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第206話
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――手応えがあった。
ヨシナリは内心で小さく拳を握る。
今回は格上が相手だったにもかかわらずマルメルの損耗のみでの勝利。
反省点も分かり易く、何故そうなったのかも理解できる。
今回の模擬戦は非常に実りのある内容だった。 少なくとも自分の戦い方は充分に格上に通用するという事が証明されただけでも充分に過ぎる。
チームメイトの適切な運用法に関しても確立しつつあった。
ふわわは無理に連携を意識する、させるから失敗するのであって初めから好きにやらせてこちらが合わせる形での連携を取ればスムーズに行く。
次にマルメル。 今回、やられたのは単純に性能、技量で負けたという事もあるが、新しく装備したハンドレールキャノンに意識が向きすぎていた。 明らかに一発狙いたがっていたので意識がやや散漫になった結果、撃破を許す事となったとヨシナリは思っている。
一応、やんわりと当人には伝えたので問題ないだろう。
ユニオンホームでヨシナリはソファーに背を預けて天井を眺める。
マルメルとふわわは既にログアウトしたので誰もいない。 考える事はこの先の事だ。
三人での連携は形になった。 このまま練度を高めていけば完成度は上がるが、進化は頭打ちになる。
「――やっぱり面子かぁ……」
ポンポンやツェツィーリエ達が勧誘に熱心なのは人数が多ければ多いほど有利なのを理解しているからだ。 特にここ最近は人数を要求されるイベントが多い。
対抗戦やイベント戦を見ればそれが顕著である事はヨシナリにも分かっている。
ただ、同時に闇雲に人数を増やす事もリスクがあると思っているので、あまり積極的に勧誘を行いたいと思えないのも事実だった。 もっと強くなりたい、もっと上手くなりたい、もっと勝ちたい。
その為に努力し、その手段として人数を求める。 至極真っ当な思考と着地点だ。
だが、それは楽しいという前提があってこそとヨシナリは思っている。
欲しいとは思っても条件に合致するプレイヤーがいないのだ。
探すべきかなとは思っているが、探して見つかるのかとも同時に思っていたので結局、巡り合わせかと言い訳をして先送りにしてしまう。
サーバー対抗戦に備えて何かできる事はないのだろうか?
そんな事を考えていると画面の端に小さなアイコンがポップアップ。
緊急ミッションの通知だ。 ヨシナリは一瞬前までの考えを放り捨てて即座に受注する。
いつもの注意書きを軽く流し見して同意ボタンを押して開始。
早々に移動が始まり、長いロード時間を経て風景がユニオンホームから切り替わる。
移動した先は前回と同様に惑星ユーピテルの衛星イーオーを模した場所だったが、前回と比べると大きく様変わりしていた。 工場のようなものが立ち並び、巨大な宇宙船らしきものが行き交っている。
――そんなに日数が経っていないのに凄いなぁ……。
開拓が相当進んでいるのはデバッグ作業に目途が立ったので早送りにしたのか――
考えても答えの出る問題ではないのでヨシナリは前回と同様の作業用の機体を操って指定された場所へと移動する。 今回は出航する船への荷運びだ。
割り当てられた場所に到着すると足元に居るアバターがぶんぶんと両手を振っているので、ヨシナリは手を振り返して作業を始める。 内容通り荷物を受け取って船内の指定の位置へと運ぶだけ。
しかも画面上にどこに置けばいいかの指示も入っているのでしくじりようがない。
それにこの機体を扱うのにも慣れてきたので段々と楽しくなってきたヨシナリはテキパキと仕事を片付けていく。 ヨシナリはこういった地味な作業を苦としないので、搬入予定の荷物がどんどん減っていく様子を見てモチベーションも上がる。
「まぁ、こんなものかな?」
片付いた搬入予定の荷物を見てヨシナリはそう呟いた。
思ったより早く片付いたなと機体を操作して伸びをする事でまだまだやれますよとアピールすると指示を出していたアバターが手に持っている端末を操作している。 その結果なのか、ウインドウに追加ミッションを受注しますかと選択肢が出て来た。 美味しい報酬が貰える予感しかしないので当然、受諾を選択。 また、長い警告文が現れる。
適当に読み飛ばし――最後の部分で視線が止まる。
赤字で書かれているからだ。 内容は要約するとこの施設はこのゲームにおける重大なネタバレを含んでいるので口外を一切禁ずる。 破った場合、ゲーム規定通りの罰則が適応されると書かれていた。
Pを報酬としているのは口止め料も含んでいるんだろうなとは思っているので了承する。
受注が決定した所でアバターが小さく手招き。 同時に画面に移動経路が表示される。
近くにある施設へと向かい中へ。 外部の音声は制限されているので無音だが、足元から伝わる振動で施設内で何らかの装置が稼働している事だけは分かった。
――何か前の大規模イベントで見た施設に似てるなぁ。
そんな事を考えながら広い廊下を真っすぐに進み資材の搬入出に使用しているであろうトルーパーサイズの巨大なエレベーターに乗って地下へ。 到着した先は何かの工場なのか――いや、違うなと思い直す。
資材が詰め込まれているコンテナが多かった事もあるが、奥には機体のメンテナンスに使用するであろうハンガーが複数あったからだ。
――修理工場? いや、補給拠点?
