65 / 485
第65話
しおりを挟む
実際、『星座盤』のリーダーは今回の試合では碌に活躍しないまま沈んだので、評価のしようがないというのが三人の共通認識だった。
「まぁ、俺に至っては接触すらしなかったし、フカヤもとどめを刺しに行っただけだから本当にいたのかいなかったのかってレベルで影が薄かったな」
ツガルからすれば何も見ていないので凄いのかそうでないのかすらも分からなかった。
フカヤも後ろから撃って終わりだったので、精々自分に気が付かなった程度の技量ぐらいしか言えない。
ヨシナリに関しては本当に何もなかった。
「うーん。 記録を見る感じスナイパーとしては優秀に見えたんだけど、あっさり勝っちゃったから凄い所は見れなかったって事かぁ」
カナタはふむふむと小さく頷く。
「――で、ここからが本題なんだけど、取り込めそう?」
元々、カナタ達『栄光』は報酬まで出して他所と、それも格下と練習試合を組むのは見込みがありそうな者を取り込むためだ。
三人は思わず顔を見合わせるとフカヤは首を捻り、ツガルは肩を竦め、センドウは首を横に振る。
「恐らくだけど無理だと思う。 見た感じ、身内だけで楽しくやりたいって感じで、集団に取り込まれるのはあんまり好きじゃなさそう」
「あぁ、それは俺もちょっと思った。 あれだけ強い面子が揃ってるんだからどっか大きい所に入るか、とっくに頭数を揃えてるだろ」
それを聞くとカナタはあーと小さく唸って机に突っ伏す。
「やっぱり優良物件は簡単に手に入らないかぁ……。 もうちょっとしたら復刻イベントあるし、戦力はちょっとでも増やしときたいんだよね」
「流石に三回目だからな。 俺としてももう全く同じイベントやるのはうんざりだから、ここでどうにか突破したいところだ」
前回のイベントでカナタは終盤まで生き残った身ではあったが、例のカタツムリにまともに近づけずにあまり目立った活躍ができなかった。
ツガル、フカヤは蟻にやられたので、その事に触れられると渋い顔になる。
特に槍装備の蟻型エネミーはステルスが通用しないのかあっさりと見つかって串刺しにされたフカヤとしては中々に屈辱的な終わりだった。
「二回目の時点で薄々感じていたけど、運営は本気でクリアするまで私達にあのクソみたいなイベントをやらせるつもりだ。 誰かがクリアしてくれるなんて事は期待しない方がいい。 本気で先に進みたいのなら全力で臨むべきだと思う」
カナタは次で勝とうと本気で考えており、その為に戦力の拡充に力を入れていた。
その矢先にユニオン機能の実装だったので、これは渡りに船だとひたすらに組織の強化に力を入れていたのだ。 ただ、彼女には別の目的もあったのだが――
「あぁ、そう言えばご執心のあいつは引っ張れそうなのか?」
彼女の思考を読んだのかと尋ねたくなるタイミングでツガルがそんな事を言い出した。
カナタの動きがピタリと止まる。 センドウが止めておけと言わんばかりに肘で小突くがもう遅かった。
「イワモトさんに交渉を頼んでるんだけど全然――あぁぁ! 思い出したら腹が立ってきた! ユニオン機能が実装されたから一人じゃ限界があるから誘ってあげたのに何よあの態度! こんなに世話を焼いてあげてるのに素っ気なく『ほっといてくれ』よ!? ふざけんじゃないっての! こっちこそ願い下げよ! でも、私は優しいから謝れば許してあげようと思ってるのにあいつと来たら……あー思い出したら腹が立ってきた! もう聞いてよ!? あいつって――」
カナタが話し始めたと同時にフカヤは用事を思い出しましたと消え、同様に逃げようとしたツガルをセンドウが捕まえて責任を取れとその場に留まらせる。
ツガルはスイッチを入れてしまったと心の底から後悔した。 戦力の拡充は『栄光』の基本方針ではあったが、それとは別にカナタ個人が引き入れたいと考えていたプレイヤーがいたようで、何度誘ってもいい返事は貰えていない。
