーで、どう動けば味方が戦い易いかをよく理解している。
「ナ~イス。 良い腕だナ!」
「追い込み助かります」
積極的に声をかける事も忘れない。 高ランクプレイヤーだけあって経験が違う。
今回のミッションは敵の精鋭――強化された蟻型エネミーとの戦闘だ。
五十機の蟻型エネミーはイベント戦で出現したのと同型だが、強化されているのか動きがかなり良い。
対するヨシナリ達の編成は前衛をツガルとポンポン、ニャーコの『豹変』の二人が行い、後衛がヨシナリとまんまる。 ヨシナリは身を隠しつつ狙撃で敵を削り、まんまるが砲で火力支援だ。
最後にフカヤが身を隠しつつ数を減らす。 即席のチームではあるがバランスも良く、個々の技量が高いので連携もスムーズだ。
敵は瞬く間に数を減らし――最後の一機をポンポンが撃墜して完了となった。
「うえ~い! おつかれだゾ!」
「うえ~い! お疲れー」
ポンポンとツガルがウエーイとテンション高めでニャーコとまんまる控えめにお疲れ様です小さく会釈。 それに合わせるようにフカヤもぼそぼそと「お疲れです」と呟く。
「即席のチームだから結構、連携がギクシャクするかと思ったがいい感じだナ!」
「敵の時は厄介だったけど味方だといいパスくれるな。 頼りになるぜ!」
「お前もナ! 上手に敵を引き付けてくれるからやり易かったゾ! 加点!」
二人のやり取りを見ながらヨシナリも手応えを感じていた。
同じ面子と組んで連携を高めるのも重要だが、違う相手と組んで刺激を得る事も必要だ。
特に高ランクのプレイヤーから摂取できる経験は何物にも代えがたい。
ミッションを片付けた後、ツガルが使用許可を取った『栄光』のユニオンホームの一室へ移動しての感想戦の最中だ。
「――キマイラにこだわってるのは偏りを防ぐ為か?」
「それもあるけど可変機って格好よくね?」
リプレイ映像を見ているとポンポンとツガルが、キマイラタイプの話をしていたので丁度いいとヨシナリは会話に割り込む。
「俺もキマイラタイプを買うつもりなんですけど、お勧めとか使ってていい所、悪い所とか聞かせて貰ってもいいですか?」
「ってかお前、Fランでキマイラ狙いとか贅沢な奴だな! ま、キマイラユーザーの俺としては使用人口が増えるのは大歓迎だから特別に教えてやるぜ」
キマイラタイプ。 様々な亜種は存在するが、共通しているのは可変機能を備えている事だ。
様々な動物を模した形態。 それにより通常の人型では機動力が落ちる悪路や地形を物ともせずに性能を発揮する。 中でも最もスタンダードなもので、最も使用人口の多いのはノーマルのキマイラタイプ。
スタンダードというだけあって扱いやすく。 優れた性能は多くのプレイヤーに愛されている。
戦闘機形態への変形は空中での機動性を大きく引き上げ、戦場を切り裂くように飛ぶ姿は空中戦の華と言えるだろう。
「何よりも可変時の最大加速は積んでいるエンジンやジェネレーターにもよるがエンジェルタイプも超える」
「でも、トップスピードに乗るまでに時間がかかるがナ」
「ぐ、た、確かにそうだが、乗っちまえばそう追い付かれないぜ」
「後、旋回性能もエネルギーウイングに比べれば劣るから直線的な動きは読まれやすいゾ」
「そこは空戦機動を使いこなせればいくらでも補えるって」
「そうだが、割とハードル高いゾ? だったら素直にエンジェルタイプ狙いの方が楽だナ」
「……お前、凄っげぇディスるじゃねーか」
「あのナ、人に薦めるんだったら良い所だけじゃなくて悪い所も教えないとフェアじゃないだろ」
どうやら敢えて欠点を上げていたようだ。
「折角買ったパーツを使いたい気持ちは分からなくもないが、フレームってのは気軽に買える代物じゃねーんだ。 金は有限だから高い買い物をするなら長所だけじゃなく、短所にも目を向けるんだナ」
「ま、そーだな。 ただ、パーツの組み合わせ次第ではスペック的にエンジェルタイプと充分に戦り合えるレベルには持って行ける。 エンジェルタイプを使わないって割り切るならキマイラでAランク目指すってのも手だぜ?」
「そこは否定しない。 高いがエンジェルタイプと同水準のジェネレーターを積めばスペック面でも充分に戦えるレベルにはなるゾ。 ただ、総合的に見るとエネルギー兵器の使用効率はエンジェルタイプの方が上になるナ」
「ってかそれやるならエンジェルタイプ買えって話になっちまうな!」
「はっはっは、やっぱキマイラ駄目じゃないか?」
ポンポンの返しが面白かったのかツガルが笑う。
ヨシナリも釣られて笑う。 非常に面白い話だ。
「そういえばエンジェルタイプの話ってあんまり聞けてないんですけど、エネルギーの管理とかどうしてるんですか?」
気が付けば機体の情報交換会になっていたが非常に有意義な時間だった。
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