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第161話

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 不意に直上――要は真上からエネルギー弾が飛んできてアウグストの頭頂部から股間を射抜いた。
 
 「は?」

 マルメルは驚愕の声を漏らす。 次の瞬間には撃破となり模擬戦は終了した。
 終了に伴い機体がその場で修復される。 上を見るとヨシナリのホロスコープがビルの屋上で手を振っていた。 小さく振り返すと降りてくる。

 改めて見るとホロスコープは随分と様変わりしていた。 狙撃戦に比重を置いた機体構成だったのだが、余計な装甲を削ぎ落す事でよりスリムな見た目になっており、頭部のセンサー類は強化されているのかマルメルの見た事のないものになっている。 メインウエポンはアノマリーのままだったが、機体の構成を一から見直したであろう事は明らかだ。 

 「機体、かなり変えてるな」
 「あぁ、ここ最近、色々と刺激を受ける事が多くてな。 で? どうする?」
 
 続けるかという事だろう。 マルメルは差を付けられた事を自覚はしていたので、ここで喰らいついて勘を取り戻しつつ自身のレベルアップを図るべきだ。 その為には格上との戦いは必須。
 
 「よし、いっちょやるか!」

 ここまであっさりやられたまま引き下がる訳にも行かなかったので返答は即座だ。

 「ならもう一度だ。 じゃあ俺は配置に戻るから二戦目すぐに行くぞ!」
 
 次はこうあっさりとは行かないぞ。 マルメルは気持ちを引き締めて二戦目に臨んだ。



 ――が。

 エネルギー弾がアウグストの脇腹から突き抜けてコックピット部分を蒸発させる。
 僅かに遅れて機体が爆散。 機体が復元されマルメルはその場で座り込む。
 少し間を置いてヨシナリが近寄ってきた。 これで十五戦十五敗。
 
 清々しいまでの全敗だ。 以前までのマルメルの勝率は四割から四割五分といった所だったが、一か月抜けていただけでここまで差がついていた事に驚きを隠せない。
 それによく見ると個人ランクもEに上がっていた。 マルメルがいない間に相当頑張っていたのだろう事は明らかだが、おいて行かれた事に少しだけ寂しい気持ちになる。

 ――それにしても笑えるぐらいにあっさりとやられてしまう。

 一戦目は張り付いたビルの屋上にいたらしく、真上からの狙撃。
 二戦目は物陰から足の関節を破壊され機動力を捥ぎ取られたので空中から仕掛けようと高度を取った所でメインのブースターを破壊されて墜落死。 三戦目は開き直って真っすぐに突っ込んだのだが、手榴弾で視界を潰された後、正面から胴体を撃ち抜かれて即死。

 四戦目は建物の陰から陰へと細かく移動して狙いを絞らせないようにし、盾を常時展開して狙撃に警戒していたらいつの間にか背後から忍び寄られダガーで脇腹からコックピット部分をほじくられて死亡。
 五戦目はヨシナリが積極的に仕掛けて来た。 ドカドカと次々に撃ち込んで来る狙撃を防ぎながらどうにか肉薄しようとしたが近寄ってみると三脚で固定されたアノマリーだけ。

 ふわわの時と同じ手だ。 やられたと思い、振り返ると散弾銃を構えたホロスコープ。 
 反応しようとしたが間に合わず至近距離から一粒弾を喰らって即死。 
 そんな調子で残り十戦も同じように負けた。 そんな敗戦続きで消耗したマルメルはその場で座り込む。

 「いやぁ、負けた負けた。 くっそ、ちょっと間が空いた間にすっげー差を付けられちまったな」
 「中々に濃い経験をしたって事もあるけど格上と組んだり戦ったりする機会を多かったんでな。 色々と参考にさせて貰ったんだ」
 「格上って……。 この一か月の間に何があったんだ?」
 「お? 聞きたい? なら休憩も兼ねて一度ホームに戻るか」
 
 どちらかというと話したがっているヨシナリの態度にマルメルは苦笑。 
 ウインドウを操作してユニオンホームへと戻った。
 
 
 ヨシナリはマルメルにこれまでの事を話しながら模擬戦で大きな手応えを感じていた。
 戦績こそ自分の圧勝だったが、マルメルは決して弱くない。
 実際、この十五回の戦闘の間に新しく確立したヨシナリのスタイルを薄っすらとだが理解し、どうにか対処しようとしていたからだ。 一戦ごとに動きが良くなっていき、終盤は割とギリギリの勝負だった。

 それでも無敗で制した事には変わりない。 相手の装備、機体から相手の動きを予測する事で相手の機先を制する。 人間、直近で行おうとした行動を潰されれば大なり小なり動揺はするのだ。
 経験によって動揺の振れ幅を極限までに小さくする事は可能だろうが、そうでない人間にとっては大きな隙となる。 マルメルはその点顕著で直前の行動を潰されると身を固める――要は防御に偏る傾向にあった。 この癖は掴めば非常に大きな付け入る隙で、お陰で何度か忍び寄って奇襲をかける事にも成功した。 

 人間はNPCにはない柔軟性が存在するが、それは思考が十全に回っている時だけだ。
 パニックになれば自然と馴れた、または馴染んだ行動を反射的にとるようになっている。
 マルメルにとってそれが防御だったという話だ。 そこを掴んでしまえば後は早かった。
 
 虚を突けばマルメルはまず身を守るべく盾を使おうとするので、そのタイミングでできた死角を突く形で仕掛けるか距離を詰めるかのどちらかを行える。 今回の模擬戦でのマルメルの敗因は主にこれだったりするのだが、話しながらこれは素直に伝えるべきなのだろうかと内心で少し首を捻ったが――

 ――もうちょっとボコった後でいいか。

 折角なので矯正する前にもうちょっとだけ痛い目を見て貰おうと思いなおす。
 ドタキャンの罰だと思って受け入れてくれ。 ヨシナリは内心を表に出さずににこやかにマルメルがいない一か月の話を続けた。

 
 「俺とふわわさんが来れなくなって臨時メンバーを募ったらSランクとAランクが一人ずつ釣れて、イベントは予戦を突破し、本戦もかなりいい所までいったと。 その後は「栄光」のメンバーの訓練に混ざったりでその間に思いついた戦い方を実践する為に機体を見直しと。 中々に濃い時間を過ごしてるな。 ってかSランクと組めるとかお前滅茶苦茶ラッキーだったじゃねーか」
 「あぁ、話も聞けたし戦い方も間近で見せて貰ってな。 テクニックに差がありすぎれ挙動の全部を理解できなかったが、一部はかなり参考になったよ」
 「確かにさっきの戦った感じ、お前すっげ―強くなってた。 いや、マジですげえよ」
 「これでも足りないぐらいだ。 次の大規模イベントまで日がないからな」
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