上 下
184 / 284

第184話

しおりを挟む
 一先ず自力で動けない損傷機体は地下に残して上へと戻るが――

 「あぁ……マジかよ……」

 ヨシナリは思わず呟く。 少し見ない間に堅牢な建物は随分と風通しが良くなっていた。
 何故なら天井がなくなっていたからだ。 それをやった相手はすぐに分かった。
 空を見上げればそこにいたからだ。 はっきりと姿を見た訳ではないが、その威容は間違えようがない。

 巨大なサメ型エネミー。 全長は五百――いや、七百メートル以上はある。
 以前に現れたイソギンチャク型やクラゲ型も大概だったが、それ以上がもう出てくるとは思わなかった。
 凄まじい重装甲に無数の砲口、ミサイルポッド、巨体にこれでもかと詰め込まれた武装からは標的を必ず消し去ろうといった鋼のような意志を感じる。

 間違いなくフカヤ達を仕留めたのはこいつだ。 その証拠にこのイベントステージに吹いていた風が全くない。 理由はここが大暗斑の中――嵐の中心だからだ。
 
 「撃て撃て撃ちまくれ!」「畜生、何喰らわせれば死ぬんだこいつは!」
 「考えてる余裕がねぇ!」「クソ、折角基地を落としたのにこれかよ!」
 
 嵐の中は電波状態が良いのかやたらとクリアになった通信環境からは味方機からの無数の絶望による悲鳴が聞こえる。
 
 「黙って見てる訳にもいかねぇ。 援護に行くぞ!」

 ツガルが機体を変形させて突っ込み、高機動の機体がそれに続く。
 ヨシナリも呆けている場合じゃないと行動を開始する。 ツガル達は上を取ろうと急上昇、ヴルトム達は射線の通らない側面を取ろうと移動を開始。 ヨシナリは全体を俯瞰できる位置へ。

 マルメルは無言でヨシナリの後に続く。 ふわわは「ウチも行って来るね」と早々に突っ込んでいった。 止める余裕もなかったのでそのまま行かせる。
 まずは現在の状況の把握に努めるべく、戦場の敵味方の現状確認だ。 

 まずは敵。 見えている範囲では巨大サメ型エネミー――あれは恐らくメガロドンという巨大サメだろう。 映画で見たメガロドンがあんな感じだったはずだ。
 取り敢えずヨシナリはあのエネミーをメガロドン型を呼称する。 とにかく敵はメガロドン型一体。
 
 攻撃手段は――滅茶苦茶だ。 全身に搭載されている火器を絶え間なくばら撒くだけの飽和攻撃。
 止まる気配は一切ない。 高出力のレーザー、ガトリング砲、ミサイル。
 現状、主砲のような飛び抜けた火力を持った武装は見えていないが、そんなものは必要ないだろう。

 攻撃の密度がこれまで見て来たボスエネミーの比ではない。 近いのは蝦蛄型と合体したクラゲ型だ。
 だが、前者は攻撃密度は高かったが、ミサイルのみだったので躱す事は充分に可能だった。
 後者は取り込んだ兵器の武装を使用しており凄まじい手数ではあったが、無秩序に生えた銃口や砲口には死角が多かった。 要は充分に付け入る隙はあったのだ。

 だが、あのメガロドン型はそれ以上だ。 圧倒的な火力、そして死角を消すように配置された武装。
 無秩序に攻撃をばら撒いているように見えるが、よくよく見ればトルーパーの数が多い場所を狙いつつ、射線に基地が入るようにポジショニングしている。 明らかに敵に奪われた拠点の破壊を目的としていた。 守りに関しても堅牢だ。 
 
 重装甲は生産した重機関銃ですら大した損傷を与えられず、エネルギー兵器による攻撃は展開したフィールドが弾く。 

 ――これどうすりゃいいんだよ。

 防衛戦と違って限られたメンバーでこのクラスのエネミーの処理を押し付けられるのは理不尽すぎる。
 全プレイヤーで処理するのであればラーガストを筆頭としたハイランカーが力を合わせればそう難しい相手ではないだろう。 だが、この広い惑星に戦力が分散している現状では非常に難しい。

 この集団にAランクはカナタしかいないのだ。 レーダー表示を確認すると彼女が健在である事は分かっているが、単騎では厳しいと言わざるを得ない。
 実際、カナタはメガロドン型の周囲を動き回りながら攻撃を仕掛けているが、フィールドの突破が出来ていない。 正確には出来ているのだが、そこまでなのだ。

 彼女の武器である大剣――『レンテンローズ』が最大限に効果を発揮する為の隙が無いのだ。 
 フィールドに穴を開ける為に一撃、内部に入った後に二撃目を繰り出す為のチャージ時間が作れずに離れざるを得ない。 どうやらエネルギー兵器を無効化するフィールドは中に入ってしまうと無視できるようだ。 

