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第96話
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次々とまるで作業のように撃破されていくプレイヤー達。
そんな中、未だに無傷で生き残っている者がいた。
ラーガストだ。 この戦場に存在する唯一のSランクプレイヤーである彼はエネミーの動きにたった一人付いていけていた。 彼の機体エイコサテトラは高速戦闘に特化した機体で背面に存在する複数のエネルギー式ウイングで急制動、急加速、急旋回を小刻みに行い、飛んでくる攻撃の悉くを回避していく。
そして隙を見て接近し、ブレードと内蔵されたエネルギーガンで攻撃を行うがエネミーも凄まじい反応で回避し、慣れた動作で撃ち返す。 他のプレイヤーからすれば次元の違う戦いだったのだが、当事者であるラーガストは少しずつではあるが敵の癖を掴みつつあった。
首を刈り取る為に接近してブレードで一閃。 際どい所で躱される。
攻撃モーションに入った同時にラーガストの死角へと移動していた腕による攻撃。
このエネミーはプレイヤーの生態とトルーパーのスペックを良く理解していた。
――そう、死角なのだ。
機体によって差異はあってもプレイヤーの意識には必ず死角が存在する。
見えていても気づかない死角。 何を視たいのか、何を視ているのか。
その二点を正確に理解していればそのプレイヤーの意識の焦点が何処に合わせられているのかはおのずと見えてくる。 同時にどこが見えていないのか、何処から仕掛ければ反応が遅れるのかもまた同様。
歴戦のAランクプレイヤー達があっさりと撃墜された理由がこれだ。
彼等は意識の死角を突かれる形で撃破されていった。 それでも反応する者が多かったが、このレベルの高速戦闘ではコンマ数秒の遅れですら致命的。 Aランクプレイヤー達ですらそうなのだ。
それ以下のプレイヤーではまるで話にならなかった。
このエネミーと対等に戦いたいのであれば死角を作らない事を意識する必要がある。
それを早々に理解したからこそラーガストは生き残っていた。 攻撃しながらも常に周囲を確認し、何処から狙われれば危険なのかを常に意識し、死角を潰す。 同時に意図的に死角と思われる場所を作って敵の攻撃を誘い自らの攻撃に繋げる。 高速戦闘の裏ではこのような高度な駆け引きまで行われていた。
付いていけないプレイヤーは戦闘の早さに次々と振り落とされていく。
そしてみるみるうちにレーダー表示から友軍の数が減っていき――気が付けばトータルで二百万近くいたプレイヤーはたったの数十しか残っていない。 生き残っている者達はエネミーの残骸などに身を隠し、狙われ難い位置にいるだけで後回しにされただけだった。
狙撃などを試みて顔を出せば即座に撃破されるのが目に見えていたので、付いていけないと判断して隠れた彼等は生き残る上では正しいといえる。 ただ、ラーガストの撃破で敗北が確定するので、勝利を目指すのであればあまり褒められた手ではなかったが。
ラーガストが急旋回し、空いた空間をレーザーが通る。
お返しとばかりに撃ち込まれたエネルギー弾をエネミーが僅かにスライドして回避。
ラーガストがエネミーの動きの癖を掴んでいる間にエネミーもまたラーガストの動きを学習しつつあった。
互いに干渉しない位置で二本の腕がラーガストを挟み、拡散レーザーを放つ。
ラーガストは自らの死角を意識して下へ回避。 エネミーの腕はそれぞれ不規則な軌道を描きながら追撃する。 地面に墜落する勢いで急降下し、直前で制動をかけて地面スレスレを這うように飛び、あちこちに転がっているエネミーの残骸の隙間を縫うように飛ぶ。
エネミーは深追いせずに腕を戻し、ラーガストの出方を待つ。
元々、高出力のエネルギーを放出している機体なので視界から消えようとも痕跡を隠す事は不可能。
エネミーとしては闇雲に狙うよりは出てくるのを待っていた方が良いと判断したからだ。
地表に堆積した残骸の一部が爆発し、何かが飛び出してくる。
エネミーはラーガストの回避パターンから動きを予測して攻撃を繰り出すが、放たれたレーザーは過たずに機体を捉える。 命中する事はまずありえないと思っていたので、センサー類の機能を強化。
