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第61話

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 ツガルは突撃銃を乱射する。 下手に狙ってもどうせ当たらないのでばら撒くような形で撃ちまくる。
 ふわわは同じトルーパーかと疑いたくなるような動きで即座にビルの陰入り、ツガルの射線が通らないように移動。 ビルの隙間を縫うように移動しており、狙いが付けられない。

 ――やり難い。

 フカヤは彼の近くで身を隠して待機しており、隙を見せたら即座に撃ち抜けるように準備をしているのだが、その隙が全く存在しない。 明らかに警戒されている。
 こうなると最初の一撃を躱されたのは痛かった。 ふわわの動きは明らかにフカヤの動きを警戒している。
 
 この状態でモタつくとマルメルが追い付いてくるので急がなければならないが、フカヤは奇襲専門で正面切っての戦いは不向きだ。
 そうなるとツガルが頑張る必要があるのだが、実質二対一になると非常に不味い。
 特にふわわ相手に隙を晒すと一瞬で刈り取られる。 可能であればマルメルと離れている間に仕留めたい。

 『星座盤』の戦い方はそれぞれの得意分野を最大限に活かしたもので、嵌まれば強いが人数の少なさ故に攻撃パターンの引き出しがそう多くない。 
 過去の戦闘映像と実際に行った数度の攻防で大雑把ではあるが見えて来た。

 攻撃の要はふわわである事は間違いないが、彼女は連携をとるといった行動があまり得意ではないのか突出する傾向が強い。 それをフォローする形でマルメルがポジショニングしているが、機体の速度差もあって置いて行かれるのでふわわが突出し、少し遅れてマルメルが合流するといった形になっていた。

 残りのヨシナリは戦場全体を俯瞰して戦況をコントロールといったところだろう。
 ただ、そのヨシナリは現在、センドウに抑えられている状態なので機能していない。
 その結果、彼女の突出を制御できる存在がおらず、味方を置いて突っ込ん行くといった形になっていた。

 確かに個人技という点ではふわわの能力は突出しているといえる。
 恐らくランク戦で当たれば高い確率で負けるだろう。 それほどまでに彼女は強い。
 だが、これは集団戦。 チーム単位での連携が求められる以上、協調性のない個人はノイズでしかない。 厳しい相手であることは間違いないが、付け入る隙は充分にある。 

 そして隙があるなら勝機を手繰り寄せる事も可能。 

 「一応、格上なんでな。 簡単にやられてやる訳にはいかねーんだよ」

 ツガルは小さくそう呟きながらマガジンを交換してビルの陰から飛び出し、フカヤはクロスボウを構えつつ隙を窺う。


 ――見失った。

 ツガルによる足止めを受けた結果、本命のセンドウを取り逃がしてしまった。
 ふわわはセンドウの処理を最優先事項として脳内に置いている。 センドウさえ始末すればヨシナリが自由になるので戦場の主導権を取り戻す事が可能だろう。 そうなってしまえば勝ちが見えてくる。

 流石は格上のユニオン。 手強いとふわわは素直に敵の強さを認める。
 一対一なら誰と当たっても勝つ自信はあるが、チーム単位となるとこうも違ってくるのか。
 集団戦と銘打っているが所詮は個人戦の延長と捉えていた面もあったので、彼女は不利なこの状況になって連携の重要性を強く認識した。

 だからと言ってやり方を変えるような真似はできない。 この『星座盤』というチームは個人技――各々の得意分野を阻害しない形で組み合わせて長所を活かしているので、本当の意味での連携は取れていない。 いや、以前のレラナイト戦を見ればヨシナリとマルメルに関しては上手に連携していたような気がする。 つまり連携ができていないのは自分だけなのだ。

 実の所、自覚はあった。 後方から必死に追いかけてくるマルメルはどうにか自分をフォローしようとしてくれているのは理解していたが、ふわわのスピードに付いていけない以上はおいていかざるを得ない。 結果、彼女だけ連携の外に身を置く事となってしまったのだ。

 分かってはいても無理に合わせると自身の長所が死ぬと彼女は考えているので、行動を変える事はしない。 ふわわは今の自分にできる事を全力でやり抜く。 
 それこそが味方の勝利に繋がると信じているからだ。 センドウを仕留める事は現状で難しい。
 
 優先順位を切り替えるべきだ。 ここで狙うのはツガルではなくフカヤ。
 あの居場所がはっきりしない暗殺者を仕留める事が出来たのならツガルをマルメルに任せる事ができる。 問題は近くにはいるはずだが、何処にいるのかが分からない事だ。
 
 感じからしてツガルの近くにいるはずだ。 フカヤの武器は痕跡の掴み辛いの大型のクロスボウ。
 身を隠すというスタイルとの兼ね合いで音が出る武器は持っていないはずだ。
 そうなると選択肢はそう多くない。 恐らく他は持っていても精々、拳銃程度だろう。

 加えて、あの距離で躱せた事を踏まえると射撃の腕はお世辞にもいいと言えない。
 恐らく、フカヤ最大の強みはじっと相手の隙を伺う忍耐力だ。 陰で相手を観察し続け、隙を晒した瞬間に仕留めに行く。 そこまで分かればやりようはある。

 こういう相手は餌を撒いて釣りだすのだ。 ビルの壁面を蹴ってあちこち飛び回る。
 ツガルの突撃銃の照準がふわわを追い切れずにあちこちに彷徨う。 闇雲に撃たない点からも冷静である事が窺えるが、捉え切れていないのは分かっているので少し引っかき回せば隙を作る事は容易い。
  
 上下、左右と縦横無尽に飛び回る。 
 ここまで軽やかな動きはⅡ型に変えていないと不可能だっただろう。

 『クソ、猿かなにかかよ!』
 「猿はちょっと酷いんじゃない?」

 飛ぶと見せかけてビルの壁面を掴んで停止。 
 釣られたツガルの銃口が何もない場所に向いたと同時に真上を飛び越え、背後を取る。
 
 『あ、クソ――』
 
 咄嗟に振りむこうとするがもう遅い。 首を狙ってダガーを一閃しようとして身を屈める。
 ふわわの頭上をボルトが通り過ぎた。 フカヤがツガルを守る為に仕掛けた攻撃だ。 

 ――釣れた。

 飛び道具である以上、射線上にツガルが居る位置からは放てない。
 加えて身を隠せる場所と二つの条件を満たす場所はある程度絞り込める。
 候補が分かれば後は動いた瞬間に反応すればいい。 そして案の定、仲間を守る為に撃ってきた。

 この距離なら逃がさない。 ふわわはツガルの機体を蹴ってフカヤの方へと突っ込む。
 向かってくる事に焦ったフカヤはクロスボウを投げ捨て、持っている拳銃を連射するが銃口が見えている状態での射撃なら躱す事は難しくなく、掻い潜ってそのまま肉薄。 瞬く間に暗殺者をその間合いに捉えた。
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