以前にプレイしたゲームで似たような物を見た事があった。
そのゲームでは資材の集積所の奥に機体のハンガーがあるのは急造で作られたからだ。
前線が近いのでいち早く修理と補給を済ませて戦力を戦場へと戻す。 突貫で用意された結果、様々な用途を兼ねた施設となっている。
今後のイベントで使うのだろうか?
だとしたら敵の侵攻によって危機が迫っているので前線を支えつつ損傷したらここに戻ってきて補給と修理を行う。 そんな感じの内容だろうか?
だとしたら戦場は宇宙空間になる可能性は高い。
――宙間戦闘の特訓もしておくべきなのだろうか?
似たようなゲームはやった事はあるが、ICpwほどのクオリティのゲームでは経験がないので可能であれば練習しておきたい。 なるほど、これは割と重大なネタバレだ。
ちょっと楽しみになったじゃないか。 そんな事を考えつつ荷物を持ち上げつつおもむろに視線を奥のハンガーへと向ける。 どんな機体があるのかなといった好奇心からだったのだが――
ヨシナリは内心で小さく拳を握る。
今回は格上が相手だったにもかかわらずマルメルの損耗のみでの勝利。
反省点も分かり易く、何故そうなったのかも理解できる。
今回の模擬戦は非常に実りのある内容だった。 少なくとも自分の戦い方は充分に格上に通用するという事が証明されただけでも充分に過ぎる。
チームメイトの適切な運用法に関しても確立しつつあった。
ふわわは無理に連携を意識する、させるから失敗するのであって初めから好きにやらせてこちらが合わせる形での連携を取ればスムーズに行く。
次にマルメル。 今回、やられたのは単純に性能、技量で負けたという事もあるが、新しく装備したハンドレールキャノンに意識が向きすぎていた。 明らかに一発狙いたがっていたので意識がやや散漫になった結果、撃破を許す事となったとヨシナリは思っている。
一応、やんわりと当人には伝えたので問題ないだろう。
ユニオンホームでヨシナリはソファーに背を預けて天井を眺める。
マルメルとふわわは既にログアウトしたので誰もいない。 考える事はこの先の事だ。
三人での連携は形になった。 このまま練度を高めていけば完成度は上がるが、進化は頭打ちになる。
「――やっぱり面子かぁ……」
ポンポンやツェツィーリエ達が勧誘に熱心なのは人数が多ければ多いほど有利なのを理解しているからだ。 特にここ最近は人数を要求されるイベントが多い。
対抗戦やイベント戦を見ればそれが顕著である事はヨシナリにも分かっている。
ただ、同時に闇雲に人数を増やす事もリスクがあると思っているので、あまり積極的に勧誘を行いたいと思えないのも事実だった。 もっと強くなりたい、もっと上手くなりたい、もっと勝ちたい。
その為に努力し、その手段として人数を求める。 至極真っ当な思考と着地点だ。
だが、それは楽しいという前提があってこそとヨシナリは思っている。
欲しいとは思っても条件に合致するプレイヤーがいないのだ。
探すべきかなとは思っているが、探して見つかるのかとも同時に思っていたので結局、巡り合わせかと言い訳をして先送りにしてしまう。
サーバー対抗戦に備えて何かできる事はないのだろうか?
