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第142話

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 ユウヤの振り下ろしたハンマーが地面に叩きつけられ放射状の亀裂を走らせる。
 カナタの機体は際どい所で転がって回避。 距離を取ろうとしているがユウヤはそれを許さずに肉薄する。
 その様子をヨシナリは少し離れたビルの屋上から眺めていた。

 凄まじい攻防だ。 少なくとも自分が対峙すれば二、三手で叩き潰されるか両断されるだろう。
 ユウヤが執拗に間合いを詰めようとする戦い方にやや違和感を覚えたが、カナタの動きを見れば薄っすらとだが理解はできた。 前回のイベントの時はそこまでしっかり観察していなかったので意識はしていなかったが、恐らくカナタというプレイヤーは自分のスタイルを変えないタイプなのだろう。

 ざっと見た限り、メインの武装は手に持っている大剣。 
 エネルギーの刃を展開する事で通常装甲、エネルギーフィールドなどの全ての防御手段に有効な攻撃を繰り出す事ができる。 要は攻撃手段を大剣に頼る代わりにごり押すスタイル。

 ヨシナリのプレイスタイルから、まず採用しない豪快な戦い方だった。
 どんな相手だろうが得意な攻撃手段で正面から叩き潰す。 それがAランクプレイヤーカナタの戦い方。 何があっても己を貫くといった意志の強さが垣間見えるが、裏を返せばそれしかできない。

 そして彼女はあの戦い方一本でここまで上がってきたのだ。 尋常ではない。
 ユウヤはその点をよく理解していたので執拗に間合いを詰める戦い方をしていた。
 カナタは大剣の所為で近接特化と思われがちだが、あの大剣から繰り出される巨大なエネルギーブレードはイベント戦のボスであるあのイソギンチャク型エネミーに大きな傷を刻んだ。

 射程は数十メートル。 場合によっては百メートルぐらいは行くかもしれない。
 ここまで長いともはや剣の間合いではなかった。 そして最大の威力を発揮するのはその数十メートルの範囲内だ。 逆に数メートルクラスの近距離になるとエネルギーブレードではなく本体である実体剣の間合いとなるので破壊力が大きく落ちる。

 つまり、カナタと対峙する場合は下手に距離を取るよりも接近戦の方がまだマシなのだ。
 対するユウヤだが、こちらはカナタと対照的に間合いを選ばないのでどの距離でも戦える。
 機体のスペックも見えている範囲は把握しているがまだまだ何かを隠しているような気がすると思っているので未知数な部分が多い。
 
 ――流石は特殊フレーム。

 Aランク以上のプレイヤーにはとある機能が解放される。
 機体の自動作成機能だ。 これまでのプレイヤーの戦闘記録から最適な性能を持った機体を一からデザインして提供するので誇張抜きでそのプレイヤー専用機となる。

 装備だけでなくフレームまでもが既存品ではなく特注品だ。 
 頭から爪先まで完全オリジナルの専用機。 それがシステムが用意する特殊フレーム『ジェネシスフレーム』。 機体の括りとしてはジェネシスタイプとなる。

 どれ一つとして同じタイプの存在しないある意味このゲームの到達点だ。
 機体の特性がプレイヤーのスタイルに直結している為、既存の機体よりも戦い方の傾向は掴みやすい。
 その点、ユウヤはバランスが素晴らしいとヨシナリは思う。 索敵をアルフレッドに任せている関係でセンサー類はやや貧弱ではあるのだろうがそれを補って余りある装備の多様さとそれを状況に応じて使い分ける柔軟性は素直に手本にしたいと思えるほどだった。

 彼の機体『プルガトリオ』は背の大剣がメインの武装と思われがちだが、どちらかというと相手の意識を誘導する役割を担っている印象が強い。 特に刃部分についているスリットから飛び出す丸鋸のインパクトは凄まじく、あんな物を目の前で見せびらかされればどうしても意識してしまうだろう。

 派手ではあるが使用頻度的には変形させたハンマーの方を好んで使用している事から叩き潰す方が合理的と判断している様だ。 丸鋸で切るよりハンマーでコックピット部分を一撃した方が早いからだろう。
 あっさり通る相手ならそれで終わりだが、そうでない相手は腕に仕込んだ散弾砲や電磁鞭で動きを封じつつ対処。

 重量のバランスも計算されている様で動きも非常に軽やかだ。 あの大剣を背負ってヨシナリのホロスコープよりも機動性が上なのは若干、納得がいかないがその性能とユウヤの技量は疑う余地がない。
 ユウヤはとにかく間合いを詰め、ハンマーを振るう。 柄で突き、カナタが回避の為に下がって僅かに間合いが開いたと同時に横薙ぎ。 カナタは下がらずに剣で受け、わざと吹き飛んで距離を取る。

 カナタの狙いも分かり易く、剣の最大威力を引き出せる間合いにユウヤを捉えたいのだろう。
 それは早々に看破されているので中々そうもいかない。 ヨシナリの見立てでは最低でも二十から三十メートルは必要だろう。 数度しか見ていないので何とも言えないが、最適な距離は五十前後といった所だろうか? あの馬鹿げた威力の斬撃は当たりさえすれば大抵の相手は一撃で終わる。

 ――当たりさえすれば。

 吹き飛んだカナタに対し、ユウヤは右腕の散弾砲を発射。 カナタは危ない所で回避する。
 背後のビルに風穴が開き、基幹部分にダメージが入ったのか崩れ落ち、大量の粉塵が舞う。
 一気に視界がゼロになる。 ユウヤは特に動揺した様子を見せなかったが、咄嗟に大きく跳躍。
 
 一瞬遅れて巨大な光の斬撃が通り過ぎる。 ユウヤの背後にあったビルが数棟斜めにずれた。
 切断されたビルが落下するよりも早く追撃が二撃、三撃と飛んでくる。 恐らく振った後、エネルギーの刃を消して攻撃の回転を上げているようで、長さからは想像もできない攻撃回数だ。
 ユウヤは走り、飛び、ビルに張り付く事でその全てを無傷で回避していく。

 「あれ、どうやって躱してるんだよ……」

 狙っている方も何であんなに正確な斬撃を繰り出せるのか理解できなかったが、それ以上に視界がゼロの状態で綺麗に躱しているユウヤの戦闘センスが驚きだった。
 ユウヤはビルからビルへと飛び移り、未だに晴れない粉塵の中へと飛び込む。

 その後もカナタの振るった巨大なエネルギーブレードによる斬撃が粉塵の向こうから飛び出し、周囲のビルが更に切り裂かれる。 ヨシナリはここに居たら巻き込まれると判断し、慌ててその場を離れた。
 粉塵の中では銃声や金属音。 戦闘の物と思われる轟音が断続的に響く。

 ――何をやってるのか分からねぇよ……。

 上空を見るとエイコサテトラが戦場を俯瞰するように佇んでいた。
 ラーガストは最後まで手出しはしない方針のようだ。 ヨシナリもあんな戦いに混ざっても碌な目に遭わないので見ているだけに留めるつもりだった。
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