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21-2 月桂樹

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「私の罪を告白します」


 月桂樹の物語は、ハリス・ファーガーソン公爵の独白で始まる。

 社交界きっての好色家として名を馳せる美貌の男。

 そんなハリスの愛の放蕩は両親の結婚に起因していた。

 ファーガーソン公爵家の一人娘であるアンネロッサと、アシェット男爵家の次男カルロの結婚は、当時身分差を超えたラブロマンスとして社交界をざわつかせた。

 二人が出会ったのは、とある夜会。

 アンネロッサは、美丈夫として有名だったカルロに一目で心を奪われた。

 箱入り娘のアンネロッサは、娘に甘い両親に頼んで、すぐにアシェット男爵へ結婚の打診した。

 アシェット男爵家の面々は公爵家からの申し出を手放しに喜び、話はとんとん拍子に進んだ。

 結婚式はアンネロッサが望む通りの華やかなもので、新生活は順風満帆。一年後にはハリスが誕生し、幸せを絵に描いたような生活を送っていた。

 しかし、ハリスが八歳になる年に、カルロの浮気が発覚したことで全てが崩れ落ちる。その浮気相手が、かつてカルロと婚約を結んでいた相手だったから。

 アンネロッサとの結婚前、カルロには幼馴染で相思相愛の婚約者がいた。

 商家の娘で、次男であるカルロは、結婚して婿入りすることが決まっていた。

 ところが、公爵家からの結婚の打診がきたため家族に説得され、また、ファーガーソン公爵家が幼馴染の実家への圧力をかけたこともあり、二人は泣く泣く別れることになった。

 だから、カルロの浮気相手について調べさせた時、それが元婚約者だと知り、これまでの結婚生活が偽りだったこと、カルロが自分に囁いた愛が嘘だったことを初めて理解して、半狂乱に陥った。

 そして、その恨みは理不尽に元婚約者に向かった。

 元婚約者の実家である商家の取引先に圧力をかけ、一家を王都から追い立てた。

 カルロは、

「悪いのは自分だ。彼女には何の罪もないだろう」

 と必死で止めたが、アンネロッサの憎悪はますだけだった。

 そんな泥沼の愛憎劇が続く中、カルロと元婚約者は、突然に馬車事故で亡くなる。奇しくも元婚約者一家が王都を離れる前日の出来事だった。

 もしかして心中したのでは? と疑問が挙がった。

「もう二度と二人で会わないと約束したのにどうして!」

 と元々不安定だったアンネロッサは、更に精神を患い床に臥し、そのまま儚くなった。

 ファーガーソン公爵家はすぐに騒動の火消しに走り、一連の出来事は大きなスキャンダルとして表舞台で噂になることはなかったけれど、父への執着で精神を蝕まれていく母親の姿を見ていたハリスの心には、重い影を残した。

 それから十五年、祖父母に厳しくも甘く育てられたハリスは、母から受け継いだ次期公爵家当主という地位と父親譲りの美貌で、気ままな独身生活を謳歌していた。

 夜会に参加しては、言い寄って来る女性と刹那の恋を楽しむ日々。

 その根源にあるのは「母親のようにならないため」という心理だった。母の過ちは一人の男に執着したこと。だから、自分は多くの女性に愛をばら撒くのだ、と。

 そんなハリスの屋敷に、一人の令嬢がメイドとして雇われる。

 父親の事業の失敗で爵位を返上した哀れな娘だった。領地を売り払うことで借金は返済できたものの、食い扶持に困り働き口を探し隣国から来たらしい。祖父の古い知人で身元ははっきりしているため雇い入れた。

 ハリスは、元伯爵家の令嬢のメイドか、と面白半分で声を掛けた。


「やぁ、ラウラ。一緒にお茶をどうだい?」


「有難うございます。でも、仕事中ですから」


「別に構わないさ。屋敷の主人である僕が許可しているんだから」


 しかし、生真面目なラウラは応じなかった。


「主人と関係を持って屋敷を追い出されたら困るから乗ってこないのかな。公爵夫人を狙ってくるような狡猾なタイプでもなさそうだし」


 とハリスは一人ごちた。ならば、


「よし、今から一時間屋敷の者全てに休憩を与える。休み時間なら僕とのティータイムに付き合ってくれるだろう?」


 とハリスは家令に命じて使用人達に休憩時間を与えた。

 流石にこの状態で断るわけにはいかず、ラウラは苦笑いで茶会の席に着いた。
 
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