上 下
175 / 411

第175話

しおりを挟む
 恐らくだが別にボスクラスの敵がいるのだろう。 
 カナタは厄介な高機動型を抑え、残りは中にいるであろう敵の対処に忙しいと。
 センドウは執拗に弾丸を打ち込み続けていたが、弾が切れたと同時に回避運動。

 彼女を追うようにミサイルの群れが建物から飛び出す。 センドウは弾の切れた狙撃銃をミサイルに投げつけ急降下。 ミサイルは凄まじい誘導性能で彼女の機体を追う。
 彼女の機体はキマイラタイプでも四つ足形態になるキマイラパンテラだ。 空中戦は得意ではない。
 
 空中で変形。 建物の壁面に張り付いて走る。 
 ミサイルは彼女の背に喰らいつかんと追いかけているが、いい位置だった事もあってヨシナリは重機関銃を連射。 彼女を追っていたミサイル撃墜する。

 先頭のミサイルを潰した事で他にも誘爆。 センドウの機体は爆発の余波で多少、バランスを崩していたが無傷だった。 ヨシナリに気付いたのかセンドウは人型形態に変形した後、小さく頭を下げて見せると建物の中へと飛び込んだ。 どうやら中は中でかなり苦戦しているらしい。

 カナタはカナタで銀のエネミーとの激しい空中戦は決着する気配はなかった。
 味方の援護が入っていない時点で余裕がない事は明らかだ。 中もセンドウの様子から厳しいというのは見て取れる。 

 ――行くか?

 突入。 ホロスコープの性能を考えれば無謀な選択肢だが、今は敵から奪った強化装甲がある。
 これと同様に奪った重機関銃があれば突破は難しいが不可能ではない。
 ただ、可能性を上げるなら頭数が欲しいのだが――
 
 「中に行くんだろ? 俺達も行くぜ」

 声をかけられて振り返るとヴルトムがユニオンメンバー数名連れてそこに居た。
 
 「ヴルトムさん」
 「俺達みたいのでも居ないよりはマシだろ」

 ヴルトムが連れて来たのは「大渦」のユニオンメンバーで彼を含めて全部で十機。
 内七機がⅠ型だが、敵機から奪った重機関銃を装備している。
 
 「充分です。 行きましょう」
 「俺も敵から強化装甲を奪おうとしたんだけどあれは自発的に脱がせないと駄目だから奪うのはあまり現実的じゃない。 ヨシナリさんはラッキーだったな」
 「ですね。 その幸運を中の連中におすそ分けしに行きましょう」
 「いいねぇ。 プランは?」
 
 ヴルトムの質問にヨシナリは笑って答える。

 「そんなものはありません。 正面突破します」
 「最高かよ。 んじゃぁ、美味しい場面に出くわせるように急ごうか」


 強襲装甲『スパルトイ』。機体とは別に動力源となるジェネレーターを二基搭載しており、装着すれば追加の出力を得られる。 加えて重装甲は並の銃弾を跳ね返し、あらゆる環境を物ともしない。
 固有武装としては炸薬式のパイルバンカー、そして目玉となるのが防御性能だ。
 
 詳細は不明だがエネルギーアーマー、要は装甲表面に障壁を展開し攻撃を無効化する事ができる。
 実弾はほぼ弾き返すので無効。 例の重機関銃ですら七割から八割の威力をカット。
 光学兵器は完全に無効化するという馬鹿げた防御性能ではあるが、起動までのタイムラグと燃費の悪さと言う欠点があるので恒常的に展開できない点だろう。

 裏を返せば使い方を誤らなければ非常に強力な装備といえる。
 少なくとも実際に使用したヨシナリの所感としては装備しているだけでAには届かないが、ランク二つから三つ分の性能差を埋める事ができると思っていた。 
 
