上 下
206 / 338

第206話

しおりを挟む
 ――手応えがあった。

 ヨシナリは内心で小さく拳を握る。
 今回は格上が相手だったにもかかわらずマルメルの損耗のみでの勝利。
 反省点も分かり易く、何故そうなったのかも理解できる。

 今回の模擬戦は非常に実りのある内容だった。 少なくとも自分の戦い方は充分に格上に通用するという事が証明されただけでも充分に過ぎる。
 チームメイトの適切な運用法に関しても確立しつつあった。

 ふわわは無理に連携を意識する、させるから失敗するのであって初めから好きにやらせてこちらが合わせる形での連携を取ればスムーズに行く。 
 次にマルメル。 今回、やられたのは単純に性能、技量で負けたという事もあるが、新しく装備したハンドレールキャノンに意識が向きすぎていた。 明らかに一発狙いたがっていたので意識がやや散漫になった結果、撃破を許す事となったとヨシナリは思っている。

 一応、やんわりと当人には伝えたので問題ないだろう。
 ユニオンホームでヨシナリはソファーに背を預けて天井を眺める。
 マルメルとふわわは既にログアウトしたので誰もいない。 考える事はこの先の事だ。

 三人での連携は形になった。 このまま練度を高めていけば完成度は上がるが、進化は頭打ちになる。 

 「――やっぱり面子かぁ……」

 ポンポンやツェツィーリエ達が勧誘に熱心なのは人数が多ければ多いほど有利なのを理解しているからだ。 特にここ最近は人数を要求されるイベントが多い。
 対抗戦やイベント戦を見ればそれが顕著である事はヨシナリにも分かっている。

 ただ、同時に闇雲に人数を増やす事もリスクがあると思っているので、あまり積極的に勧誘を行いたいと思えないのも事実だった。 もっと強くなりたい、もっと上手くなりたい、もっと勝ちたい。
 その為に努力し、その手段として人数を求める。 至極真っ当な思考と着地点だ。

 だが、それは楽しいという前提があってこそとヨシナリは思っている。
 欲しいとは思っても条件に合致するプレイヤーがいないのだ。
 探すべきかなとは思っているが、探して見つかるのかとも同時に思っていたので結局、巡り合わせかと言い訳をして先送りにしてしまう。

 サーバー対抗戦に備えて何かできる事はないのだろうか? 
 そんな事を考えていると画面の端に小さなアイコンがポップアップ。 
 緊急ミッションの通知だ。 ヨシナリは一瞬前までの考えを放り捨てて即座に受注する。

 いつもの注意書きを軽く流し見して同意ボタンを押して開始。
 早々に移動が始まり、長いロード時間を経て風景がユニオンホームから切り替わる。
 移動した先は前回と同様に惑星ユーピテルの衛星イーオーを模した場所だったが、前回と比べると大きく様変わりしていた。 工場のようなものが立ち並び、巨大な宇宙船らしきものが行き交っている。 

 ――そんなに日数が経っていないのに凄いなぁ……。

 開拓が相当進んでいるのはデバッグ作業に目途が立ったので早送りにしたのか――
 考えても答えの出る問題ではないのでヨシナリは前回と同様の作業用の機体を操って指定された場所へと移動する。 今回は出航する船への荷運びだ。

 割り当てられた場所に到着すると足元に居るアバターがぶんぶんと両手を振っているので、ヨシナリは手を振り返して作業を始める。 内容通り荷物を受け取って船内の指定の位置へと運ぶだけ。
 しかも画面上にどこに置けばいいかの指示も入っているのでしくじりようがない。

 それにこの機体を扱うのにも慣れてきたので段々と楽しくなってきたヨシナリはテキパキと仕事を片付けていく。 ヨシナリはこういった地味な作業を苦としないので、搬入予定の荷物がどんどん減っていく様子を見てモチベーションも上がる。

 「まぁ、こんなものかな?」

 片付いた搬入予定の荷物を見てヨシナリはそう呟いた。
 思ったより早く片付いたなと機体を操作して伸びをする事でまだまだやれますよとアピールすると指示を出していたアバターが手に持っている端末を操作している。 その結果なのか、ウインドウに追加ミッションを受注しますかと選択肢が出て来た。 美味しい報酬が貰える予感しかしないので当然、受諾を選択。 また、長い警告文が現れる。

 適当に読み飛ばし――最後の部分で視線が止まる。 
 赤字で書かれているからだ。 内容は要約するとこの施設はこのゲームにおける重大なネタバレを含んでいるので口外を一切禁ずる。 破った場合、ゲーム規定通りの罰則が適応されると書かれていた。

 Pを報酬としているのは口止め料も含んでいるんだろうなとは思っているので了承する。
 受注が決定した所でアバターが小さく手招き。 同時に画面に移動経路が表示される。
 近くにある施設へと向かい中へ。 外部の音声は制限されているので無音だが、足元から伝わる振動で施設内で何らかの装置が稼働している事だけは分かった。

 ――何か前の大規模イベントで見た施設に似てるなぁ。

 そんな事を考えながら広い廊下を真っすぐに進み資材の搬入出に使用しているであろうトルーパーサイズの巨大なエレベーターに乗って地下へ。 到着した先は何かの工場なのか――いや、違うなと思い直す。
 資材が詰め込まれているコンテナが多かった事もあるが、奥には機体のメンテナンスに使用するであろうハンガーが複数あったからだ。 

 ――修理工場? いや、補給拠点?

 以前にプレイしたゲームで似たような物を見た事があった。
 そのゲームでは資材の集積所の奥に機体のハンガーがあるのは急造で作られたからだ。
 前線が近いのでいち早く修理と補給を済ませて戦力を戦場へと戻す。 突貫で用意された結果、様々な用途を兼ねた施設となっている。

 今後のイベントで使うのだろうか? 
 だとしたら敵の侵攻によって危機が迫っているので前線を支えつつ損傷したらここに戻ってきて補給と修理を行う。 そんな感じの内容だろうか?

 だとしたら戦場は宇宙空間になる可能性は高い。 

 ――宙間戦闘の特訓もしておくべきなのだろうか?

 似たようなゲームはやった事はあるが、ICpwほどのクオリティのゲームでは経験がないので可能であれば練習しておきたい。 なるほど、これは割と重大なネタバレだ。
 ちょっと楽しみになったじゃないか。 そんな事を考えつつ荷物を持ち上げつつおもむろに視線を奥のハンガーへと向ける。 どんな機体があるのかなといった好奇心からだったのだが――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

人工子宮

木森木林(きもりきりん)
SF
この小説は、産婦人科専門医・生殖医療専門医でもある筆者が、人工知能マッチングや人工子宮という架空設定を持ち込んでいますが、現在の産婦人科医療や不妊治療をベースに書きました。 昨今、結婚されない人も増え、また男女とも結婚が遅くなり、挙児を希望しても妊娠しにくいカップルも5組に1組と増えています。 妊娠しにくい原因は色々と考えられますが、「女性加齢」も原因になり、35歳くらいから妊娠率は低下し、流産率が上昇します。これは卵子数の減少と質的低下によるものと考えられます。 体外受精など生殖補助医療による出生児は29216万9797人であり、国内総出生児に対する割合は8.6%(11.6人に1人)になっています。 もちろん「妊娠出産しなければならない」ことはないのですが、「妊娠出産しやすい」「子育てしやすい」環境に向け、私達はどうしたらよいのでしょう?まずは、妊娠出産、不妊治療のことを知っていただきたいと書きました。 挿し絵は医学生時代からの友人「kinZoさん」が描いてくれました。ありがとう!

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...