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16-1 嫌がらせには

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 アデレードが嫁いできて四月経過した。

 ロイスタイン邸でサシャと懇意になって以来、お茶会や読書会、パッチワーク・キルト会に誘ってもらい、更にそこで知り合った夫人達とも親しくなり交友関係を広げている。

 暇を持て余していた頃と比べて楽しそうにしているが、世の中、善人ばかりではない。

 少し大きい茶会では、嫌味を言われることもあるらしい。


「今日のお茶会で知らない令嬢達に『ご結婚おめでとうございます。フォアード家に嫁げるなんて凄い幸運でしたね』って言われたんです。どう思います?」


「ど、どうって?」


 夕飯の席でアデレードに尋ねられてペイトンは戸惑った。

 ただの結婚祝いの言葉ではないか。

 しかし、わざわざ質問してくるのだから何か裏があるんだろう。

 解答が見つからず黙ったままいると、痺れを切らしたのかアデレードが口を開いた。


「イラっときたから『それって嫌味ですか?』って言ってやったんですよ」


「え、嫌味だったのか?」


 ペイトンが思わず声を漏らすとアデレードがボロ雑巾を見るような視線を向けてくる。


「私達の結婚は対等なのに、なぜ見ず知らずの人に『結婚できて幸運』なんて言われなきゃいけないんですか?」


「そ、そうだな。すまない」


 アデレードの忌々しげな様子にペイトンは「とにかく謝らねば」という焦燥に駆られた。

 同時に、アデレードの言い分は正論であることも理解した。

 何故、反論されるまで気づかなかったのか。

 これまで数々の縁談を断ってきて、結婚市場での自分の価値を知っている。

 だから、数多の女性の中から妻に選ばれたアデレードに「凄い幸運でしたね」と告げることを違和感なく受け止めてしまった。

 でも、アデレードは裕福な侯爵家の令嬢の上、微塵もこちらに好意がないから「幸運」などと言われて不快になったのだ。


(本当に、僕のことを好きじゃないんだな……いや、別に、そういう契約だし構わないが)


 冷静に分析して自惚れに羞恥する一方で、胸の内がもやもやするのを感じた。理由はわからない。

 その不可解さが余計に気持ち悪かった。そんなペイトンに構うことなく、アデレードは続ける。


「それでそのうちの一人が私の質問に『嫌味だなんて酷いですわ。私達は純粋に結婚のお祝いを申し上げているだけですのに』ってニヤニヤ薄ら笑いを浮かべながら言って、後の二人も便乗して『ひどい、ひどい』と騒ぎ立てたんです。最悪ですよ」


「……大丈夫だったのか? 何処の家名の人間だ? うちから正式に抗議文を送るよ」


 言った言わないは水掛け論だ。相手がシラを切り通す可能性は高い。しかし、今後のための十分な牽制にはなる。


「いえ、それには及びません。自分でちゃんとやり返しましたから」


「え?」


「『嫌味で仰ったのなら、絶妙に嫌らしくて貴方方の性悪さがよく伝わってきたので素晴らしいわ、と思いましたけれど違うのですね。だとしたら、もう少し言葉選びに注意なさった方がよろしいですよ。私だから笑って許してあげますけれど、うちの両親が今の発言を聞いたらどう思うでしょう。バルモア家に対する侮辱を黙って見過ごすほど甘くはないですよ』って言ってやったら、赤い顔して逃げていきました。本当は追いかけいってもっと詰めてやろうかと思いましたが、今日のところは勘弁してやりました」


 アデレードは、悪人みたいな顔でニヤッと笑った。

 勝ち誇っているようにも見える。

 嫌がらせを受けたことに対して、こちらに対処して欲しいわけでも、慰めて欲しいわけでもないらしい。

 自慢話をしているみたいな表情に困惑してしまう。


「そ、そうか。ほどほどにな」


「なんでほどほどにするんですか!」


「え」


 
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