上 下
180 / 411

第180話

しおりを挟む
 ツガルの声はやや疲れている様で、上での激闘が窺える。

 「いや、あいつらマジできつい。 ボスとセンドウさんは無事だが、イワモトさんがやられちまった。 他にも結構な数のメンバーが脱落しちまってな。 正直、そろそろ補給と整備が要る」
 「だったらこっちまで来てください。 俺達は施設の地下を制圧したんですが、トルーパー用のハンガーと装備の生産工場があったので補給と整備が出来ます」
 「マジかよ、そりゃ助かる。 場所は地下でいいのか?」
 「はい、地下二階フロアですね。 敵の出現は止まってますが、敵自体が消えた訳じゃないので気を付けてください」
 「了解だ。 折角、制圧したのに生き残りに差されて脱落なんて笑えないからな。 ――ってそういえばそっちの調査の話を聞いてなかったな。 フカヤは――やられたか。 何があったんだ?」 
 
 ヨシナリは大暗斑で見たものについての話をするとツガルは小さく唸る。

 「あぁ、あれってやっぱりただの嵐じゃないんだな」
 「はい、敵が起こしている現象で内部にデカいエネミーがいます。 過去のイベントでもそうでしたが、基本的にあのレベルのボスは無策で挑むと碌な事になりません」
 「――だな。 まぁ、居場所が分かり易くなった事は素直に朗報か」
 
 ツガルの言う通りだった。 通信制限は施設が何らかの手段で妨害している様で制圧が済めば範囲が大きく拡大しており、センサーやレーダー表示の範囲もまた同様だった。
 ツガル曰くこの基地周辺はある程度見えるようになったとの事。 だからと言って視界までクリアになる訳ではないので過信は禁物だ。

 ――それにしても。

 このイベント、思った以上に消耗する。
 前回は十二時間という長時間ではあったが、明確なタイムリミットが存在したのでそこまで気にはならなかった。 しかし攻守が逆転するとこうまで消耗するのかとヨシナリは内心で溜息を吐く。
 
 このイベントのクリア条件はこの惑星内に存在する全ての施設を攻略する事だ。
 明らかに百や二百では利かない数を陥落させる必要がある。 たった一つでこの有様だ。
 果たしてこの惑星自体を陥落させる事など可能なのだろうか? ここにきてヨシナリは惑星という途方もなく広大なフィールドに挑む事の意味を理解した。

 それでも他のプレイヤーが何とかしてくれる。 自分はほどほどに頑張ればいい。
 そんな甘えが心のどこかに多少なりとも存在するが、通信が断絶されたこの環境ではそれも許されない。 もしかしたら自分たち以外は全滅しているのかもしれないといった想像をしてしまうと早く動かなければといった焦燥感まで感じてしまうのだ。

 ヨシナリは内心で首を振って良くない考えを追い出した。
 今考える事はそれではない。 とりあえずはここを完全制圧する事に意識を集中して後の事はその時にでも考えればいい。 先の事を考えすぎると碌な事にならないなと思いながら、ツガルとの情報交換を続けた。


 『栄光』のメンバーを中心にこの施設の探索を行い、残った敵機の処理も済ませて完全に制圧した事を確認したので生き乗った味方機の整備と補給、後はスパルトイなどでの強化を行う。
 一部のプレイヤーは疲労を抜く為に機体をハンガーに預けてログアウトを行う者もいた。

 今回『栄光』中心に集まったユニオン連合は総数で二千五百機前後。
 生き残ったのは五百三十機。 五分の一しか残らなかった事がここでの激戦を物語っていた。
 補給と整備が一通り済んだ所で今後の方針を決める為の場が設けられる。

 中心は当然カナタだ。 

 「皆! お疲れ様! これからの方針が決まったから聞いて欲しい!」
 
 事前に各ユニオンの代表との話し合いは済ませているので発表というよりは確認作業に近い。
 カナタは良く通る声で注目を集める。 通信も開いているので外で警戒に当たっている者達も彼女の言葉と姿に注目しているだろう。