ユニオンのトップとして特定の個人にこだわるのはあまりいい事ではないのだが、どうやらリアルの知人らしく意地でも引き入れたいといった考えが見える。
センドウからすれば非常に分かり易い態度ではあったが、相手の反応からすると押せば押すほど逃げていくタイプなので交渉をイワモト――他のユニオンメンバーに任せたのは賢い選択といえる。
それでも話を通すのは少し難しいだろうと思っていた。
センドウ個人としては加入は大歓迎で、理由はそのプレイヤーの個人ランクがAだからだ。
このゲームで非常に少ない上位プレイヤーの参加はユニオンにとっても大きい。
「今朝だって私が起こしに行ってあげたのに嫌そうな顔をして――」
いつの間にか日常の愚痴へと変わっていたカナタの話はヒートアップを続けており、ツガルは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったがこの様子だと満足するまで聞かされる事になるだろう。
聞き流そうとすると「聞いてる!?」と相槌を打たせにくるので、それすらも許されない。
ツガルは俺が悪かったから落ち着いてくれとカナタを説得していたが、耳を貸す様子はなく今度は朝食の時に行儀が悪いといった心底どうでもいい話へとシフトしていった。
「あ、ごめんなさい。 ちょっと用事があるから私はこれで」
そろそろ聞いていられなくなったのでセンドウは用事を捏造してその場を後にした。
ツガルは助けを求めるような視線を向けてきたが無視。
退出してどうしようかと悩んでいるとちょうど用事を済ませて来たらしいユニオンメンバーが歩いてきた。 さっき少しだけ話題になったイワモトだ。
イワモトはセンドウの姿を認めると小さく手を上げた。
「やぁ、模擬戦お疲れ様。 どうだった?」
「少し危なかったけど勝てたわ」
「君達で危なかったとなると相手は相当だったみたいだね。 ところでカナタ君は奥かな? 一応、結果の報告を行いたいんだが――」
「いるけど今は止めておいた方が良いかも。 ツガルが例の彼の話をしたからスイッチが入っちゃってるわ」
「そうか。 カナタ君はアレさえなければリーダーとして優秀なんだが……」
「昔から恋は盲目というし、あれぐらいの方が可愛げがあっていいんじゃない?」
巻き込まれるのはごめんだけどとセンドウが付け加えるとイワモトは小さく笑う。
「まぁ、歳の行ったおっさんからすれば眩しい限りだよ」
取り合えず様子を見てから判断するよとイワモトは奥へと歩いて行った。
センドウは小さく嘆息し、今度こそその場を後にした。
「まぁ、俺に至っては接触すらしなかったし、フカヤもとどめを刺しに行っただけだから本当にいたのかいなかったのかってレベルで影が薄かったな」
ツガルからすれば何も見ていないので凄いのかそうでないのかすらも分からなかった。
フカヤも後ろから撃って終わりだったので、精々自分に気が付かなった程度の技量ぐらいしか言えない。
ヨシナリに関しては本当に何もなかった。
「うーん。 記録を見る感じスナイパーとしては優秀に見えたんだけど、あっさり勝っちゃったから凄い所は見れなかったって事かぁ」
カナタはふむふむと小さく頷く。
「――で、ここからが本題なんだけど、取り込めそう?」
元々、カナタ達『栄光』は報酬まで出して他所と、それも格下と練習試合を組むのは見込みがありそうな者を取り込むためだ。
三人は思わず顔を見合わせるとフカヤは首を捻り、ツガルは肩を竦め、センドウは首を横に振る。
「恐らくだけど無理だと思う。 見た感じ、身内だけで楽しくやりたいって感じで、集団に取り込まれるのはあんまり好きじゃなさそう」
「あぁ、それは俺もちょっと思った。 あれだけ強い面子が揃ってるんだからどっか大きい所に入るか、とっくに頭数を揃えてるだろ」
