Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第179話

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 さて、奪ったこの設備で何ができるのかというと、まずは機体のメンテナンスと補給。
 ここまでの戦いで蓄積した消耗を回復できる事と、奥にある生産設備で武器と弾薬の補充。
 どうやって補充するのかというと端末を操作して味方に機能使用を開放すると、このフロアに居る間はウインドウに操作メニューが表示される。 ハンガーが扱えるという事で半数が早速機体を預けてメンテナンスを開始し、残りの半分が警戒。 敵のリポップが止まったとはいえ、内部に残っているかもしれないので気は抜けない。 

 ヨシナリは機能開放に使用した端末を弄っていたのだが、奥の工場の機能が一部まだ扱えないようでロックがかかっていた。 内心で眉を顰めながら何だと調べてみると管理者権限の半分が敵のままなので使用不可と表示される。 状況からカナタと戦っていた銀の機体が怪しい。

 恐らくそれを仕留めればここは完全にプレイヤーの拠点となるのだろうが――

 「マジかよ」

 思わず呟く。 権限を完全に奪うとどうなるのかが分かって思わず声を漏らす。
 スパルトイを始め、汎用エネルギーウイング、エネルギークロー等、ソルジャータイプでも扱える敵の装備を生産可能という凄まじい機能が解放されると記されていた。

 スパルトイを量産できるのは非常にありがたい。 
 重機関銃も同様に生産可能らしいので戦力の大幅な向上が期待できる。 
 スパルトイも大概だが、汎用エネルギーウイングも凄まじい。 装着すると機動力がエンジェルタイプに大きく近づくので完全に別物になるだろう。 スペックも参照できるので確認すると凄まじい性能ではあるが、いい事ばかりではなさそうだった。 

 燃費の悪さだ。 ソルジャータイプ規格のジェネレーターでは全開で噴かした場合、早々にガス欠に陥るので手放しで便利とはいえなさそうだった。
 それともう一点。 この施設に存在する通信設備の解放。 

 それを行うと大きく制限されていた通信制限が緩和されるようだ。 
 このステージは敵地である関係で通信できる距離が非常に短く設定されているので、ヨシナリもマルメル達と通信できるようになったのは施設内に入ってからだった事を考えるとどれだけ短いのかが良く分かる。 恐らくはここで行っている通信妨害を解除する事によって影響下にあるエリアでの通信が自由になるといった所だろう。 

 ――なるほど。

 少しだけこのイベントのクリア方法が見えて来た。
 最初に提示されたクリア条件はこの惑星に存在する全ての基地の制圧、もしくは破壊だ。
 馬鹿正直に正面から行ったところで息切れするのは目に見えている。 行動範囲が惑星丸ごと一つなのだ。 考えて動かないと時間がいくらあっても足りない。

 「いや、本当の狙いは別か……」

 ヨシナリはウインドウを操作しながらそう呟く。
 恐らくだが、前回のイベントを踏まえての構成なのだろう。
 前回の最後に現れたイソギンチャク型、ウツボ型のエネミー。 あれは次元が違う強敵だった。
 
 普通にやればまず全滅しているほどの戦闘能力だ。 だが、プレイヤー側が勝利した。
 何故だ? 答えは明白でラーガストが居たからだ。 
 最強のSランクプレイヤー。 たったの一機で戦況を変えるほどの圧倒的な実力者。

 今回のイベントは前回と違い参加の制限がない。 ハイランカーも最初から参戦する事が可能だ。
 あの戦いを見ていた低ランクのプレイヤーは少なからずこう思った者も居るだろう。

 ――ハイランカーが居れば何とかしてくれる。

 彼等が居ればどんな絶望的な状況でも引っ繰り返せる。
 そう思わせてくれるほどに前回のイベントでの活躍は鮮烈な物だった。
 運営もそれを理解しているのだろう。 だからこのイベントの構成はそれに対するアンサーの一つだとヨシナリは思っていた。

 ラーガストのエイコサテトラは凄まじい戦闘能力を誇るがたったの一機しかいない。 
 一機でこの広大な惑星一つをカバーするなんて真似は不可能だ。 このイベントをクリアするには全てのプレイヤーが一致団結する事が必須となる。 効率良く拠点を制圧し、味方の領域を広げていく。

 制圧拠点が増えれば通信可能範囲も広がり、情報の共有も可能となる。
 情報の共有が可能となれば現在の進捗や味方間の連携も取り易くなり、不測の事態への対応や危機を伝える事により警戒を促す事もできるだろう。 このイベント戦で最も厄介な点は敵ではなく、他の味方がどうなっているのかを確認できない事にあるのかもしれない。

 連携を分断されている以上、独自に行動しなければならないのだ。
 大暗斑のボスエネミーの事もある。 最低限、情報の共有が可能な状況を作らなければ話にならない。
 あれこれと弄っている間に制圧率が百パーセントへと変わる。 この様子だと地上でカナタが敵機を撃破したのだろう。 ヨシナリは内心でありがたいと思いながら端末を操作。

 通信の制限と装備生産の制限を解除、これで敵トルーパーが使っていた装備をこちらでも扱える。
 
 「ヨシナリさん。 行けそうか?」
 
 いいタイミングで整備待ちのヴルトムのアバターが近寄ってきたので、伝達は任せても良さそうだ。
 
 「ちょうどよかった。 どうやらここで敵の装備を生産できるみたいなので皆の装備を更新しましょう」
 「装備って事は俺達もスパルトイを扱えるのか?」
 「みたいです。 こっちからの命令コマンドを受け付けるので早速、奥で生産を開始しますね。 できた奴を適当に持って行ってください」
 「うおお! 皆! 奥で装備の無料レンタルやってるってよ!」

 ヴルトムは興奮気味に仲間達に報告し、奥で生産が開始されたスパルトイの完成を並んで待ち始めた。
 ヨシナリも一通り見たのでホロスコープをハンガーに預け、その間に他にやるべき事を片付けるべくウインドウを操作。 通信が回復したので外で戦っているであろう味方との連絡を取る。

 相手はツガルだ。 カナタの方が良いのだろうが、ヨシナリはユウヤの時に一悶着あって以来、彼女の事が少し苦手だったので比較的、話しかけやすいツガルに連絡する事にしていた。

 「――ヨシナリか?」

 少しの間を空けてツガルが応答する。

 「どうも。 敵の施設の機能を抑えたので報告しようかと思って。 そっちの状況はどうです? ボスらしき機体を倒したのは把握しているんですが……」
 「あぁ、だから通信ができるのか。 敵が湧かなくなったのもお前らの仕業かよ。 マジで助かったぜ!」
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