そんな事を考えていると画面の端に小さなアイコンがポップアップ。
緊急ミッションの通知だ。 ヨシナリは一瞬前までの考えを放り捨てて即座に受注する。
いつもの注意書きを軽く流し見して同意ボタンを押して開始。
早々に移動が始まり、長いロード時間を経て風景がユニオンホームから切り替わる。
移動した先は前回と同様に惑星ユーピテルの衛星イーオーを模した場所だったが、前回と比べると大きく様変わりしていた。 工場のようなものが立ち並び、巨大な宇宙船らしきものが行き交っている。
――そんなに日数が経っていないのに凄いなぁ……。
開拓が相当進んでいるのはデバッグ作業に目途が立ったので早送りにしたのか――
考えても答えの出る問題ではないのでヨシナリは前回と同様の作業用の機体を操って指定された場所へと移動する。 今回は出航する船への荷運びだ。
割り当てられた場所に到着すると足元に居るアバターがぶんぶんと両手を振っているので、ヨシナリは手を振り返して作業を始める。 内容通り荷物を受け取って船内の指定の位置へと運ぶだけ。
しかも画面上にどこに置けばいいかの指示も入っているのでしくじりようがない。
それにこの機体を扱うのにも慣れてきたので段々と楽しくなってきたヨシナリはテキパキと仕事を片付けていく。 ヨシナリはこういった地味な作業を苦としないので、搬入予定の荷物がどんどん減っていく様子を見てモチベーションも上がる。
「まぁ、こんなものかな?」
片付いた搬入予定の荷物を見てヨシナリはそう呟いた。
思ったより早く片付いたなと機体を操作して伸びをする事でまだまだやれますよとアピールすると指示を出していたアバターが手に持っている端末を操作している。 その結果なのか、ウインドウに追加ミッションを受注しますかと選択肢が出て来た。 美味しい報酬が貰える予感しかしないので当然、受諾を選択。 また、長い警告文が現れる。
適当に読み飛ばし――最後の部分で視線が止まる。
赤字で書かれているからだ。 内容は要約するとこの施設はこのゲームにおける重大なネタバレを含んでいるので口外を一切禁ずる。 破った場合、ゲーム規定通りの罰則が適応されると書かれていた。
Pを報酬としているのは口止め料も含んでいるんだろうなとは思っているので了承する。
受注が決定した所でアバターが小さく手招き。 同時に画面に移動経路が表示される。
近くにある施設へと向かい中へ。 外部の音声は制限されているので無音だが、足元から伝わる振動で施設内で何らかの装置が稼働している事だけは分かった。
――何か前の大規模イベントで見た施設に似てるなぁ。
そんな事を考えながら広い廊下を真っすぐに進み資材の搬入出に使用しているであろうトルーパーサイズの巨大なエレベーターに乗って地下へ。 到着した先は何かの工場なのか――いや、違うなと思い直す。
資材が詰め込まれているコンテナが多かった事もあるが、奥には機体のメンテナンスに使用するであろうハンガーが複数あったからだ。
――修理工場? いや、補給拠点?
以前にプレイしたゲームで似たような物を見た事があった。
そのゲームでは資材の集積所の奥に機体のハンガーがあるのは急造で作られたからだ。
前線が近いのでいち早く修理と補給を済ませて戦力を戦場へと戻す。 突貫で用意された結果、様々な用途を兼ねた施設となっている。
今後のイベントで使うのだろうか?
だとしたら敵の侵攻によって危機が迫っているので前線を支えつつ損傷したらここに戻ってきて補給と修理を行う。 そんな感じの内容だろうか?
だとしたら戦場は宇宙空間になる可能性は高い。
――宙間戦闘の特訓もしておくべきなのだろうか?
似たようなゲームはやった事はあるが、ICpwほどのクオリティのゲームでは経験がないので可能であれば練習しておきたい。 なるほど、これは割と重大なネタバレだ。
ちょっと楽しみになったじゃないか。 そんな事を考えつつ荷物を持ち上げつつおもむろに視線を奥のハンガーへと向ける。 どんな機体があるのかなといった好奇心からだったのだが――
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