それを聞くとカナタはあーと小さく唸って机に突っ伏す。
「やっぱり優良物件は簡単に手に入らないかぁ……。 もうちょっとしたら復刻イベントあるし、戦力はちょっとでも増やしときたいんだよね」
「流石に三回目だからな。 俺としてももう全く同じイベントやるのはうんざりだから、ここでどうにか突破したいところだ」
前回のイベントでカナタは終盤まで生き残った身ではあったが、例のカタツムリにまともに近づけずにあまり目立った活躍ができなかった。
ツガル、フカヤは蟻にやられたので、その事に触れられると渋い顔になる。
特に槍装備の蟻型エネミーはステルスが通用しないのかあっさりと見つかって串刺しにされたフカヤとしては中々に屈辱的な終わりだった。
「二回目の時点で薄々感じていたけど、運営は本気でクリアするまで私達にあのクソみたいなイベントをやらせるつもりだ。 誰かがクリアしてくれるなんて事は期待しない方がいい。 本気で先に進みたいのなら全力で臨むべきだと思う」
カナタは次で勝とうと本気で考えており、その為に戦力の拡充に力を入れていた。
その矢先にユニオン機能の実装だったので、これは渡りに船だとひたすらに組織の強化に力を入れていたのだ。 ただ、彼女には別の目的もあったのだが――
「あぁ、そう言えばご執心のあいつは引っ張れそうなのか?」
彼女の思考を読んだのかと尋ねたくなるタイミングでツガルがそんな事を言い出した。
カナタの動きがピタリと止まる。 センドウが止めておけと言わんばかりに肘で小突くがもう遅かった。
「イワモトさんに交渉を頼んでるんだけど全然――あぁぁ! 思い出したら腹が立ってきた! ユニオン機能が実装されたから一人じゃ限界があるから誘ってあげたのに何よあの態度! こんなに世話を焼いてあげてるのに素っ気なく『ほっといてくれ』よ!? ふざけんじゃないっての! こっちこそ願い下げよ! でも、私は優しいから謝れば許してあげようと思ってるのにあいつと来たら……あー思い出したら腹が立ってきた! もう聞いてよ!? あいつって――」
カナタが話し始めたと同時にフカヤは用事を思い出しましたと消え、同様に逃げようとしたツガルをセンドウが捕まえて責任を取れとその場に留まらせる。
ツガルはスイッチを入れてしまったと心の底から後悔した。 戦力の拡充は『栄光』の基本方針ではあったが、それとは別にカナタ個人が引き入れたいと考えていたプレイヤーがいたようで、何度誘ってもいい返事は貰えていない。
ユニオンのトップとして特定の個人にこだわるのはあまりいい事ではないのだが、どうやらリアルの知人らしく意地でも引き入れたいといった考えが見える。
センドウからすれば非常に分かり易い態度ではあったが、相手の反応からすると押せば押すほど逃げていくタイプなので交渉をイワモト――他のユニオンメンバーに任せたのは賢い選択といえる。
それでも話を通すのは少し難しいだろうと思っていた。
センドウ個人としては加入は大歓迎で、理由はそのプレイヤーの個人ランクがAだからだ。
このゲームで非常に少ない上位プレイヤーの参加はユニオンにとっても大きい。
「今朝だって私が起こしに行ってあげたのに嫌そうな顔をして――」
いつの間にか日常の愚痴へと変わっていたカナタの話はヒートアップを続けており、ツガルは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったがこの様子だと満足するまで聞かされる事になるだろう。
聞き流そうとすると「聞いてる!?」と相槌を打たせにくるので、それすらも許されない。
ツガルは俺が悪かったから落ち着いてくれとカナタを説得していたが、耳を貸す様子はなく今度は朝食の時に行儀が悪いといった心底どうでもいい話へとシフトしていった。
「あ、ごめんなさい。 ちょっと用事があるから私はこれで」
