Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第65話

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 実際、『星座盤』のリーダーは今回の試合では碌に活躍しないまま沈んだので、評価のしようがないというのが三人の共通認識だった。
 
 「まぁ、俺に至っては接触すらしなかったし、フカヤもとどめを刺しに行っただけだから本当にいたのかいなかったのかってレベルで影が薄かったな」

 ツガルからすれば何も見ていないので凄いのかそうでないのかすらも分からなかった。
 フカヤも後ろから撃って終わりだったので、精々自分に気が付かなった程度の技量ぐらいしか言えない。
 ヨシナリに関しては本当に何もなかった。

 「うーん。 記録を見る感じスナイパーとしては優秀に見えたんだけど、あっさり勝っちゃったから凄い所は見れなかったって事かぁ」
 
 カナタはふむふむと小さく頷く。 

 「――で、ここからが本題なんだけど、取り込めそう?」

 元々、カナタ達『栄光』は報酬まで出して他所と、それも格下と練習試合を組むのは見込みがありそうな者を取り込むためだ。 
 三人は思わず顔を見合わせるとフカヤは首を捻り、ツガルは肩を竦め、センドウは首を横に振る。

 「恐らくだけど無理だと思う。 見た感じ、身内だけで楽しくやりたいって感じで、集団に取り込まれるのはあんまり好きじゃなさそう」
 「あぁ、それは俺もちょっと思った。 あれだけ強い面子が揃ってるんだからどっか大きい所に入るか、とっくに頭数を揃えてるだろ」

 それを聞くとカナタはあーと小さく唸って机に突っ伏す。

 「やっぱり優良物件は簡単に手に入らないかぁ……。 もうちょっとしたら復刻イベントあるし、戦力はちょっとでも増やしときたいんだよね」
 「流石に三回目だからな。 俺としてももう全く同じイベントやるのはうんざりだから、ここでどうにか突破したいところだ」

 前回のイベントでカナタは終盤まで生き残った身ではあったが、例のカタツムリにまともに近づけずにあまり目立った活躍ができなかった。
 ツガル、フカヤは蟻にやられたので、その事に触れられると渋い顔になる。
 特に槍装備の蟻型エネミーはステルスが通用しないのかあっさりと見つかって串刺しにされたフカヤとしては中々に屈辱的な終わりだった。

 「二回目の時点で薄々感じていたけど、運営は本気でクリアするまで私達にあのクソみたいなイベントをやらせるつもりだ。 誰かがクリアしてくれるなんて事は期待しない方がいい。 本気で先に進みたいのなら全力で臨むべきだと思う」

 カナタは次で勝とうと本気で考えており、その為に戦力の拡充に力を入れていた。
 その矢先にユニオン機能の実装だったので、これは渡りに船だとひたすらに組織の強化に力を入れていたのだ。 ただ、彼女には別の目的もあったのだが――

 「あぁ、そう言えばご執心のあいつは引っ張れそうなのか?」

 彼女の思考を読んだのかと尋ねたくなるタイミングでツガルがそんな事を言い出した。
 カナタの動きがピタリと止まる。 センドウが止めておけと言わんばかりに肘で小突くがもう遅かった。

 「イワモトさんに交渉を頼んでるんだけど全然――あぁぁ! 思い出したら腹が立ってきた! ユニオン機能が実装されたから一人じゃ限界があるから誘ってあげたのに何よあの態度! こんなに世話を焼いてあげてるのに素っ気なく『ほっといてくれ』よ!? ふざけんじゃないっての! こっちこそ願い下げよ! でも、私は優しいから謝れば許してあげようと思ってるのにあいつと来たら……あー思い出したら腹が立ってきた! もう聞いてよ!? あいつって――」

 カナタが話し始めたと同時にフカヤは用事を思い出しましたと消え、同様に逃げようとしたツガルをセンドウが捕まえて責任を取れとその場に留まらせる。
 ツガルはスイッチを入れてしまったと心の底から後悔した。 戦力の拡充は『栄光』の基本方針ではあったが、それとは別にカナタ個人が引き入れたいと考えていたプレイヤーがいたようで、何度誘ってもいい返事は貰えていない。

 ユニオンのトップとして特定の個人にこだわるのはあまりいい事ではないのだが、どうやらリアルの知人らしく意地でも引き入れたいといった考えが見える。
 センドウからすれば非常に分かり易い態度ではあったが、相手の反応からすると押せば押すほど逃げていくタイプなので交渉をイワモト――他のユニオンメンバーに任せたのは賢い選択といえる。

 それでも話を通すのは少し難しいだろうと思っていた。
 センドウ個人としては加入は大歓迎で、理由はそのプレイヤーの個人ランクがAだからだ。
 このゲームで非常に少ない上位プレイヤーの参加はユニオンにとっても大きい。

 「今朝だって私が起こしに行ってあげたのに嫌そうな顔をして――」

 いつの間にか日常の愚痴へと変わっていたカナタの話はヒートアップを続けており、ツガルは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったがこの様子だと満足するまで聞かされる事になるだろう。
 聞き流そうとすると「聞いてる!?」と相槌を打たせにくるので、それすらも許されない。

 ツガルは俺が悪かったから落ち着いてくれとカナタを説得していたが、耳を貸す様子はなく今度は朝食の時に行儀が悪いといった心底どうでもいい話へとシフトしていった。
 
 「あ、ごめんなさい。 ちょっと用事があるから私はこれで」

 そろそろ聞いていられなくなったのでセンドウは用事を捏造してその場を後にした。
 ツガルは助けを求めるような視線を向けてきたが無視。 
 退出してどうしようかと悩んでいるとちょうど用事を済ませて来たらしいユニオンメンバーが歩いてきた。 さっき少しだけ話題になったイワモトだ。

 イワモトはセンドウの姿を認めると小さく手を上げた。

 「やぁ、模擬戦お疲れ様。 どうだった?」
 「少し危なかったけど勝てたわ」
 「君達で危なかったとなると相手は相当だったみたいだね。 ところでカナタ君は奥かな? 一応、結果の報告を行いたいんだが――」
 「いるけど今は止めておいた方が良いかも。 ツガルが例の彼の話をしたからスイッチが入っちゃってるわ」
 「そうか。 カナタ君はアレさえなければリーダーとして優秀なんだが……」
 「昔から恋は盲目というし、あれぐらいの方が可愛げがあっていいんじゃない?」
 
 巻き込まれるのはごめんだけどとセンドウが付け加えるとイワモトは小さく笑う。
 
 「まぁ、歳の行ったおっさんからすれば眩しい限りだよ」
 
 取り合えず様子を見てから判断するよとイワモトは奥へと歩いて行った。
 センドウは小さく嘆息し、今度こそその場を後にした。 
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