上 下
134 / 390

第134話

しおりを挟む
 最初の博打には勝った。 相手は防御フィールドの発生装置を積んでいない。
 前の試合を見た時点で多少はそんな気がしていたので分の悪い賭けではなかった。
 根拠としては隊長機を残して全滅していた事。 イベントでも散々見て来たパンツァータイプの頑強さは相当の物だ。 無敵ではないが仕留めるのに時間がかかるとヨシナリは認識していた。

 そんなパンツァータイプが半数を占めているこのチームが全滅するのは防御を捨てている事に他ならない。
 チームのコンセプトは前のめりに相手を叩き潰すといった所だろう。
 とにかく火力でゴリ押す事に念頭を置いた戦い方だ。

 何とも偏った連中だと思いつつもそう言ったこだわりは割と大事だとは思っているので特に否定するような事は考えずにありがたく突かせて貰おうと狙ったのだ。
 そして次の博打だ。 さて、このアノマリーは実弾、エネルギー弾の撃ち分けが可能という優れものだが、同ランクの武器――要はエネルギー特化の武装に比べると実弾の発射機構を積んでいる分、出力が弱い。
 
 有り体に言うと同カテゴリーの武器の中でも威力がないのだ。 それでもトルーパーを撃ち抜くぐらいは楽勝なのだが、この水中というエネルギー系の兵装が著しく減衰する環境でその差は大きい。
 幸いにも水中で使用しても壊れたりはしないので撃つだけなら問題はない。 ただ、パンツァータイプの装甲を抜きたいのなら銃口は水面から出す必要がある。 

 ――このミサイルやら砲弾の雨の中でか……。

 はらはらするなぁと思いながらすっと水面から銃口を出して発射。
 ある程度近づけばあれだけ撃ちまくっている相手なので探すまでもない。
 ついでにパンツァータイプは旋回にやや時間がかかるのでそう躱される心配もなかった。

 狙うのは人間で言う鳩尾の上――要はコックピット部分だ。
 一撃で仕留めないと不味い。 実は仕留めても不味いのだが、やるしかないのが辛い所だ。
 発射。 エネルギー弾は思い描いた軌跡を描き、吸い込まれるようにコックピットに直撃。

 仕留めた手ごたえがある。 思わず拳を握りかけたが、ヨシナリは急いで水中に潜った。
 潜行したと同時にさっき銃口を出した辺りに攻撃が集中。 

 「……ですよねー……」

 あっという間に湖底に辿り着いたヨシナリは思わずそう呟く。 底に着いたからと言って安心はできない。 急いで湖から出ないと不味い。
 センサー越しに居場所を大雑把に把握してそこ目掛けてミサイルや砲弾をばら撒くのが彼等の戦闘ス方針だ。 見えてないからそうしているのだが、あの一発で居場所が完全に割れてしまった。
 
 そうなれば攻撃が集中するのも当然だ。 砲弾は水が防いでくれるがミサイルはそうはいかない。
 水中で爆発して容赦なく衝撃波を叩きつけてくる。 離れていてもビリビリと衝撃が機体に伝わりダメージを知らせる警告ウインドウが視界の端にポップアップ。

 今の所はセンサー系にダメージを受けてパフォーマンスの低下程度で済んでいるが、このままだと深刻なダメージが入るだろう。 

 「それにしても――」

 さっきからどれだけ撃ち込んでるんだ? ミサイルだけでも数十発。
 明らかにトルーパーに詰めるキャパシティーを超えている。
 
 ――あれだろうなぁ。

 防御兵装を積んでいない最大の理由だろう。 本当なら適正ランク以上の装備だが、大きなユニオンなら人数分用意できてもおかしくはない。 具体的に何かというとミサイルの精製装置だ。
 ミサイルをその場で作り出して給弾するシステム。 所謂、3Dプリンターだ。
 
 前のイベントの終盤に現れた恐らく運営の用意したであろうトルーパーが使っていた物の下位互換。
 アレは即座に腕を生み出すといったふざけたスペックだったが、本来の使い方は銃弾やミサイルを生み出して弾残を増やしたりする用途で使われる。

 攻撃が途切れない最大の理由がこれだ。 即座に作り出せる訳ではないので、三機がローテーションを組んで攻撃をばら撒いていたのだろうが一角を崩したので間隔に穴ができるか、回転が遅くなるはず。
 ヨシナリは大きく深呼吸。 奇襲は一回しか通用しない。 
 
 次は覚悟を決める必要がある。 このまま水中にいると嬲り殺しにされるので飛び出していかなければならない。 逃げて態勢を整える事も選択肢としてはありではあるが、このチームで消極的な行動は悪手だ。 チームメイトからの評価はお世辞に高くはないが、これまでの戦いを通してそこそこ使える奴程度の認識はされていると信じたいので日和って折角上がった(と思われる)株を落とすような真似はしたくない。 というよりはできない。

 理由としては逃げると敵は深追いせずにユウヤの戦いに混ざりに行くだろう。
 一機やられた事でヨシナリの評価を格下から厄介な獲物に変えたはずだ。 
 そんな相手に深追いするか? 仲間がやられて頭に血が上っているのならやるだろうが、こんな大会に選ばれるようなプレイヤーがそんな真似をするとは思えない。 放置は厄介であると思っているだろうが、見つからない相手を探して時間を浪費するよりは人数をかけて居場所が割れている敵を処理する方が合理的だ。 ヨシナリは自分ならそうすると思っていた。

 付け加えるなら自分なら下がると見せかけて敵を焦らせて釣り出す所まで視野に入れる。
 その為、ヨシナリはここで逃げる訳にはいかなかった。 動きをイメージする。
 敵はこちらの位置を掴めているが、見えていない以上は完全ではない。
 
 ――まぁ、湖から出た時点で完全に捕捉されるが。

 付け入るならここだろう。
 初手で一機撃破すれば残りを仕留められる可能性が大きく上がるが、しくじれば確実にやられる。
 迷うが選択肢がないので行くしかない。

 「よし、行くか」

 覚悟を決める。 飛び出すのはは攻撃が僅かに途切れるタイミング。
 そこまで大きな切れ目ではないが、一機潰したのは大きい。 
 配置は二機が間隔を空けての横並び。 移動ルートは飛び出して側面を突く形。
 
 要は片方を盾にする位置取り。 使っていないが恐らく積んでいるであろうガトリング砲があるので効果はあまり期待できないがやらないよりはマシだ。
 ミサイルの爆発を頭の中で数える。 大きな爆発が一回、中程度の爆発が四回、小さな爆発が四回で僅かに途切れる。 装備は背中にデカいミサイル発射管、両肩に六連発のランチャー。 腰辺りに小型のミサイルポッド恐らく四連発が二基。 半分撃って給弾、その間に片方がばら撒いて時間を稼ぎつつ攻撃を途切れさせないといった所だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...