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第207話
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「――え?」
思わず声が漏れる。 そこには見覚えのある機体が居たからだ。
忘れもしない防衛イベント戦の最終局面。 圧倒的な力で数多のプレイヤーを虐殺し、ラーガストと死闘を繰り広げた機体。 あの機体がハンガーでメンテナンスを受けていたのだ。
――いや、何で? こいつ設定上、敵じゃなかったのか?
何で人類側の設備でメンテナンスを受けてるんだ? いや、デバッグ作業はゲームおける舞台裏。
敵味方は関係ないのか。 寧ろ、このレアな光景を見れてラッキーと思う場面なのかもしれない。
作業の手を止めずにじっと見つめる。 バイザー型の頭部は高感度のセンサーシステムを積んでいると見ていい、胴体にも色々と積んでそうだがそれ以上に下半身のフロートが目を引く。
ラーガストとエイコサテトラの反応と動きに軽々と付いて行っていたのだ。
凄まじい性能である事は疑いようがない。 それ以上に操っていたプレイヤーが凄まじい。
こいつの攻撃手段は分離した腕部パーツの遠隔操作だ。 このゲームにおける精密操作ができる誘導兵器はオートとマニュアルが存在するが、前者であるならあらかじめ決められた行動を取るだけなので動きに型のようなものが存在する。 要はこれはしないといった行動の死角だ。
だが、後者であるならその死角は消え失せるが、自機との並列操作といった無茶を乗り越えなければならない。 自機を含めて腕の操作を行うなんて真似はヨシナリには出来そうもなかった。
並列処理できる脳力とも呼べる特殊な技能が必要になる。 自機の操作を最低限にできるのなら辛うじて扱えはするかもしれないが、ラーガストの攻撃を捌きながらはもはや人外の域だ。
――俺ならどう対処する?
遠隔操作の腕をどうにか無効化――EMPの類で動きを封じられるか?
いや、Sランク相当のプレイヤーだ。 その程度の対策は行っている。
ヨシナリは指示された荷物をエレベーターに運び入れながら思考を回す。
資材置き場に戻る度に視界に入る謎の機体を見ながら考える。
やはり実物が目の前にあるとイメージしやすい。
――問題は腕なんだよなぁ……。
あの機体は見えている範囲では攻撃と防御の全てを腕に依存している。
腕の操作と追加を短時間でも無効化しなければ話にならない。
この手のタイプに最も効果的なのはラーガストがやったようなゴリ押しだが、それを跳ね返すスキルまで持っているのでまるで勝てる気がしない。 特に戦闘時の挙動は明らかにラーガストの動きを読んだ上での回避だ。
――模擬戦の相手してくれないかなぁ……。
あの回避のテクニックは自分のプレイとは別次元だが、自分なりに取り込めそうな部分はあった。
もっと間近で見れば何かが分かるかもしれない。 そうこうしていると指示された荷物も最後になってしまった。 少々名残惜しいが引き上げの時間かと最後のコンテナに手をかけようとした時だ。
例の機体の頭部が動いた。 人間で言うと目が合ったような状態となってしまった。
――ヤベ、中身居たのかよ。 ガン見してるのバレたか。
だとしたら少し失礼な事をしてしまったかもしれない。
謎の機体はじっとこちらを見ていたがややあってその腕が持ち上がる。
――な、なんだ? もしかして怒らせたか?
やや身構えたが、謎の機体は腕の砲を左右に揺らす。
一瞬、何をやってるんだこいつはと思ったが、ややあって手を振っていると気が付いたので手を振り返した後、小さく会釈してコンテナを抱えるとその場を後にした。
運び終わった段階でヨシナリの仕事は終わったらしく、地上へと戻ると指示を出していたアバターがありがとうと言わんばかりに両手をぶんぶんと振っている。
ヨシナリとしては貴重なPを頂けるのでこちらこそありがとうと手を振り返した。
ウインドウにミッション完了の表示と末尾に小さく「thank you!」と出ていたのは初めてだった。
ヨシナリは内心で首を捻る。
――もしかして何か困っていたのだろうか?
