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第110話

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 アルフレッドはざくざくと派手に地面を掘り起こす。 
 ヨシナリは何をやっているんだと思ってそれを見ていたが、途中で意図に気が付いて思わずマジかよと呟く。 戦えない機体はやられるのが目に見えている。

 ならどうするべきか? 隠すのが無難な選択肢だ。
 ここで問題なのはどこに隠すかなのだが――アルフレッドが穴を掘り終えたのか小さく鳴く。
 
 「じゃあここで大人しくしてろ」

 ユウヤは何の躊躇もなくヨシナリを穴に放り込むと土を被せ始めた。
 
 「あの……これ、どちらにせよ死ぬのでは?」
 「しばらくは大丈夫だろ。 終盤になったら隠れても無駄になるだろうがその間は安全だ。 どうせ碌に動けねーんだからここで寝てろ」
 
 恐らくだがこのように隠れる機体が増えて決着が着かない事を防止する為に一定時間の経過か、機体数が一定以下になると何らかの措置――具体的には全ての機体の位置が共有される事になるだろうとユウヤは言っているのだ。 ヨシナリもその点には同意なのだが、だからと言ってこの扱いは酷いのではないのだろうか?

 一応、そこそこ頑張ったチームリーダーなのだが、ユウヤからすれば動けない足手纏いなので大人しく寝ていろと埋める事にしたのだ。 冗談でもなんでもなくヨシナリのホロスコープはあっという間に埋め立てられてしまった。 完全に真っ暗になった後、上から叩くような衝撃と重たい物が落ちる音。

 埋めた後に固めて折れた樹を乗せたのだろう。
 しばらくすると地上で作業していた気配が遠ざかり、静かになった。

 「…………はぁ」

 一人になったヨシナリは大きく溜息を吐く。
 折角、手が空いたのだ。 取り敢えずはこれまでの反省会を行う事にした。
 戦闘スタイルの更新は上手く行っていると信じたい。 

 実際、そこそこの成果は出ている。 
 あれだけの数を一度に相手して生き残ったのは我ながら上出来ではないか?
 少なくともこれまでだと諦めが入る場面を切り抜けられたのは自身の成長を大きく感じられ、個人的には手応えの感じられる内容ではあったが、上はまだまだ遠そうだ。

 ラーガスト達がどう思っているのかまでは分からないが、背中を任せられるとは思われていない事は確実だろう。 それ以前にあの二人にはそもそも連携を取ろうという発想がないのかもしれないが、どちらにせよ当てにされていないのは確実だ。 

 ――あの二人に喰らいつくのはまだまだ足りない物が多すぎる。

 技量は勿論、機体のスペックも足りていない。 
 Gも稼ぎつつ、個人ランクも上げる必要がある。 脳内で至るまでの過程を思い描き――取り合えず保留にした。 思考をシフトして立ち回りについてを考える。

 まずは心構えとしては常に冷静でいる事。 何も考えずに動くだけではすぐに死ぬ。
 人によってはそれで切り抜ける猛者もいるだろうが、ヨシナリはそれに当て嵌まらない。
 それはこれまでの経験からも明らかで思考を止めた場合――要は勝負を焦ったり、勝ったと思い込んで仕留めに行った時がそれに該当する。 

 ――つまり俺は調子に乗ると碌な事にならない。

 考えて少し悲しくなったが。 変な方向に脱線しているのでやや強引に軌道修正。
 今回、上手く行った要因は狙うべき標的と行動の取捨選択にあると考える。
 煙幕や閃光などで敵の目を晦ましたのはかなり大きく、今後も積極的に使って行くべきだろう。
 
 敵が自分の姿を見失っている間は比較的、安全に攻撃と思考に時間を割ける。
 次に脅威度の高い標的の選定。 視界に入った奴から順番にと単純に考えられればいいが、装備している武器や相手の数によっては狙える位置にいても場合によっては後回しにした方がいい。

 下手に欲張ると思わぬところから反撃を喰らうのは今回の件で痛いほどに理解した。
 必要なのはどこを狙えば効果的に主導権を取れるかだ。 ヨシナリは目を閉じて今回の戦いを反芻する。 狙いやすい敵を優先した結果、遠くにいたエネルギー系の武器を持った機体への警戒を疎かにして被弾した。 この場合は脅威度の高い武器を持った敵を無理にでも狙う?

 いや、違う。 仕留める事自体は間違ってないんだ。
 問題はポジショニングだ。 敵機を盾にして敵の射線を切――
 地中でヨシナリはブツブツとそう呟きながらしばらくの間、一人で反省会を行っていた。

 
 ――思った以上に動けている。

 それがユウヤのヨシナリに対する評価だった。
 同格の機体が複数混ざっている敵の包囲で生き残るのはなかなかできる事ではない。
 自分やラーガストと組むには力不足は否めないが、今後化ける可能性はありそうだと思っていた。

 装備の構成などを見る限り遠距離に偏っていたので、このような乱戦では真っ先に脱落するだろうと考えていたが、予想に反してしっかりと生き残ったのは意外だ。
 結果的に見縊る形になったので助けたのは彼なりにヨシナリを認めた結果だった。

 正直、今回の戦いはユウヤがカナタという目障りな存在を排除する為のものだ。
 カナタはユウヤの世話を焼く事に喜びを覚えているようだが、ユウヤからすれば迷惑以外の何物でもない。 元々、カナタとユウヤは家が近所の所謂、幼馴染だ。

 親同士の交流もあり、その流れでカナタとも深く関わる事となったのだが、他人と必要以上に接触したくないユウヤとしてはカナタと言う存在は非常に目障りだったのだ。
 表立ってそれを主張しなかったのはいつまでも続かないだろうと思って放置していた事が大きい。

 カナタは美しい少女だ。 異性から交際を求められた回数は数多く、このまま放置すればそう遠くない内に彼氏の一人も出来て自分への興味を失う。 仮にそうでなかったとしても彼氏がいる立場で他の男の世話を焼くなんて真似は出来ない。 そんな展開を期待したのだが、そうはならなかった。

 ユウヤの予想に反してカナタの彼に対する執着は時間の経過に応じて減衰するどころか増しているのだ。 さっさと彼氏作って自分の視界から消えて欲しい。 

 リアルではカナタに何をどうしても敵わないユウヤはそう祈る事しかできなかったのだ。
 同時に一度固まった日常はそう簡単には変化しない。 だから、不快ではあるが自分が我慢すれば徐々にだが好転すると信じてじっと耐えていた。 だが、そんな彼にも許容できない事がある。

 ICpw――つまりはこのゲームへの登録だ。
 ユウヤにとってこのゲームはある意味、聖域に近く、自分らしくのびのびと過ごせる場所だったのだが、何を血迷ったのかカナタはそこに土足で踏み込んできたのだ。
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