 ――その割にはメガロドン型は内側から撃ちまくっているんだが……。

 理不尽だと思ったが、文句を言っても仕方がない。
 今の戦力でもっとも成果を期待できるのはカナタだが、彼女の力を最大限に発揮する為の環境が不足してる。 味方機はヨシナリ達の出発前は合計で五百三十機いたのだが、現在戦闘中の機体は約百五十機。

 半分以下まで減っていた。 対する相手はほぼ無傷。
 これは非常に厳しいと言わざるを得ない。 敵味方の戦力比を考えると撤退も視野に入れた方がいい。
 今回の戦いは侵攻戦であって殲滅戦ではないのだ。 無理に敵を全滅させる必要はない。

 確かにあのメガロドン型は生かしておくと碌な事にならないので後顧の憂い断つという意味でもここで処理しておきたいのだが、全滅してしまっては意味がないのだ。
 現有戦力では勝てない。 撤退が最も最善の選択。 

 それがこの戦場を分析したヨシナリの出した答えだった。 
 
 「カナタさん。 ちょっといいですかね?」

 通信。 相手はカナタだ。 

 『なに? いまちょっと忙しいんだけど?』

 余裕がないのか明らかに迷惑そうだったが、ヨシナリは構わずに続ける。

 「逃げましょう。 あいつを仕留めたいならAランクがもう二、三人要ります」
 『……この状況で逃げろって?』
 「はい、この状況の突破が無理だってのはカナタさんの方が分かってるんじゃないですか?」
 
 カナタは僅かな間、沈黙。 

 『――そうね。 私も気が回らなかったわ。 皆! 聞いて、これから地下まで下がる! 攻撃を継続しつつ後退するわ!』

 判断が早い。 カナタはユウヤが絡まなければ優秀な人間だと思っていたが、ヨシナリの意見をあっさり採用するとは思わなかった。 

 「外に偵察に行った人達は――」
 『もうとっくに合流してこの数よ。 詳しい話は後、先に降りて――逃げなさい!』
 
 カナタの鋭い警告と同時に誰かに突き飛ばされる。 
 何だと振り返るとヨシナリ達が出て来た地下への穴から蛍光色の触腕が噴き出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

影の刺客と偽りの花嫁

月野さと
恋愛
「隣国の若き王を、暗殺せよ」そう勅命を受けた魔術師フィオナ。世界を揺るがす、残忍で冷酷無慈悲な王、エヴァンを暗殺するために、王の婚約者に変身してなりすまし、暗殺しようと企てるが・・・・。 実際に王に会ってみると、世界中で噂されている話とは全然違うようで?!イケメンで誠実で優しい国王を、殺すに殺せないまま、フィオナは葛藤する。夫婦を演じて体を重ねるごとに、愛情が湧いてしまい・・!! R18です。 そして、ハッピーエンドです。 まだ、完成してないので、ゆっくりと更新していきます。 週1回を目指して更新します。良かったらのんびり読んでください。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

BLゲームの当て馬悪役令嬢に転生してしまいました!

あきづきみなと
ファンタジー
ふと気がついたら豪華な部屋の、やっぱりめっちゃ豪華な寝台に横たわっていた。 ナニコレ、ココハドコ、ワタシハダレ? 「私」は公爵令嬢ローズマリー。豪華な部屋はローズマリーの子ども部屋。 そしてここは、18禁BLゲーム『堕ちたる楽園に清廉な華はさき初める』通称『堕ち華』の世界。孤児の主人公が騎士の道を志し、その過程でイケメンをつかまえてはのりかえていく、成り上がり系主人公総愛され世界なのだ。 ローズマリーは、主人公の住む領地を治める公爵の一人娘。そして最終的には、法律上の旦那が主人公を溺愛するための、お飾りの妻にされる。 もちろんその途中での妨害もかます悪役だが。メインヒーローである攻略対象はそもそもローズマリーの婚約者だ。そんな相手を誑し込もうという方が問題じゃないのか!? 別ルートなら、そこまでローズマリーには影響しない、と思われるものの。別ルートだと今度は隣国との関係がこじれたりする。(その場合のヒーローは隣国の公爵) めっちゃめんどくせー!! だけどお飾りにされて監禁の挙げ句衰弱死とかしたくないし、隣国の戦争になったりしたら国境の領地がヤバいし! しゃーねぇな、がんばるか! BLゲーム、とついていますが語り手の主役は女性でかつ腐女子でもありません。 内容紹介で「主人公」と言われているゲーム主人公は性格に難有り。所謂『ヒドイン』寄りです。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

雨の日の幻想

くるっ🐤ぽ
ファンタジー
雨の向こうに見た幻。

処理中です...