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第186話

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 「なんつーかシンプルに強いって感じだったな」
 「前回の防衛戦の大型エネミーと同格ぐらいの相手だから決して勝てない相手じゃないんだよ」
 
 単純に戦力が足りなかっただけで撃破自体は可能な相手だった。
 
 「俺としてはそれより倒したはずのイカが出てきたところが気になるな」
 「あぁ、普通に後ろから出てきやがったからな。 あれ復活したのか?」 
 「……もしかしたら目玉片っぽ残したからやろうか?」

 マルメルは首を傾げ、ふわわは少し沈んだ声で考察を口にする。
 確かに目玉を片方破壊した時点で形状を維持できずに崩壊したが、もしかすると形状を保つ為に二つ必要なだけで時間経過で破壊された目玉が復活するという話はあり得なくはないだろう。

 「その可能性はなくはありませんが、個人的にはそんな感じの敵に見えませんでしたけどね」
 「そう?」
 「えぇ、あのイカは本質的には水風船みたいな構造なので目玉型のデバイスで操っているだけの液体の塊ってのが俺の感想です。 だから穴を開けられて中身の汁が零れるのを嫌がってましたからね」
 「いや、汁って……」
 「まぁ、取り合えず、今日の所は休みましょう。 流石に明日には決着は着いてると思うんで、負けてたら大手のユニオンが大規模な反省会みたいなのをするっぽいのでそれに混ざって情報を集めましょう」

 これはついさっきツガルから入ったメールに書いてあったので確定だ。
 ちなみにヨシナリ達が脱落した後、メガロドン型二体の猛攻の前に全滅したとの事。 
 イベントが決着した後、全体的に声をかけて情報の交換会を行おうと思っているらしい。

 良かったらそれに参加しませんかというお誘いだったので、ヨシナリは即答。
 行くに決まっている。 現在のプレイヤーの脱落状況を見れば勝てる訳がない。
 復刻はほぼ確定と見ていいだろう。 なら、それに備えて次回はより上手く立ち回る為に少しでも情報を得ておかなければならない。

 「そやね。 んじゃぁ、今日はお疲れ様ー。 ふひー久しぶりやったしで疲れたわー」
 「俺も落ちるわ。 お疲れ、またな!」

 二人はそのままログアウト。 ヨシナリも疲れたので続く形でログアウトする。


 ヨシナリから嘉成へ。
 アバターから元の肉体へと戻った彼はそのままふらふらとベッドに倒れ込む。
 しばらく無言でそうしていたが胸の内側から悔しさがふつふつと沸き上がる。
 
 「あぁ、畜生。 あのサメ野郎、絶対にぶっ殺してやる」

 考えるのはイベントの事だ。 メガロドン型は重装甲とエネルギーフィールドさえ剥がせば充分に殺せる。 初見で準備不足だったと言いたいところではあるが、言い訳にしかならない。
 たらればを言っても仕方ないが、あの結末を回避する方法は確かに存在したのだ。
 
 大暗斑の中にエネミーが居たという情報があったのに基地まで向かってくるといった発想はあったが、猶予があると甘く見ていた。 奪ったスパルトイの性能に目が眩んだ?
 その直後に相性の悪い相手をぶつけて来たところを見ると慢心を打ち砕き、動揺させる為の配置?

 それに何故あのタイミングで二体も同時に攻めて来た? 宇宙からの観測映像では大暗斑は一つしか確認されていない。 仮に他があったとしても相当離れていたはずだ。 
 真っすぐにこちらに向かってきたのは何故だ? 地下のイカ型エネミーに関しても疑問が多い。

 復活したのか別固体なのか不明な以上、考察する為の情報が圧倒的に不足している。
 比較的、簡単に処理できた点からも復活は考えにくい。 ふわわはああ言っていたが、ヨシナリの見解としては追加が湧いたと考えている。 目を閉じてイベント戦を反芻していると徐々に意識が遠のいていき――すうすうと規則正しく寝息を立て始めた。 

 
 目を覚ました嘉成は真っ先にイベントの結果を確認すると当然ながら失敗。
 プレイヤーの全滅までの時間は二十時間四十三分。 取り合えず二か月以内に開催されるイベントは決まったようなものだった。 それに伴い、大規模ユニオンが参加自由でイベントの情報交換会を行うという事で参加者を募っている。 ツガルに誘われたイベントだ。

 開催は翌日、場所はユニオン『思金神おもいかね』のホーム。
 恐らくこのサーバー内では最も大きなユニオンだ。 このゲーム攻略にかなり力を入れており、複数のAランクを抱え、所属プレイヤーの規模は三十万を超える。 とんでもない数だ。

 人数が多い事から情報収集に長けており、前回の防衛戦に関しても敵の戦力構成から対処法などの立ち回りに関しての虎の巻を配っていたらしい。 イベント戦に関する貢献度で言えば最大といえるユニオンと言われている。 参加人数は無制限なのでマルメルとふわわを誘ったが、ふわわは人が多すぎる話し合いの場は疲れそうだからパスとの事。

 正直、知らない人の多い場所は少し行き辛いなと思っていたのでマルメルが来てくれるのは素直にありがたかった。 時間をしっかりと空ける為に他の予定を片付けるべく、嘉成は学校から出ている課題へと取り掛かる。 


 翌日。 マルメルと合流したヨシナリは指定されたエリアへと飛び「思金神」のユニオンホームに着いたのだが――

 「いや、凄いな。 マジで」
 「何だこれ? 前に見た『栄光』のホームも大概だったけどこっちはそれ以上だな」

 ヨシナリは呆然とマルメルは乾いた笑いを漏らす。
 まず目の前にはとてつもなく広い石段が広がりその先には巨大な門。
 形状から寺でよく見るそれだ。 左右にはこれまた巨大な、三十メートルクラスの阿形あぎょう像・吽形うんぎょう像と呼ばれる所謂、金剛力士像が立っている。

 門を抜けた先には寺院でも広がっているのかと思ったが、予想に反して内部は近代的だった。
 高層ビルに大小様々な建物、ホームというよりは大都市といった方が適切だ。
 
 「なぁ、思金神ってどういう意味なんだ?」
 
 歩いているとマルメルが黙って歩きたくないのかそんな話を振ってきた。
 
 「俺も詳しくは知らないけど旧日本・・・の神話に出てくる神様か何かだったと思う」
 
 この世界には国家と呼ばれる物はたったの一つしか存在しない。
 統一国家アメイジア。 わざわざ統一と銘打っているだけあって、アメイジアが成立する前は大小様々な国家が存在していた。 その全ての国が統合された事で統一国家となったのだ。

 少なくともヨシナリの習った歴史ではそうなっている。 
 日本はヨシナリ達が生活しているエリアの古い名前だ。 ただ、言語に関しては日本語が用いられているので、日本という単語自体の馴染みは深い。
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