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第116話

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 言うだけなら簡単な話ではあるのだが、ベリアルの攻撃に対する反応の速さがそれを困難にする。
 これまでAランクの地位を維持できているのも彼の能力を最大限に活かすこのプセウドテイの性能を十全に引き出しているからでもあった。 その為、当てるのは至難の業だったのだが――

 ――当たった。

 その結果にヨシナリは大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。
 色々と反省会を行った後、このまま寝ている訳には行かないと思い直して穴から這い出したのだ。
 仮にこのまま隠れていれば生き残る可能性は高くなるだろう。

 だが、その代償としてあの二人からお飾りリーダーとして扱われる。
 ヨシナリとしてはリーダーと認められなくてもいいが、せめてチームメイトとしては一定の評価は得ておきたいと考えていた。 だから、やられるまではやれる事をやるべきだ。

 そう意気込んだのはいいが、機体のコンディションは良くないので積極的に打って出るのは難しい。 回避も碌にできないこの有様では突っ込んでもやられるだけだ。
 ならばどうするのが最善かと考えれば、選択肢は一つしかなかった。

 繰り返しになるがヨシナリのホロスコープは損傷が大きく、まともに戦うのは難しい。
 この状態で戦果を上げるのは不可能と言っていいだろう。 ならチームメイトからの評価を上げるにはどうするべきか? 答えはアシストだ。

 我ながらちょっと情けないとは思っているが、自分の現在の実力と現状を考えるとそれぐらいしかできる事がない。 そんな理由でチームメイトの二人に協力できることはないかと尋ねたのだが、ラーガストからは要らんと取り付く島もなく断られた。 これは駄目かとも思ってユウヤに尋ねると相性のあまり良くない相手に絡まれているので可能なら狙撃してくれと頼まれ、ここはアピールのチャンスと張り切ってやると大きく頷いた。

 作戦としては非常にシンプルでユウヤが狙撃地点にベリアルというプレイヤーを誘い込むのでそこを仕留めろというかなりの難易度の高い狙撃だった。
 これを困難にしている要因は二つ。 ここがジャングルである事。
 大量の木々は遮蔽物として存在し射線が上手く通らない。 そして二つ目、ターゲットの存在だ。

 戦闘中にユウヤから簡単に聞いたベリアルというプレイヤーの情報。
 Aランク、高機動機体と明らかに反応が良いタイプなので、一度外すともう狙わせてくれないだろう。
 つまり一発で仕留めなければならない。 中々に心臓に悪い場面ではあったが、ここはしっかり当てて良い所を見せておきたいのでビビる所じゃないと気合を入れる。

 やると決めれば後は準備だ。 ここまでで装備を失っていたので代わりの狙撃銃を探さす必要があったが、アルフレッドが何処からか見つけてきて持ってきてくれた。
 状態も良く、弾もしっかりと残っているので充分に使える。 大口径ではあったが実体弾だったので弾道には気を付けないと不味い。 可能であれば試射したいがそんな事をしている暇はないので本当の一発勝負だ。 欲を言うならエネルギー系の狙撃銃の方が狙い易かったがアノマリーをなくした自分が悪いと諦める。

 機体を固定する為に埋まっていた穴から上半身を出し、狙撃銃は三脚を用いて立てる。
 最大望遠にして射線が通る位置を確認。 準備が整って少し後にユウヤとターゲットが戦闘しながら現れる。 ベリアルというプレイヤーの動きは凄まじく、一目見ただけでこれヤバいなと思ってしまった。
 
 ふわわほど洗練された感じはしないが似た気配を感じる。 
 要は感覚で躱すタイプだ。 今の所、こちらには気づかれていないが、認識されたらその時点で終わる。 しかも両者とも接近戦を狙っているので難易度が更に跳ね上がっていた。

 ――これ本当に当てられるのか?

 そう思っていたが、チャンスは意外にも早く訪れた。
 ユウヤとベリアルが射線に入り、プルガトリオが僅かにずれて道を開ける。
 いつの間にかユウヤはベリアルをヨシナリが当てやすい位置まで誘導していたのだ。
 
 だからヨシナリは迷わずに引き金を引いた。 目の前のユウヤに集中していたベリアルはそれに気づく事は出来ず、ライフル弾はプセウドテイを完璧に捉えてその胴体に大きな風穴を開ける。
 ベリアルはヨシナリを一瞥すると機体が爆散。 撃破となった。

 「――はぁぁ。 き、緊張した」

 当てはしたがユウヤが上手に当て易い位置に誘導してくれた事が大きい。
 個人戦ばかりやっている印象だったので、こういった事はしないタイプかと思ったがアドリブでこれができるからハイランカーと呼ばれているんだろうなと思い、我ながらまだまだだなと内心で溜息を吐く。

 「あの距離で仕留めるとはやるな。 掠ればいい方だと思ってたから期待以上だ」
 「はは、そりゃどうも」

 いつの間にか近くまで来ていたユウヤにヨシナリは笑って返す。
 俺って割と期待値低かったんだなと思って多少ショックだったが、チームの一員としてやれる事をやれたと思っていたので気持ちは楽になっていた。

 「……そろそろ終わりか」

 ユウヤが空を見上げ、ヨシナリもその視線を追うといつの間にか空中での戦闘が終わっていた。
 動いている機体は一機――ラーガストのエイコサテトラしかいない。 比喩ではなく、空にはラーガスト以外に誰もいないのだ。
 
 ――嘘だろ。

 まさか全滅させたのか? 一人で? 
 Sランクだからと言うのを差し引いてもラーガストの強さは異常だった。
 今回のイベント戦、同一戦場に参加者全員が放り込まれている訳ではないのだろうが、Aランクプレイヤーも少なからずいたはず。 それにSランク撃破の実績を得られるチャンスなのだ。

 袋叩きにしてやろうと手を組んで仕留めにかかる流れになるのは目に見えている。
 ラーガスはその全てを一人で粉砕したのだ。 改めてSランクの凄まじさを思い知り、ヨシナリは震えた。
 そうしているとウインドウが出現し、予戦が終了した事に対するアナウンスが流れる。

 それにより生き残った全てのチームが戦場から姿を消し、ヨシナリもアバター状態でユニオンのホームへと戻された。 ラーガストとユウヤの二人も既に戻ってきており、二人は何やらウインドウを操作している。 何だとヨシナリも確認するとメールが入っており、そこにはイベント戦での撃破した機体の数に応じて個人とユニオンに報酬が支払われる旨の内容で金額が表示されている。

 金額は撃破したプレイヤーのランクで変わるのでAランクプレイヤーを撃破したヨシナリにも相応の報酬が支払われていたのだが、そんな事は問題ではなかった。
 
 「おいおい、なんだこりゃ……」

 ユニオンに入っている金額がおかしな事になっており、凄まじい数のゼロが並んでいる。

 「十万、百万、千ま――嘘だろ」
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