上 下
127 / 390

第127話

しおりを挟む
 ツガル達と別れたヨシナリは面倒な事になったなと思いつつどうしたものかと考える。
 元々、ユウヤとカナタの二人に問題があったのは条件を出された時点で察してはいた。
 正直な話、どの程度深刻なのかの判断もつかなかったので安請け合いした事は否めない。

 ――このイベントに参加したいのであれば選択肢はあってないような物ではあったが。

 流石に本人に聞くのは憚られたので尋ねる相手はラーガストだ。
 幸いにも二人は友人ではあるが、ある程度の距離感があるので常に一緒にはいない。
 ちらりとウインドウで試合の状況を確認すると他の試合がいくつか継続中だ。

 軽く覗いてみると膠着状態なのでまだ少し猶予はあるだろう。
 その間にダメ元ではあるが話をしておきたい。 時間もあまりない状況なので話を聞きたいなら急ぐべきだ。
 軽く視線を巡らせると――いた。 少し離れた位置でユウヤはウインドウを開いてぼんやりと他の試合を眺めており、ラーガストは腕を組んで壁に寄りかかっている。

 「ちょっといいですか?」
 「どうした?」
 「実はですね。 さっき『栄光』の人達に声をかけられまして……」
 「……まさかとは思うが負けてくれとでも頼まれたか?」
 「それこそまさかですよ。 向こうの話としてはどうにかこの話を丸く収めたいから協力して欲しいとの事でして」

 それを聞いたラーガストは鼻を鳴らす。 

 「無理だと思うがな。 ユウヤのあの女へのアレルギーは筋金入りだ。 リアルは知らないが、こっちにいる間、干渉を完全にカットできるチャンスをみすみす逃すとは思えない。 意地でも仕留めに行くだろう」
 「いや、俺としてもそうなったらそうなったで構わないんですが、『栄光』さんには模擬戦やらでお世話になったんでなるべくどちらにとってもいい形で決着を着けたい――というよりは今回に限って言うなら俺の関与を離れる段階まで何も起こらずにいて欲しい感じですね」

 ヨシナリからすればカナタもユウヤも知人止まりの関係だ。
 積極的にはいい顔をしたい訳ではないが、関係が悪くなる事は可能な限り避けたかった。
 折角、ハイランカー様とお知り合いになれたのだ。 機会があれば貸しを作っていざという時に何かを要求できるようにしておきたい。 具体的には今回のような助っ人とか。

 「……話は分かった。 要はお前は今回の一件をうやむやにしてやり過ごしたいと」
 「有り体に言えばそうです。 大した付き合いではありませんが、あの二人の関係ってもうどうにもならないレベルでしょ? ツガルさん――『栄光』の人達はもっと丸く収めたいみたいですけど、俺の見立てじゃ無理ですね。 どっちかが泣かないと終わらない。 違いますか?」
 
 ラーガストは少し悩むような素振りを見せるが、ややあって小さく頷く。

 「お前の言う通りだ。 あの二人の関係はどこまで言っても平行線だ。 『栄光』の連中の魂胆も見えてる。 大方、ユウヤにどうにか妥協させようって腹だろ」
 「……そこは否定しません」

 ツガルもイワモトもカナタの仲間である以上、彼女寄りに物事を考えている。
 口ではああは言っていたが、内心ではユウヤを引き入れる事で丸く収めたいといった考えが透けて見えていたからだ。 それが悪い事とは思わない。
 
 人間である以上、碌に知らない相手よりも見知った相手に寄り添うのは当然だ。
 ヨシナリもマルメルやふわわと知らない他人が対立しているなら内容次第ではあるが大抵の場合は前者に味方するだろう。 
 
 「――で? わざわざ俺に話を持ってきてどうして欲しいんだ?」
 「いや、実を言うといくつか案がありまして、聞いた上で協力してもいいって気持ちになってくれるなら手を貸して貰えればと思って……」

 ラーガストは無言。 ヨシナリは内心で冷や汗をかきながら少し図々しすぎたか?
 いや、今回の目的の大部分はユウヤ絡みの話なのだ。 ここで日和ると碌な事にならない。
 ヨシナリの意図をどこまで察しているのかラーガストは小さく溜息を吐く。

 「俺がカナタを仕留めろって話だろ?」
 「…………はい」

 一番分かり易く手っ取り早い解消法だ。 
 少なくともそれをやれば問題は改善はしないが悪化もしない。
 やり過ごす事を念頭に置くのなら最善の手段といえる。

 「それをやると俺があいつにどう思われるかは考えているのか?」 
 「だからこうして相談させて貰ったんです」
 
 ラーガストがそれをやれば間違いなくユウヤからの顰蹙を買うだろう。
 ヨシナリは理解して提案した。 理由としてはどっちの方がマシなのかの判断が付かなかったからだ。 ラーガストが同意すればこのイベントでの状況は悪化しないだろう。

 先の事は知らないが。 ユウヤが個人戦ではなくわざわざイベントで今回の賭けを持ち出した理由に関しては理解している。 彼が誘われているのはあくまでユニオンにだ。
 本音はユウヤを手元に置きたいカナタの思惑が強く反映された結果なのも理解しているが、このユニオン対抗戦で勝利する事でユニオンに参加するメリットを感じないと周囲にも見せる事ができる。

 そうなればカナタも手を出し辛くなる。 彼女は要求こそストレートだが、本音は頑なに表に出さないのでこのやり方は効果があるとみていい。 そもそもカナタとそれなり以上に付き合いの長いユウヤがそう判断したのなら十中八九間違いないとみていいだろう。 

 「お前の話は理解した。 どうにかしたいと思っている理由も納得している。 その上でいうが、俺とあいつは慣れ合う関係ではないがダチではある。 言ってる意味は分かるか」
 
 つまり協力はできないという事だ。 特に失望はない。
 逆の立場ならヨシナリも高確率で断っていたからだ。 

 「まぁ、しょうがないですね」
 「……ここはお前が自分で仕留めるとか息巻くところだと思ったぞ」
 「いやぁ、やるだけやってもいいんですけどカナタさんの取り巻きってツガルさん達でしょ? 実は俺、ユニオン戦であの人達に手も足も出ずにボコボコにされまして。 情けない話ではあるんですが、ラーガストさんやユウヤさんがいるなら充分に勝てる事もあって形だけでも借りを返しておきたいんですよ」

 やられっぱなしは性に合わない。 
 カナタ達の事は気にはなっているし、可能であれば何とかしてやりたいと思っているのも本音だ。
 だが、それはそれ、これはこれ。 また別の話だ。
  
 ヨシナリとしてはセンドウ、ツガル、フカヤの三人は将来、叩きのめすリストに入っているのでリベンジの機会は逃せない。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...