最大望遠で見るとトルーパー――エンジェルタイプの残骸だった。
大破していたが、動力の生きていた機体を何らかの手段で飛ばして囮にしたのだろう。
僅かに遅れてあちこちから高エネルギー反応。 同様の手段で囮を出現させたようだ。
恐らくラーガストは飛び回りながら、利用できそうな機体を探していたのだろう。
そしてタイミングを見て利用した。 これはラーガストにとっては勝負を決める為の大博打。
エネミーもそれを理解したのか、隠していた札を切る。
何もない腕の部分から追加の腕が次々と出現し、全ての反応に対して攻撃を開始。
囮は存在していなければ意味がない。 つまり早々に全て破壊してしまえば効果がなくなる。
そして囮の用途は意識を散らす事にあり、本命は――
――真下。 囮を飛ばしたと同時に本体は出力を絞って移動し、迎撃に力を割かせた所での強襲。
エネミーは真下から最短距離で刺しに来たラーガストを見ても特に動揺した素振りを見せず、動きもしない。 その様子に嫌な予感を覚えていたが、このまま食い破るしかないと判断して出力を最大にして突撃。 距離が瞬く間に埋まり、もう少しで届くといった所でラーガストとエネミーの間に複数の腕が出現した。
光学迷彩。 恐らくこの瞬間まで温存していたのだろう。
複数の砲口がラーガストを狙う。 だが、彼は全プレイヤーの中でも最高峰のSランクプレイヤーだ。
この程度の事で操作ミスをしない。 危険なのは理解しているが、それがどうした被弾したとしても敵の喉笛を食い破ってやる。 彼は最後の最後まで戦意を衰えさせず、敵を射抜く為に推力を全開にして迷わずに行く。
エネミーの拡散レーザーの攻撃範囲は傘のように広がるので至近距離であればある程、回避が困難になる。 つまり、突っ込んで来る標的に対してはほぼ必中と言っていい。
――放たれれば。
それは両者にとって予想外の出来事だった。 腕が三基破壊されたのだ。
狙撃。 それもラーガストの突破口を開く形での。
三つの砲口が失われた事により攻撃範囲に穴ができる。
その瞬間、エネミーはラーガストへの対処より先に狙撃手を確認してしまった。
反射的な行動ではあったが、そのセンサーは地表、エネミーの残骸に埋もれるようにしていた一機のソルジャータイプのトルーパーを捉えていた。
そんな中、未だに無傷で生き残っている者がいた。
ラーガストだ。 この戦場に存在する唯一のSランクプレイヤーである彼はエネミーの動きにたった一人付いていけていた。 彼の機体エイコサテトラは高速戦闘に特化した機体で背面に存在する複数のエネルギー式ウイングで急制動、急加速、急旋回を小刻みに行い、飛んでくる攻撃の悉くを回避していく。
そして隙を見て接近し、ブレードと内蔵されたエネルギーガンで攻撃を行うがエネミーも凄まじい反応で回避し、慣れた動作で撃ち返す。 他のプレイヤーからすれば次元の違う戦いだったのだが、当事者であるラーガストは少しずつではあるが敵の癖を掴みつつあった。
首を刈り取る為に接近してブレードで一閃。 際どい所で躱される。
攻撃モーションに入った同時にラーガストの死角へと移動していた腕による攻撃。
このエネミーはプレイヤーの生態とトルーパーのスペックを良く理解していた。
――そう、死角なのだ。
機体によって差異はあってもプレイヤーの意識には必ず死角が存在する。
見えていても気づかない死角。 何を視たいのか、何を視ているのか。
その二点を正確に理解していればそのプレイヤーの意識の焦点が何処に合わせられているのかはおのずと見えてくる。 同時にどこが見えていないのか、何処から仕掛ければ反応が遅れるのかもまた同様。
歴戦のAランクプレイヤー達があっさりと撃墜された理由がこれだ。
彼等は意識の死角を突かれる形で撃破されていった。 それでも反応する者が多かったが、このレベルの高速戦闘ではコンマ数秒の遅れですら致命的。 Aランクプレイヤー達ですらそうなのだ。
それ以下のプレイヤーではまるで話にならなかった。
このエネミーと対等に戦いたいのであれば死角を作らない事を意識する必要がある。
それを早々に理解したからこそラーガストは生き残っていた。 攻撃しながらも常に周囲を確認し、何処から狙われれば危険なのかを常に意識し、死角を潰す。 同時に意図的に死角と思われる場所を作って敵の攻撃を誘い自らの攻撃に繋げる。 高速戦闘の裏ではこのような高度な駆け引きまで行われていた。
