Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
155 / 480

第155話

しおりを挟む
 アノマリーを連射モードに切り替えて次々とターゲットを撃ち抜いていく。
 あれから数日、暦は変わって十二月だ。 ふわわは相変わらず忙しいとログインできないらしい。
 ただ、中旬には片付くとの事なのでイベントには間に合わせると言っていた。

 マルメルは次の期末考査に向けて必死に勉強ししているとの事。
 意地でも両親の設定したノルマをクリアして再開してやると気合を入れていたが、文面からあまり自信があるようには見えなかったのでイベントに間に合うかは何とも言えない。

 マガジン交換をしながらビルの間を縫うように走る。 
 あれ以来、ツガル達はミッションに誘ってくるので定期的に一緒に組んで遊んでいた。
 たまに他のユニオンメンバーを連れてくるのでいい刺激になっていい。

 ヨシナリは期末考査の勉強をしつつ、こうして次のイベント戦に備えて訓練を行っていた。
 何が出てくるかは不明だが、例の防衛イベントと似た形式なら多数の敵と戦う事になるだろう。
 それに合わせて複数の目標に対して正確に銃弾を叩きこむトレーニングを行っていた。

 異なる色のターゲットを用意して撃っていい物と撃ってはいけない物をランダムで出現させて瞬間の反応を鍛えているのだが、これが中々に難しい。
 ターゲットが出現してから撃っていいのか否かの判断までにどうしても間が出来てしまう。

 ただの的でこれだと実戦でやると味方を撃ち抜いてしまいかねない。
 それに関してはまだまだ要練習だが、射撃の精度自体は上がっている。
 実際、総合的な命中率は八割を超え始めた。 突撃銃でこの命中率は中々ではないかと少し思っている。
 
 ヨシナリはその数値に気分を良くして更に練習にのめり込む。
 銃を撃ち続ける姿は傍から見るとあまり面白そうには見えなかったが、ヨシナリはこういった黙々と作業する事を苦とは感じない。 特にこうして数値に成果として現れている事もあってモチベーションを高く維持できる。

 ――それにこういった黙々と何かをすると気持ちが落ち着くのだ。

 考え事などを行うのにも適した時間なので時折、こうして一人でターゲット相手に銃を撃ちまくっていた。 考える事は戦力についてだ。
 大規模イベント戦との事で総てのプレイヤーが友軍扱いだろうが、互いを守り合える仲間がいると生存率が大きく上がるので可能であれば集団行動ができるユニオンメンバーは居てくれるとありがたい。

 いい加減に新しいメンバーを募集するべきなのだろうか?
 慣れ合う関係が嫌ならイベント戦の時だけでも力を貸してくれるような傭兵のような立ち位置の仲間を作るべきなのかもしれない。 真っ先に浮かんだのはラーガストとユウヤだったが、あの二人だと強すぎるので完全に寄生になってしまう。

 楽でいいじゃないかといった考えがふっと浮かぶが、楽なだけで楽しくないゲームは飽きてしまうのでそれはなしだ。 飽きたと認識したゲームでモチベーションを維持するのは非常に困難なので、そういった萎える行動は可能な限り選択肢から排除している。
 
 ヨシナリはホロスコープでビルからビルへと飛び移り、着地と同時にアノマリーを狙撃モードに切り替えて即座に構え、ノータイムで発射。 エネルギーの弾丸は過たずに標的を射抜く。
 こんな事を考えるのには理由があった。 事情があったとは言え、イベントを土壇場でキャンセルされるのは非常に困るからだ。 他人の予定を縛る権利はないのでそれ自体は好きにしたらいいとは思うが、何人かいなくなっても問題ないような頭数は欲しいと思ってしまった事もまた事実だった。

 問題はそんな都合のいい人材がその辺に転がっているかだが――

 「――まぁ、そう都合よくは行かないか」

 アノマリーを投げ捨て、素早く拳銃を抜いて連射。 ギリギリ射程内に存在する四つのターゲットの内、色の違う一つを除いて二連射で全て撃ち抜く。 ダブルタップは基本。
 それと銃の射程を体に覚え込ませる事は他のゲームでも散々練習した挙動だったので応用はそう難しくなかった。 マガジン交換を行いながらどうしたものかと頭を捻る。

 「やっぱり最悪、何処かに混ぜて貰うのが無難か」
 
 真っ先に選択肢に上がるのは「栄光」の面々だが、ツガルやフカヤは問題ないがカナタとはあまり顔を合わせ辛い。 彼女はユウヤの事になると正気を失うとの事でその片鱗を見たヨシナリとしては地雷を踏み抜いた自覚があるのであまり近寄りたくないのだ。

 考えながら拳銃を連射。 思考の一部で残弾を確認しつつ撃ち続ける。
 残弾三、二、一――

 「ありゃ」

 最後の一発が外れる。 ヨシナリはしまったなと小さく溜息を吐く。
 どうやら集中力が切れたようだ。 気分を変えてランク戦に行くか、そろそろログアウトするか。
 どちらにしようかと悩んだが、時計を見るともう少しだけ時間があったので一回だけランク戦をするかとウインドウを操作してランク戦に参加。 対戦相手は――初見ではなかった。

 プレイヤーネーム「ヴルトム」誰かと思ったら始めた頃に一緒に共同ミッションをやった相手だ。
 ステータスを確認すると機体はⅡ型。 装備は追加装甲を盛って別の機体のように膨れ上がった重装機体となっていた。 武器は重機関銃と大型ライフル、ミサイルポッドもついている。

 取り敢えず積める武器は積んできましたといった感じだった。
 記憶にある彼の機体は狙撃特化でもっとスマートな感じだったが、しばらく見ない内に随分と変わったなと思いつつ、他の項目に目を通すとおやと小さく目を見開く。
 
 所属ユニオンが「大渦」となっていたからだ。 あそこはリーダーのレラナイトが永遠に消えたのでとっくに空中分解したと思っていたのに未だに生き残っているとは意外だった。
 色々と聞きたい事はあるがまずは勝負に集中しよう。 敵の装備が把握できたのは中々に大きい。

 勝てるとまでは行かないが、あまり躱すタイプではないので相性は割と良さそうだ。
 後は戦場次第だが――ランダムで選択された戦場は廃棄都市。 廃墟になった市街地だ。
 傷みが酷いので崩れたりなどの事故に注意する必要がある。 落ちてきた瓦礫で想定外のダメージを受けるなんて話もざらにあるので気を付けないとと思いながらフィールドへと降りたつ。

 今のヴルトムがどんなものなのか、興味があるヨシナリは少しワクワクした気持ちで移動を開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

処理中です...