 「この施設の調査も一通り済んだのでその結果を踏まえて部隊を三つに分けます。 一つは外に出て味方の捜索とこの周辺の調査。 大暗斑がボスエネミーと言う事だったので他にも何らかの手段で身を隠している大型エネミーが居るかもしれないので基地の安全を確保する意味でも必要な作業です」

 大暗斑のような分かり易い自然現象を隠れ蓑にしているのならまだマシではあるが、地中に隠れているなんて事も充分にあり得るので確認は必要だ。 同時に孤立している味方が居ればどうにか合流して戦力の増強を狙いたいといった思惑もあった。 ここを制圧する際に全体の八割が持って行かれたのだ。

 今は一機でも数が欲しい。
 
 「次にこの基地の防備の強化。 幸いにも奥の工場ではプレイヤー所有の装備――購入して所持済みになっている装備は自由に生産できるので防衛用の兵器を生産して設置作業を行います」

 奥の工場で生産できる代物はデフォルトでは敵の使っていた装備だが、プレイヤーの所持装備――正確には購入して持ち込みが可能になっている武装は製作が可能となっている。
 つまりセントリーガンを保有している者が生産のオーダーを出すと自由に作り出す事が可能だ。

 その機能を利用して地雷やセントリーガンを基地周辺に配置して防備を固める。
 どちらにせよここで腰を落ち着けて攻略する事は決定している上、長丁場になるのは目に見えているので拠点の強化は必要だ。 

 「最後にこの地下に広がっている巨大通路の調査」

 これはついさっき発見された物だ。 地下一階にトルーパーが通れるような巨大な縦穴があったので発見者が降りて調べたらかなり巨大な通路があった。 位置的にはヨシナリ達が居る地下二階フロアよりも更に下だ。
 大きさ、長さ、そして方向を考えると他の拠点に繋がっている可能性が高い。

 本当に拠点があった場合は引き上げて攻略の為に策を練る形になるので目的はあくまで偵察だ。
 拠点を手に入れはしたが戦力的に不安がある事には変わりがない。 

 「――参加はユニオン単位で考えていまずが、他に混ざりたい人は申告するようにしてください! クリアまで頑張りましょう!」

 カナタの締めの言葉に各々頷きや返事で返すのを危機ながらヨシナリは自分はどう動くべきかと考えていた。
 


 「ヨシナリ! 見てくれよ! これすげえな!」

 スパルトイと重機関銃を装備したマルメルが自機を見せびらかすようにその場で回って見せる。

 「実際、凄いぞ。 使った俺が言うから間違いない」
 「ウチは重たいのは嫌ややからこっちかなぁ」

 ふわわの機体には腰にエネルギーウイングが二基取り付けられていた。 
 
 「本来ならエンジェルタイプ専用やのにソルジャータイプに互換性のある上位パーツとかほんまに反則やわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ
SF
 愛犬の死をキッカケに、最新VRMMOをはじめた女子高生 犬飼 鈴 (いぬかい すず)は、ゲーム内でも最弱お荷物と名高い不遇職『召喚士』を選んでしまった。  右も左も分からぬまま、始まるチュートリアル……だが戦いの最中、召喚スキルを使った鈴に奇跡が起こる。  ご主人様のピンチに、死んだはずの愛犬コタロウが召喚されたのだ! 「この声? まさかコタロウ! ……なの?」 「ワン」  召喚された愛犬は、明らかにファンタジーをぶっちぎる姿に変わり果てていた。  これはどこからどう見ても犬ではないが、ご主人様を守るために転生した犬(?)と、お荷物職業とバカにされながらも、いつの間にか世界を救っていた主人公との、愛と笑いとツッコミの……ほのぼの物語である。  注意:この物語にモフモフ要素はありません。カッチカチ要素満載です! 口に物を入れながらお読みにならないよう、ご注意ください。  この小説は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

処理中です...