よく分からないが困っていた人が助かったのだからいい事をしたなと前向きに考えて報酬を確認するとちゃんとPが入っていたが追加のミッションをこなしたお陰らしくいつもより多かった。
普段なら50Pなのだが、今回はなんと200Pも入っている。
「ふぉぉ! これはデカい! ヤバいな、前のイベントクリアに貰ったPもまだ使ってないしこれはアレを買うべきなのではないか?」
前々から死ぬほど欲しかった装備。
超高感度複合センサーシステム『シックスセンス』。 性能もそうだが、頭部に内蔵するタイプなので見た目からは装備していると分からないほどに小型化されている事もあって超が付く高級品だ。 アルフレッドが使っている装備で同期した際に借りる形で使用したのだが、凄まじい性能だった。 敵機のエネルギーの流れまで視える性能はなるほど、フレームと同等の値段がするのも頷ける。
少し前まで買えもしないのにショップ画面を開く度に飽きもせずに見つめていた装備だ。
欲しい、欲しい、これがあれば自分はもっともっと強くなれる。 強くしてくれる。
そう確信できる程の代物だった。 値段を見るとギリギリではあるが買える。
本当ならアノマリーの上位互換の複合銃――実弾、エネルギー弾をレンジ関係なく撃ち分けができる高性能銃の購入を検討していたのだが、こんな臨時収入を寄越されては欲望を抑えられないじゃないか。
――理性は囁く。 止めておけ、今は堅実に行くところだろ? 総合力の強化に専念するべきだ。
ヨシナリは理性の言葉に一理あると思ったが、欲望がこう反論した。
――あの無敵と錯覚するような全能感をまた――いや、常に味わいたくないか?と。
気が付けばヨシナリは購入ボタンを押していた。 理性は秒で欲望に屈したのだ。
メニューに追加された『シックスセンス』を見てヨシナリは歓喜のあまりに呼吸が変になった。
ユニオンホームに誰も居なくて本当に良かった。 今の自分はアバター状態にもかかわらず挙動が不審だったからだ。 こんな醜態を見られたら死にたくなってしまう。
それほどまでにヨシナリは興奮していた。 手が震える。
ついに、ついに念願のアイテムを手に入れたのだ。 ここまでテンションが上がるのはいつ以来だろうか? そんな疑問は即座にどうでもいいと切り捨て、早速装備させようとウインドウを操作。
震える手でボタンを押すと――「エラー、規格不一致」と出た。
ヨシナリは呆然とそのウインドウを見て数秒の硬直を経た後に膝から崩れ落ちた。
思わず声が漏れる。 そこには見覚えのある機体が居たからだ。
忘れもしない防衛イベント戦の最終局面。 圧倒的な力で数多のプレイヤーを虐殺し、ラーガストと死闘を繰り広げた機体。 あの機体がハンガーでメンテナンスを受けていたのだ。
――いや、何で? こいつ設定上、敵じゃなかったのか?
何で人類側の設備でメンテナンスを受けてるんだ? いや、デバッグ作業はゲームおける舞台裏。
敵味方は関係ないのか。 寧ろ、このレアな光景を見れてラッキーと思う場面なのかもしれない。
作業の手を止めずにじっと見つめる。 バイザー型の頭部は高感度のセンサーシステムを積んでいると見ていい、胴体にも色々と積んでそうだがそれ以上に下半身のフロートが目を引く。
ラーガストとエイコサテトラの反応と動きに軽々と付いて行っていたのだ。
凄まじい性能である事は疑いようがない。 それ以上に操っていたプレイヤーが凄まじい。
こいつの攻撃手段は分離した腕部パーツの遠隔操作だ。 このゲームにおける精密操作ができる誘導兵器はオートとマニュアルが存在するが、前者であるならあらかじめ決められた行動を取るだけなので動きに型のようなものが存在する。 要はこれはしないといった行動の死角だ。
だが、後者であるならその死角は消え失せるが、自機との並列操作といった無茶を乗り越えなければならない。 自機を含めて腕の操作を行うなんて真似はヨシナリには出来そうもなかった。
並列処理できる脳力とも呼べる特殊な技能が必要になる。 自機の操作を最低限にできるのなら辛うじて扱えはするかもしれないが、ラーガストの攻撃を捌きながらはもはや人外の域だ。
――俺ならどう対処する?
遠隔操作の腕をどうにか無効化――EMPの類で動きを封じられるか?
