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第199話

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 「このタイミングならあたしを仕留められるとか思ったかァ? 舐めてんじゃねーゾ!」

 ポンポンは無理に距離を詰めるような真似はせずに飛んできた辺りを確認し、隠れられそうな位置に当たりを付けてエネルギーライフルを撃ち込む。 こちらが相手の場所を把握していないと悟られないように確信を持っているように見せて撃つ。 

 ――まぁ、外したら捕捉できていないのがバレるんだがナ。

 着弾するが反応なし。 我慢しているのか本当にそこにいないのか。
 ちらりとニャーコの方を見ると機動力を活かしつつ距離を取って射程外から一方的に攻撃している。
 ポンポンはよしよしと彼女の動きに内心で小さく頷く。 あの調子ならしばらくは完全に釘付けにできる。 

 少ししか見ていないがあの刀使いは危険だ。 射撃武器を一切使ってこないのは飛び道具に自信がないか、近接戦に絶対の自信があるかのどちら――あるいは両方か。
 ポンポンから見ても大したものだった。 引き金を引くタイミングで回避。
 
 エネルギー弾は基本的に直進するので射線にいなければまず当たらない。 
 恐ろしいまでの反射神経と動体視力だ。 加えて、接近する際の踏み込み。
 アレは秀逸だった。 微妙に緩急を付けて相手の反応を遅らせている。

 声をかけなければニャーコは間違いなくやられていた。 

 ――近接スキルに限って言えばあたしより上と見た方がいい。

 暫定で95点。 
 距離という分かり易い弱点がある以上、そこを突けばどうにかなる相手と言う認識だ。
 今の所はだが。 最終的な採点は試合が終わってからになる。

 ポンポンの基準ではニャーコは85点。 まんまるは90点だ。
 そもそも彼女は60点以下の奴は足を引っ張りかねないと思っているので少人数での戦闘では60点以上でないと組む事に抵抗がある。 彼女の眼と指摘は鋭く深く、それ故に癖が強く相性が悪いと機能しないといった欠点があるが、この『豹変』というユニオンは彼女の特性を最大限に活用できているといえるだろう。

 最初の一人が90点以上であるなら残りも同格と見た方が無難だ。
 ポンポンは敵ならどうするかと行動を予測する。 相手は格上、セオリー通りなら一対一は避けて三人で一機ずつ落としていくのがベストだが、近接機――ふわわの挙動で読めなくなった。

 あれだけ強いなら単騎で動かしても一定の成果を上げるだろう。
 なら残りの二機でどう仕掛ける? ポンポンなら相手の選択肢を減らしたいのでまんまるを落としたいと思うが、まんまるの機体はプリンシパリティだ。 エンジェルタイプの中では高性能機で特に火力と防御に比重を置いた機種なので、ソルジャータイプの火力で仕留めるのは少し手間だ。

 知っているのならかなり思い切った手が必要となるが、恐らくは先に司令塔である自分を落としに来る可能性もある。 わざわざ姿を見せた事で攻撃を誘ったのだが、消極的にではあるが乗ってきた。
 意図に気付かれている可能性もある。 追加を撃って来ないのがその証左だ。

 つまり今の一撃は自分を釘付けにする為の楔。 なら、狙いは何だ?
 自分を抑えている以上、自分以外のどちらかだ。 まんまるは簡単には落ちない。
 なら消去法で一つしか選択肢は残らなかった。

 「ニャーコ! そっちに伏兵――」

 ポンポンは援護に入ろうとしたが再度狙撃。 

 ――ウザい!

 牽制なのは分かるが今ので位置が割れた。 
 そのまま仕留めに行ってもいいが、敵の思惑を潰した方が効果的だ。
 ニャーコの援護に向かおうとしたが、敵からすればそれで十分だったらしい。

 「にゃ!? こっちを集中攻撃!?」

 隠れていたであろう中距離戦機が腰にマウントされた短機関銃と突撃銃で弾幕を張る。
 現れたタイミングが秀逸だった。 近接機から距離を取る為に移動した先に隠れていたからだ。
 恐らくは逃げる方向を誘導された。 見事な奇襲と言えるが、ニャーコはBランク。

 格下の奇襲程度では簡単には落ちない。 エネルギーシールドを展開。
 これはエネルギーフィールドのように機体全体を覆う訳ではないが、範囲を絞っている分防御力は高い。 実弾、エネルギー両面で対応できる非常に便利な盾ではあるが、燃費が余り良くないので乱用はあまり推奨されない装備だ。 今の奇襲は秀逸だったが、しっかりと防げている。

 ニャーコは上空。 近距離機体――ふわわは地上。 
 奇襲を仕掛けたマルメルというプレイヤーはビルの屋上。
 位置的にも問題は――ポンポンの思考は視界を切り裂いたエネルギー弾に掻き消された。

 一瞬遅れてニャーコの機体の胴体に風穴が開く。 

 「は?」

 意味が分からなかった。 いや、何が起こったのかは分かる。
 狙撃だ。 敵の指揮官機、ヨシナリの位置はさっき把握したばかり。
 北側のビルの隙間。 問題は狙撃が南から飛んできた事だ。

 どういう事だと北側を最大望遠にすると確かに見えた。 狙撃銃が。
 三脚ではなく回転式の土台のようなものに乗っているだけ。 そこに機体の姿はない。
 
 「遠隔操作。 それであの精度の狙撃をするのか!?」

 狙いが正確だったので失念していた。 同時にポンポンの中で急速にパズルが組み上がる。
 恐らく敵の動きはこうだ。 ふわわが目立つ形で突出。
 その間にマルメルが北、ヨシナリが南から回り込む形で気配を消しつつ移動。 

 マルメルが指定のポイントに狙撃銃を設置、その間にふわわはニャーコをマルメルのいる北側へと誘導。 マルメルは狙撃銃を仕掛けたポイントから移動しつつニャーコに奇襲。
 ヨシナリはセットされた狙撃銃を遠隔操作して自らの位置を誤認させる事で南側への警戒を削ぐ。

 そして遠隔操作がバレる前にマルメルが仕掛けてニャーコの足を止めた所を一撃。
 明らかに最初からニャーコだけを狙った動きだ。 僅かに遅れてまんまるの砲が狙撃銃を蒸発させるがもう遅い。  

 「嘘だろ? ニャーコがこんなにあっさり?」

 洒落になっていなかった。 やられた事もだが、相手はFランク。
 つまり階級が四つも下の連中に良いように手玉に取られたのだ。
 甘く見過ぎた? いや、自分の判断に大きなミスはなかったと思いたいが、ポンポンには分からなかった。 ただ、目の前の敵を格下と侮る真似はもうできない。 全力で叩き潰さなければならなくなった。 

 自分はこれからAランクに挑むのだ。 こんな事で躓いていられない。
 ポンポンは冷静さに僅かな怒りを混ぜて現状の打開を図る。
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