 ――そしてその考えは正しいといえる。

 「全機、俺の後ろに。 突っ込みます!」

 足裏に搭載されていた無限軌道が唸りを上げ、ホロスコープが加速する。
 鈍重になりはしたが、大きく増加した出力はそれを捻じ伏せての高速移動を可能とした。
 ヴルトム達の機体がホロスコープの背後へ。 当然ながら敵機が立ち塞がるが、ヨシナリは両手に持った重機関銃で派手に弾丸をばら撒く。 敵機は咄嗟にシールドを展開しようとしているが、使うタイミングが遅すぎる。 

 「使うんならもっと早くしないと意味ねーぞ!」

 次々とエネミーと敵トルーパーを破壊していく。 
 二つの銃口は景気よく銃弾を吐き出すが、いくら大容量のマガジンであろうとも無限に入っている訳ではない。

 「リロード!」

 ヨシナリがそう叫ぶと後ろについていた機体がマガジンを交換。
 銃本体の上部に円盤状のマガジンを差し込むだけの非常に単純な仕組みなので給弾係からすればやり易かった。 

 「ありがとうございます。 危ないので俺の後ろへ!」

 礼を言って射撃再開。 リロードの隙はヴルトム達が埋める。
 敵の応射はシールドで防ぐ。 無数の銃弾が命中するがシールドによって威力を殺されて大したダメージにならない。 

 「はっはぁ! ごきげんな性能だなその装備! 楽しくなってきたんじゃないか!?」
 「分かります? 基本、狙撃で遠くからチクチクやるだけなんで正面から突っ込んで弾ばら撒くのすっげー気持ちいですね!」

 テンションの上がったヴルトムの質問にちょっと楽しくなってきたヨシナリが元気よく返す。
 施設の正面に陣取っている敵の一団をハチの巣にしたヨシナリはそのまま突っ込む。
 中はもっと敵で埋め尽くされているものかとも思ったがそうでもなかったようだ。
 トルーパーが十数機居るだけだったので、そのまま一掃して奥へ。 足を止めると囲まれる危険があるので常に動き回っておくことが重要。 スパルトイは優秀な装備ではあるが無敵ではないので味方のサポートがあるからこそこんな無茶な真似ができる事を忘れてはならない。

 「入ったはいいが次はどうする?」
 「当然、上に向かいます。 『栄光』の面子が敵を片付けてくれているのなら問題はありませんが見た感じ、旗色が悪そうだったので格好よく助けに行きましょう」
 「騎兵隊の到着って奴だな! いや、正面からのごり押しが決まるとテンションブチ上がるな! このまま行っちまおう!」  
 「勿論、行きましょう」

 ヴルトムだけでなく他のプレイヤーの士気も高い。 これは下手に休憩を挟んだり、安全地帯を探すよりゴールまで走り抜けた方が高いパフォーマンスを発揮しそうだと判断したヨシナリはそのまま加速。
 問題はこの施設の詳細が不明な点だが――

 「あれ?」

 ウインドウ隅に表示されたユニオンメンバーのステータスが表示されている。
 どうやら近くに来た事で不明から観測可能になったようだ。 それによればマルメル、ふわわの両者共に内部で健在。
 通信は――行けそうだった。 ヨシナリは取り合えずマルメルへと連絡を取る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ
SF
 愛犬の死をキッカケに、最新VRMMOをはじめた女子高生 犬飼 鈴 (いぬかい すず)は、ゲーム内でも最弱お荷物と名高い不遇職『召喚士』を選んでしまった。  右も左も分からぬまま、始まるチュートリアル……だが戦いの最中、召喚スキルを使った鈴に奇跡が起こる。  ご主人様のピンチに、死んだはずの愛犬コタロウが召喚されたのだ! 「この声? まさかコタロウ! ……なの?」 「ワン」  召喚された愛犬は、明らかにファンタジーをぶっちぎる姿に変わり果てていた。  これはどこからどう見ても犬ではないが、ご主人様を守るために転生した犬(?)と、お荷物職業とバカにされながらも、いつの間にか世界を救っていた主人公との、愛と笑いとツッコミの……ほのぼの物語である。  注意:この物語にモフモフ要素はありません。カッチカチ要素満載です! 口に物を入れながらお読みにならないよう、ご注意ください。  この小説は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

処理中です...