そろそろ聞いていられなくなったのでセンドウは用事を捏造してその場を後にした。
ツガルは助けを求めるような視線を向けてきたが無視。
退出してどうしようかと悩んでいるとちょうど用事を済ませて来たらしいユニオンメンバーが歩いてきた。 さっき少しだけ話題になったイワモトだ。
イワモトはセンドウの姿を認めると小さく手を上げた。
「やぁ、模擬戦お疲れ様。 どうだった?」
「少し危なかったけど勝てたわ」
「君達で危なかったとなると相手は相当だったみたいだね。 ところでカナタ君は奥かな? 一応、結果の報告を行いたいんだが――」
「いるけど今は止めておいた方が良いかも。 ツガルが例の彼の話をしたからスイッチが入っちゃってるわ」
「そうか。 カナタ君はアレさえなければリーダーとして優秀なんだが……」
「昔から恋は盲目というし、あれぐらいの方が可愛げがあっていいんじゃない?」
巻き込まれるのはごめんだけどとセンドウが付け加えるとイワモトは小さく笑う。
「まぁ、歳の行ったおっさんからすれば眩しい限りだよ」
取り合えず様子を見てから判断するよとイワモトは奥へと歩いて行った。
センドウは小さく嘆息し、今度こそその場を後にした。
10
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
惨劇のアクター
鮫島
SF
2895年、第三次世界大戦が行われた後の地球
一度は絶滅まで追い込まれた人類だったが、とある理由で科学が大幅に飛躍、それにより打ち捨てられた都市は回復し、人類は進化した…それはある一つの技術
人々はそれを「マキナ(舞台装置)」呼ぶ、異次元の能力。
火を操り、水を生み出し、植物を思うように動かす…まさに「神の御業」そのもの
初めは全ての人が歓喜し、それを人類の発展へと役立てた…しかし、必ず大きな力にはそれの犠牲になった者達もいる
これは、そんな神の御業で復讐をなすものを取り締まり、捕獲し、収容する…
とある国家直属の特務機関13課「アクター(演者)」に所属する存在とアクターに戦争を仕掛ける、復讐者の復讐劇である
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

宇宙人な彼女?!
naomikoryo
SF
「君は……本当に地球人なのか?」
高校入学を迎えた天野悠真(あまの ゆうま)は、新しいクラスで出会った美少女・星宮ルナに一目惚れする。
ところが彼女は、「高嶺の花」と呼ばれる謎多き存在で、ほとんどのクラスメイトが近づけないほどの孤高なお嬢様だった。
勇気を出して話しかけるも、なぜか会話が噛み合わない。
さらには、ある日動物と話しているルナの姿を目撃してしまう。
「……君、何者?」
そう問いかけると、彼女は微笑みながらも意味深な言葉を残した。
「私の正体を知ってしまったのですもの……あなたも消すしかないですわね?」
――いや、怖い怖い!!
しかし、実はルナは本当に“普通じゃない”存在だった。
彼女は、地球を調査するためにやってきた“宇宙の姫”だったのだ。
さらに、謎の転校生・シリウス・エレナが現れ、ルナの「監視」を始める。
ルナとエレナは、体育の授業で持久走のタイムを人間の限界を超えた記録に塗り替え、テニスの試合ではプロ選手すら凌駕する超次元バトルを繰り広げる。
果たして悠真は、彼女たちの「普通じゃない高校生活」に巻き込まれながらも、無事に日常を送ることができるのか――!?
「君は宇宙人だけど……俺にとっては、大切な恋人だから。」
超ハイスペック宇宙人お嬢様 × 平凡高校生の、笑いあり、ドキドキありのラブコメSF!
常識を超えた学園生活が、今始まる!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる