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第100話

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 翌日。 長かったイベントも決着が着いてしまえばもはや過去だ。
 ヨシナリにとっては中々に濃密な時間だった。 
 負けこそしては得る物は多かったと思っている。 取りあえずは何をすればいいのかは――あまり見えていなかったりした。

 正直、ヨシナリはこのゲームを舐めていたのかもしれないと思い始めていたのだ。
 Bランクまでならそこまでではなく、立ち回り次第で撃破は可能と思える。
 だが、Aランク以上のプレイヤーははっきり言って次元が違う。

 ほぼ全ての機体がゲームシステムが構築したプレイヤーの能力を最大に活かすスペシャル機。
 その結果、信じられないほどの強さを発揮する。 

 ――果たして俺は専用機を得たとしてあれだけの動きができるのだろうか?

 「――はぁ、自信をなくすなぁ……」

 座っているパイプ椅子に体重を預けるとギイギイと軋むような音を立てる。
 現在地はユニオンホーム。 一人でミッションやランク戦をやる気が起きなかったのでマルメルとふわわを待っていたのだが、今日は珍しく誰も来ない。 

 一人だとネガティブな事を考えてしまいそうだったので誰かと話をしたい気分だっただけに誰も来ないのは少しだけ寂しい気持ちになる。
 待っていてもくる気配がないので単独で受けられる簡単なミッションでもやるかと立ち上がるとメッセージ受信の通知音。 
 
 誰かからの連絡かなと開くと運営からだった。
 内容は――新しいイベントの案内。 

 「早いな」
 
 前は復刻であったにもかかわらず二ヶ月も空いていたのに今回は翌日に告知だ。
 クリアの有無なのか? 疑問を呟きながら内容にざっと目を通し――思わず内心で眉を顰めた。


 「ユニオン対抗戦かぁ」

 運営からのお知らせを見てふわわがそう呟いた。
 ヨシナリは二人がログインした後、早速新しいイベントについて相談する事にしたのだ。
 ユニオン対抗戦。 

 一チーム十名まで登録可能のイベントで人数は少なくても可。
 ただ、同一ユニオンからは三チームまでしか参加できない。 
 
 「要はマックス三十人まで代表として出せるって訳か」
 
 内容は予選と本戦で分かれており、前者はチーム数が一定以下になるまでの潰し合い。
 後者はチーム単位での試合形式――トーナメントとなる。 優勝したら賞金と商品としてキマイラタイプのフレームを人数分くれるらしい。

 「現物支給とかマジかよ。 キマイラタイプのフレーム滅茶苦茶欲しいなぁ」
 「適正ランクがCのフレームだからな。 今の俺達じゃどう頑張っても手に入らない代物だし使えるならかなりでかい」

 仮に使わないにしても結構な値段で売れるので資産としての価値も高い。
 それが人数分、つまり最大で十機分も貰えるのだ。 大半のユニオンは参加する事となるだろう。
 仮に勝てなくても参加賞は貰えるので出て損のないイベントだった。

 「ま、勝てる気はしないけど、面白そうだしいっちょやりますか!」
 「ウチも楽しみー!」
 「じゃあ全員参加って事で! イベント頑張るぞー!」

 三人はおー!と拳を振り上げた。
 
 
 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。 
 ゲームとの接続を断って元の肉体戻った嘉成は次のイベントの事を考えながら脳内チップからゲームではなくテキストを呼び出す。 そろそろ来る中間考査に備えての勉強を始める必要があるからだ。 成績が振るわなければ『ICpw』を取り上げられるかもしれないので、ここはしっかりと点数を取って余計な心配事は減らしておく必要がある。

 そう考えながらもヨシナリは次のイベント楽しみだなと頭の片隅で思った。
 テスト前と言う事で勉強の時間を作りつつなのでログイン時間を減らしてやや勉学に軸を置いた生活を始める。 ここ最近はマルメルも同じようにテスト勉強、ふわわも少し忙しいとの事で何かと都合が良かった。

 イベントの告知以降、目立った事件も起こらず、他の学生もテストの準備期間という事もあってログイン人数も減っており様々な理由で落ち着いている。
 光陰矢の如し、日々は過ごせば瞬く間に時間は流れ、気が付けばテスト期間に入り準備を怠っていなかったヨシナリはしっかりとした手応えと共にテストを突破した。 結果は翌日に出るので後はそれを両親に報告して完了だ。 

 イベントは四日後。 その間に連携の訓練とイベントの対策を練る必要がある。
 嘉成はそんな事を考えながらログイン。 嘉成からヨシナリへ。
 慣れ親しんだユニオンホームへと入る。 誰もいなかったのでどちらかが来たら訓練の方針を相談して――

 そんな事を考えていた時だった。 メールが来たのは。
 何だと開くとふわわからだった。 内容はリアルが忙しくてしばらくログインできなくなったとの事。 その為、申し訳ないがイベントは欠席するといった内容だった。 ログインすらできない状態らしくゲーム外から送ってきている。 一応、このゲームは直接ログインしなくてもゲーム自体に連絡機能が備わっているのでこういった事ができるようになっていた。

 流石にこれは予想外ではあったが、ふわわにはふわわの生活があるのだ。
 それを曲げてまでこちらに来いと言うのは酷な話だろう。 ふわわには分かりましたと気にしなくていいといった一文を添えて返信。 ふわわから最後に申し訳ないマルメルによろしくと謝罪が返ってきた。

 ただでさえ十人の枠を使い切れない状態でふわわの不参加なのだ。
 二人では予選突破すら難しいだろう。 まぁ、そういう事もある。
 マルメルと二人で気楽に――そんな事を考えているとまたメールがきた。

 今度はマルメルからだ。 
 このタイミングで来る事に凄まじく嫌な予感を覚えたが、開かない事には内容は分からない。
 中身に目を通して――がっくりと肩を落とした。 内容は中間考査の成績がかなり悪かったので親からログイン禁止を言い渡されたらしい。 その為、しばらくは入れないとの事。

 復活するには期末考査で落ちた成績を戻す必要があるので実質一か月はプレイ不可になった。
 メールには本当に申し訳ないと綴られており、本人も気にしている事は明らかだ。
 ヨシナリは努めて表に出さずに了解した旨と勉強頑張れよといった一文を添えて返信。

 「…………うそだろ?」

 思わずそう呟く。 
 ふわわは落ち着くまでとの事なので長くても半月程度らしいがマルメルは一か月近く来ない。
 そしてそれ以前にどちらもイベントに間に合わないのだ。 流石に一人での参加は躊躇われる。
  
 だからと言ってエントリーしてしまったので出ない訳には行かない。
 ヨシナリは大きく溜息を吐いてどうしたものかと天井を仰ぎ――

 「どうしよう」

 口からも不安を漏らした。 
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