付いていけないプレイヤーは戦闘の早さに次々と振り落とされていく。
そしてみるみるうちにレーダー表示から友軍の数が減っていき――気が付けばトータルで二百万近くいたプレイヤーはたったの数十しか残っていない。 生き残っている者達はエネミーの残骸などに身を隠し、狙われ難い位置にいるだけで後回しにされただけだった。
狙撃などを試みて顔を出せば即座に撃破されるのが目に見えていたので、付いていけないと判断して隠れた彼等は生き残る上では正しいといえる。 ただ、ラーガストの撃破で敗北が確定するので、勝利を目指すのであればあまり褒められた手ではなかったが。
ラーガストが急旋回し、空いた空間をレーザーが通る。
お返しとばかりに撃ち込まれたエネルギー弾をエネミーが僅かにスライドして回避。
ラーガストがエネミーの動きの癖を掴んでいる間にエネミーもまたラーガストの動きを学習しつつあった。
互いに干渉しない位置で二本の腕がラーガストを挟み、拡散レーザーを放つ。
ラーガストは自らの死角を意識して下へ回避。 エネミーの腕はそれぞれ不規則な軌道を描きながら追撃する。 地面に墜落する勢いで急降下し、直前で制動をかけて地面スレスレを這うように飛び、あちこちに転がっているエネミーの残骸の隙間を縫うように飛ぶ。
エネミーは深追いせずに腕を戻し、ラーガストの出方を待つ。
元々、高出力のエネルギーを放出している機体なので視界から消えようとも痕跡を隠す事は不可能。
エネミーとしては闇雲に狙うよりは出てくるのを待っていた方が良いと判断したからだ。
地表に堆積した残骸の一部が爆発し、何かが飛び出してくる。
エネミーはラーガストの回避パターンから動きを予測して攻撃を繰り出すが、放たれたレーザーは過たずに機体を捉える。 命中する事はまずありえないと思っていたので、センサー類の機能を強化。
最大望遠で見るとトルーパー――エンジェルタイプの残骸だった。
大破していたが、動力の生きていた機体を何らかの手段で飛ばして囮にしたのだろう。
僅かに遅れてあちこちから高エネルギー反応。 同様の手段で囮を出現させたようだ。
恐らくラーガストは飛び回りながら、利用できそうな機体を探していたのだろう。
そしてタイミングを見て利用した。 これはラーガストにとっては勝負を決める為の大博打。
エネミーもそれを理解したのか、隠していた札を切る。
何もない腕の部分から追加の腕が次々と出現し、全ての反応に対して攻撃を開始。
囮は存在していなければ意味がない。 つまり早々に全て破壊してしまえば効果がなくなる。
そして囮の用途は意識を散らす事にあり、本命は――
――真下。 囮を飛ばしたと同時に本体は出力を絞って移動し、迎撃に力を割かせた所での強襲。
エネミーは真下から最短距離で刺しに来たラーガストを見ても特に動揺した素振りを見せず、動きもしない。 その様子に嫌な予感を覚えていたが、このまま食い破るしかないと判断して出力を最大にして突撃。 距離が瞬く間に埋まり、もう少しで届くといった所でラーガストとエネミーの間に複数の腕が出現した。
光学迷彩。 恐らくこの瞬間まで温存していたのだろう。
複数の砲口がラーガストを狙う。 だが、彼は全プレイヤーの中でも最高峰のSランクプレイヤーだ。
この程度の事で操作ミスをしない。 危険なのは理解しているが、それがどうした被弾したとしても敵の喉笛を食い破ってやる。 彼は最後の最後まで戦意を衰えさせず、敵を射抜く為に推力を全開にして迷わずに行く。
エネミーの拡散レーザーの攻撃範囲は傘のように広がるので至近距離であればある程、回避が困難になる。 つまり、突っ込んで来る標的に対してはほぼ必中と言っていい。
――放たれれば。
それは両者にとって予想外の出来事だった。 腕が三基破壊されたのだ。
狙撃。 それもラーガストの突破口を開く形での。
三つの砲口が失われた事により攻撃範囲に穴ができる。
その瞬間、エネミーはラーガストへの対処より先に狙撃手を確認してしまった。
反射的な行動ではあったが、そのセンサーは地表、エネミーの残骸に埋もれるようにしていた一機のソルジャータイプのトルーパーを捉えていた。
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