Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第74話

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 ヨシナリもその違和感を感じた一人だった。
 
 「何かおかしくないか?」
 「何が?」
 「蟻の出現タイミングだよ。 ちょっと早い気がする」
 
 マルメルは空に向かって銃撃しながら自身の記憶を掘り返すが、あの時は目の前の事に必死でよく思い出せなかった。
 
 「うーん。 すまん、思い出せない」
 
 ヨシナリはちらりと画面の端で回っているタイマーを確認する。
 Dランクプレイヤーの参戦まで秒読みの状態だ。 それに関しては問題ないのだがヨシナリの記憶が正しければ前回、蟻が出現したのはDランクプレイヤーの参戦後だったはずだ。 
 
 「タイミングがずれてるって事か?」
 「いや、それだけなら問題ないんだが、もしかしたら基地の損壊度か敵の撃破数で別口のフラグが立って難易度が上がるんじゃないかって疑ってる」
 「マジかよ。 出てくるのが前倒しになる程度ならどうにでもなるだろうが――いや、上位勢の参戦タイミングと噛み合わなくなるのか」
 「あぁ、単純に早く来られるだけでも割ときつい」

 特に蟻の機動性はⅡ型でも付いていくのでやっとだ。
 Ⅰ型ではスペック的な意味でも正面から戦り合うのは得策ではない。
 周囲に視線を走らせると空中で優勢に進めていた戦況は拮抗し、上からの攻撃に防壁を守っている者達にも被害が出ていた。

 「あー、思い出してきた。 そう言えば蟻が出て来た頃にはDランクの連中居たなぁ」
 「あぁ、これが後に響かなければいいんだがな」
 
 ヨシナリも次々と蟻型エネミーを落としながらそう呟く。
 そうこうしている内にカウントがゼロになり、Dランクプレイヤー達の参戦が始まった。
 こちらもテコ入れが行われたようで一部にキマイラタイプが混ざっている。

 「お、キマイラタイプがいる。 いいなー」
 「前に聞いたけど、慣れるまで結構かかるらしいぞ」
 
 ヨシナリのいう通り、変えてからそこまで時間が経っていないせいか、参戦したキマイラタイプは前回の参戦者に比べると動きがあまり良くなかった。
 それでも強力な戦力である事には変わりはないので戦況を好転させる事に一役買っている。

 「後は問題のカタツムリか」

 この様子だと出現が早まりそうだったので、何らかの対処が必要かもしれない。
 流石に明確な打開策を持ち合わせていないヨシナリはハイランカーの活躍に期待する事にしていたが。
 


 ヨシナリと似た考えの者は前線にも一定数存在した。
 Dランクプレイヤーはそれが顕著で三回目となれば前回、前々回との違いがあれば敏感に察知する。

 「やっぱり早くなってやがるな」
 「蟻共の出現タイミングか」

 そのプレイヤーは蟻を撃墜しながら仲間とそんな会話をしていた。
 
 「この調子だと上位の蟻もそうかからずに出てきそうだ」
 「今回はユニオン機能の実装で下位のプレイヤーの装備を強化できる点がデカかったな」
 「あぁ、エネルギー系の武装を最初から持ち込めるから、俺達は蟻の駆除に集中できる」
 
 そう、彼らのいう通り、ユニオン機能により低ランクプレイヤーに大火力の武装とそれを支えるパーツを支給できるので序盤から高い殲滅力を発揮できるので上位勢はその分、より脅威度の高い敵に集中できる。 大きい規模のユニオンはほぼ全てが実行している作戦だった。

 その為に彼等はひたすらにミッションをこなして大量の金を稼ぎ、メンバーの強化に力を注いだ。
 全てはこの三回目となる碌でもないイベントを突破し、次へと進む為に。 
 全く同じイベントを三回も繰り返しているだけあって、プレイヤーの大半は理解していた。

 クリアしなければ先に進む事が出来ない。 
 つまり、このゲームはプレイヤー達が道を切り開かなければならないのだと。
 先を見たければこの戦いに勝たなければならない。 だからこそ彼等は全力でこのイベントに挑むのだ。

 敵の出現タイミングの変化といった想定外は起こったが、戦況自体は優位に推移している。 
 防壁の損壊率は前回の三分の一以下。 金にものを言わせて集めた重機関銃やセントリーガンは効果を発揮して陸上の敵を寄せ付けず、エネルギーフィールドやライフルがヤドカリ型エネミーの狙撃から味方を守りその被害を大きく減らす。

 本来ならI、Hランクプレイヤーでは入手できないような装備を持ち込める状況はかなり大きい。
 お陰で上位のプレイヤーは蟻型に専念できている。 加えて、例のカタツムリに関しても対策は講じてあるので撃破は可能だった。 初見時は一方的にやられるだけで、二回目はデータ不足により敗北する事となったが今回は違う。 プレイヤー達は前回の戦闘記録から徹底的に敵の情報を精査し、何が効果があるのかを調べ上げ、対策を練ってきた。

 基地上空の蟻の大半は駆逐され、制空権を完全に押さえられるといったところで敵に変化が生じる。

 「――ったく、早すぎんだろ」
 
 上位の蟻型エネミーの出現だった。 
  
 「Cランクの連中は!?」
 「まだ少しかかる」
 
 画面の端に表示されているタ時間はまだしばらくの時間が必要であると示していた。

 「Cランクなしでこいつらの相手かぁ。 こっちにもキマイラタイプ結構いるし、何とかなるだろ」
 「槍持ち優先。 ガトリング持ちは下の連中が片付けてくれるから基本無視で」
 「おぉ! くそったれな虫共め前と同じだと思うなよ!」
 「Cランクの連中が来る前に掃除しといてやらぁ!!」

 Dランクプレイヤー達は戦意を漲らせながら敵へと突撃していく。
 前回とは違って優勢である事から勝利への期待感で士気も高く、戦意は漲っている。
 後は最後に現れる絶望を乗り越えた時、彼等は勝利を分かち合う事になるだろう。
 
 
 「それにしても前回と比べて随分とヌルくなったなぁ」
 
 マルメルはそう言って銃口を下ろす。
 理由は敵が基地の上空から完全に姿を消したからだ。
 ヨシナリは基地の外にいる敵を狙って撃ち続けているが、同意見だった。

 「あぁ、流石に同じイベントを擦り続けるのは不味いと考えて今回でクリアさせようとしていると思いたいが……」

 そんな事を言いながらもヨシナリは内心でそれは違うと感じていた。
 このゲームは一貫してプレイヤーに死力を尽くす事を求めている。
 それを曲げてまでこんなヌルい展開を許すのだろうか? 確かに誰もクリアできなければそれはそれで問題ではある。 だが、前回が十一時間三十分といった記録だった以上、何とかクリアできる難易度ではあったのだ。
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