いや、Sランク相当のプレイヤーだ。 その程度の対策は行っている。
ヨシナリは指示された荷物をエレベーターに運び入れながら思考を回す。
資材置き場に戻る度に視界に入る謎の機体を見ながら考える。
やはり実物が目の前にあるとイメージしやすい。
――問題は腕なんだよなぁ……。
あの機体は見えている範囲では攻撃と防御の全てを腕に依存している。
腕の操作と追加を短時間でも無効化しなければ話にならない。
この手のタイプに最も効果的なのはラーガストがやったようなゴリ押しだが、それを跳ね返すスキルまで持っているのでまるで勝てる気がしない。 特に戦闘時の挙動は明らかにラーガストの動きを読んだ上での回避だ。
――模擬戦の相手してくれないかなぁ……。
あの回避のテクニックは自分のプレイとは別次元だが、自分なりに取り込めそうな部分はあった。
もっと間近で見れば何かが分かるかもしれない。 そうこうしていると指示された荷物も最後になってしまった。 少々名残惜しいが引き上げの時間かと最後のコンテナに手をかけようとした時だ。
例の機体の頭部が動いた。 人間で言うと目が合ったような状態となってしまった。
――ヤベ、中身居たのかよ。 ガン見してるのバレたか。
だとしたら少し失礼な事をしてしまったかもしれない。
謎の機体はじっとこちらを見ていたがややあってその腕が持ち上がる。
――な、なんだ? もしかして怒らせたか?
やや身構えたが、謎の機体は腕の砲を左右に揺らす。
一瞬、何をやってるんだこいつはと思ったが、ややあって手を振っていると気が付いたので手を振り返した後、小さく会釈してコンテナを抱えるとその場を後にした。
運び終わった段階でヨシナリの仕事は終わったらしく、地上へと戻ると指示を出していたアバターがありがとうと言わんばかりに両手をぶんぶんと振っている。
ヨシナリとしては貴重なPを頂けるのでこちらこそありがとうと手を振り返した。
ウインドウにミッション完了の表示と末尾に小さく「thank you!」と出ていたのは初めてだった。
ヨシナリは内心で首を捻る。
――もしかして何か困っていたのだろうか?
よく分からないが困っていた人が助かったのだからいい事をしたなと前向きに考えて報酬を確認するとちゃんとPが入っていたが追加のミッションをこなしたお陰らしくいつもより多かった。
普段なら50Pなのだが、今回はなんと200Pも入っている。
「ふぉぉ! これはデカい! ヤバいな、前のイベントクリアに貰ったPもまだ使ってないしこれはアレを買うべきなのではないか?」
前々から死ぬほど欲しかった装備。
超高感度複合センサーシステム『シックスセンス』。 性能もそうだが、頭部に内蔵するタイプなので見た目からは装備していると分からないほどに小型化されている事もあって超が付く高級品だ。 アルフレッドが使っている装備で同期した際に借りる形で使用したのだが、凄まじい性能だった。 敵機のエネルギーの流れまで視える性能はなるほど、フレームと同等の値段がするのも頷ける。
少し前まで買えもしないのにショップ画面を開く度に飽きもせずに見つめていた装備だ。
欲しい、欲しい、これがあれば自分はもっともっと強くなれる。 強くしてくれる。
そう確信できる程の代物だった。 値段を見るとギリギリではあるが買える。
本当ならアノマリーの上位互換の複合銃――実弾、エネルギー弾をレンジ関係なく撃ち分けができる高性能銃の購入を検討していたのだが、こんな臨時収入を寄越されては欲望を抑えられないじゃないか。
――理性は囁く。 止めておけ、今は堅実に行くところだろ? 総合力の強化に専念するべきだ。
ヨシナリは理性の言葉に一理あると思ったが、欲望がこう反論した。
――あの無敵と錯覚するような全能感をまた――いや、常に味わいたくないか?と。
気が付けばヨシナリは購入ボタンを押していた。 理性は秒で欲望に屈したのだ。
メニューに追加された『シックスセンス』を見てヨシナリは歓喜のあまりに呼吸が変になった。
ユニオンホームに誰も居なくて本当に良かった。 今の自分はアバター状態にもかかわらず挙動が不審だったからだ。 こんな醜態を見られたら死にたくなってしまう。
それほどまでにヨシナリは興奮していた。 手が震える。
ついに、ついに念願のアイテムを手に入れたのだ。 ここまでテンションが上がるのはいつ以来だろうか? そんな疑問は即座にどうでもいいと切り捨て、早速装備させようとウインドウを操作。
震える手でボタンを押すと――「エラー、規格不一致」と出た。
ヨシナリは呆然とそのウインドウを見て数秒の硬直を経た後に膝から崩れ落ちた。
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