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第124話

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 支援機は基本的にプレイヤーが扱うトルーパーと同じだ。
 運用に成功すれば一機分の枠で文字通り二機分の戦力運用が可能という事で購入して育成を望むプレイヤーは多かったが、仮に入手できたとしても実用レベルに持って行ける者がどれだけいるのかが疑問だ。 学習型AI、戦闘経験を積めば徐々に強くなっていくというキャッチコピーに偽りはなかったが、強くなるまでの過程が長すぎたのだ。

 最初は雑魚エネミーと同じ挙動しかとらないのでソルジャータイプのフレームを扱えば碌な回避行動もとらずに手近な敵へ手持ちの携行火器を撃ちまくるだけ。 キマイラタイプでも同様で可変機構など全く活かさない。 そして機体の性能を碌に発揮しないまま撃破されて武器、パーツ、フレームをロストさせる。

 このゲームにおいてフレームは非常に効果だ。 Gで買えなくもないが額がとんでもないのでさっさと手に入れたいのであればPでの支払いが必須となる。 ランカーであるならできなくはないが、そんな成果と支出が釣り合うか怪しい事に投資を続けられるか? 
 
 大半のプレイヤーにとって答えはノーだ。 特にAIユニットを購入できる資金力を持ったプレイヤーーーAランク以上は既に自分のスタイルを確立しているので今更、支援機を使うぐらいなら自己の強化に回した方が合理的だと考える者も多い。 上位のランカーにAIについて尋ねると大抵はこんな答えが返ってくる。

 『割に合わない』と。 そんな風潮の中、ユウヤはアルフレッドと名付けたAIを根気よく育てた。
 何故そうしたのか自分でも良く分からなかったが、何度大破しても主人に尽くそうとする姿に何かを感じたのか単純に強くして支援機を不要と言っている連中の鼻を明かしたいと思ったのかは今となっては不明だ。

 成長させるにはとにかく場数を踏ませる事が重要で、ユウヤはとにかくフリーのミッションに潜ってひたすらに戦闘経験を積ませた。 やられれば新しい機体を与え、決して見捨てる事をせずにとにかく根気よく戦闘を重ねる。 戦車を楽に撃破できるようになれば戦闘ヘリ、戦闘機、エネミーと徐々にハードルを上げていく。 時間はかかるが学習次第で強くなるという売り文句に偽りはない。

 最初は闇雲に攻撃するだけだったが、徐々に遮蔽物に隠れ地形を利用し、やがて敵の攻撃を読んで回避行動までとるようになった。 ユウヤの場合は明確に育成の方向性を定めていたようで、ソルジャータイプで中、遠距離での立ち回りを覚えさせ、特に支援機として重要な索敵、攪乱の武装は積極的に搭載し、使用を促す。 亀のような歩みだったがアルフレッドは与えられた装備、武装を徐々にだが使いこなし、主の意向を理解して成長の方向性を定めていく。

 武装、立ち回りを覚えれば戦い方の確立は成功したようなものだ。
 至るまで結構な回数の戦闘と中破、大破を乗り越えたが、結実してしまえば過去と割り切れる。
 苦労はあったが、ユウヤはこのAIの事を非常に気に入っていたので、気が付けば我が子のように成長を喜べるほどに入れ込んでいた。 戦い方が形になって来たところで本番――要は想定してる最高の機体を与える。 ユウヤはアルフレッドに支援機として自身の死角を埋めて欲しいと願っていたので機動力、走破性に優れた機体が望ましい。 結論としてキマイラタイプ――戦闘機ではなく、四つ足の獣へと変わるキマイラ・ループスフレームを採用。 高価ではあるが些細な問題だ。

 索敵、攪乱を軸に置きつつ敵機の撃破も可能とした武装。
 それが今のアルフレッドのスタイルだ。 強化されたセンサー類は戦場の情報を深く、広く収集し、リアルタイムでユウヤに伝え、光学迷彩で姿を隠し、しかし存在自体は主張して敵の意識を散らす。
 
 主が危機に陥れば援護に入り、煙幕などで後退の隙を作る。
 何度も繰り返してきた事だ。 アルフレッドは今回もいつも通り、ユウヤが有利になるように立ち回る。 姿を晒し、敵機を戦場から引きはがす。

 一機でも引き付けていればユウヤの負担が大きく減るからだ。 光学迷彩で姿を隠し、回避に徹する。
 敵はエンジェルタイプ。 エネルギー系の武装、推進システムを詰んでいるので下手に攻撃する事は悪手だと理解しているからだ。 アルフレッドというAIは自身に求められている役割が支援である事を理解しているので下手に反撃はせずに逃げ回る事だけに集中する。

 「うぜぇ! さっさとくたばれよ!」

 空からエネルギー弾が次々と地面に着弾するが、姿を消してランダムに動くアルフレッドを捉える事は出来ていない。 だが、移動の痕跡は辿られているので徐々にだが追いつめられている。
 遮蔽物のない荒野では大地を踏みしめるだけで小さな砂埃が舞うので視認が出来なくても慣れたプレイヤーにはあっさりと見破られてしまう。 だが、回避に徹するなら時間稼ぎという役割は充分に果たせる。 ほんの僅かな時間を稼ぐだけでいい。 何故ならそうするだけで――

 「は? 嘘だろもう――」

 さっきまでアルフレッドを追いかけ回していた機体が背後からの攻撃を受けて撃破される。

 ――ユウヤが他を片付けて戻ってくるからだ。

 ユウヤはしっかりと四機の撃破を確認するとちらりと背後を振り返る。
 残りはキマイラタイプ一機。 自分で撃破してもいいが、やりたがっているようなので無粋な真似は止めておこう。 

 「お手並み拝見だ」

 だからそう小さく呟いて動きを止めた。



 「さて、後は俺の番か」

 標的は真っ直ぐに突っ込んで来るキマイラタイプ。
 ヨシナリは後退しながらアノマリーによる狙撃で仕留めようとするが、敵機はヒラヒラと慣れた挙動で回避。
 こんな開けた場所な上、一対一の状況で当たる訳がない。 

 戦闘開始と同時にラーガストは敵の隊長機――Aランクの下へと向かっていき、敵の仕掛けた罠を物ともせずに食い破る。 援護をしようとしたがあの有様を見ればかえって邪魔だと判断し手を出せなかった。 反面、ユウヤは戦闘スタイルもあってヨシナリの介入する余地がある。

 包囲されたて戦闘に入り、意識がこちらから消えたタイミングで狙撃して一機撃墜。
 エンジェルタイプの撃破はソルジャータイプを使っているヨシナリからすれば中々の大金星だと思うのだが、格上のユウヤありきの戦い方はあまり褒められたものではなかった。

 だから、自分の下へと真っすぐに向かってくる敵機を自力で仕留める事で自らの価値と成長を証明するのだ。
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