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6-1 貢ぐ男

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 晩餐の翌日、ペイトンは朝からジェームスを呼びつけ、


「ダレスシトロンのドレスをオリジナルでニ、三着作りたい。オーナーに連絡を取ってくれ」


 と言った。

 近年のドレスの主流はセミオーダーになっている。

 デザイナーが考案した基本の型のドレスに、お針子が購入者に似合うアレンジを施して一週間ほどで完成させる。

 ベースがあるので似たデザインにはなるが、有名なデザイナーのドレスには注文が殺到するため、逆にそれが流行に繋がる。

 オリジナルとは、デザイナー自ら縫合するドレスのこと指す。

 高級店になると腕の良いお針子が何人も雇用されているため、仕上がりでいうとデザイナー本人とお針子が縫ったドレスとは遜色がない。

 だが、オリジナルにだけデザイナーのロゴが付けられるため、お針子のドレスの倍額以上の値がつく。

 ただ見えない場所に小さなロゴが付いているかどうかの違いだ。

 しかし、そこは見栄と体裁を気にする貴族のこと。

 推して知るべし事案だ。


「ダレスシトロンのオリジナルですか?」

「あぁ、夜会に参加せねばならんからな」


 誰のための夜会のドレスを作るのかを尋ねるほど野暮じゃないが、わざわざオリジナルを、しかもニ着も三着も作るというのは違和感がある。

 ペイトンは金遣いの荒い女性を毛嫌いしている。

 同じ品質のドレスをわざわざ高値で購入する女性は嫌悪の対象のはず。

 それに、アデレードには品位保持費を渡している。

 バルモア家からの持参金を横流しただけだが、普通なら滞在費を差し引くところを全額渡す予定だ。

 ペイトンの厳命だった。

 ペイトンなりに事業提携が絡んだ大事な取引先の娘という意識があったのか、持参金以上の金はお前には出さないからこれで賄え、という意思表示であったのか。

 真意は不明だが、いずれにせよドレスを購入するならば、当然品位保持費からの支出になるはずだ。

 しかし、ペイトンの口振りは自分が購入するような言い方だ。


「旦那様がプレゼントなさるのですか?」
「プレゼントじゃない」


 ジェームスの質問にペイトンがぴしゃりと答える。だったら、


「奥様に口利きを依頼されたのですか?」


 とジェームスは尋ねた。

 ダレスシトロン服飾店は王都で一、二を争うデザイナーの運営する店だ。

 なかなか予約が取れないし、オリジナルの注文は一見の客は断られる。

 フォアード侯爵家の営む貿易商では生地や糸の輸入も行っているため、懇意にしている服飾店は多く、ダレスシトロンもその一つで、ペイトンからの依頼ならば優遇される。

 紹介してくれとアデレードが頼んだならば納得は行くが、


「頼まれてはいない」


 とペイトンはまたすげなく答えた。


「え、それは拙いでしょう。ダレスシトロンのオリジナルともなれば値が張りますから、二着も三着も購入したら、奥様にお渡ししている今月分の品位保持費じゃ賄いきれませんよ。それにあれは奥様が自由に使える予算です。旦那様が勝手に使用目的を決められません」

「なぜ品位保持費の話になるんだ。僕が払う」

「プレゼントじゃないって仰ったじゃないですか」

「フォアード家の嫁として参加する夜会用のドレスなんだから僕が買うのが筋だろ」


 それを人はプレゼントと言うんだ。

 この間までこんなおかしな発言をする人間ではなかったのに、と思いながらもジェームスは突っ込むのはやめた。

 何はどうであれペイトンがアデレードを気遣うことは喜ばしいことだ。

 とはいえ、ダレスシトロンのオリジナルドレスを何着も購入するのはやり過ぎではないか。

 ペイトンの個人資産からすれば痛くも痒くもない額だが、いくつも贈るような品じゃない。


(意外と貢ぐタイプなんだな)


 フォアード侯爵もくだんの妻には好きに買い物をさせていた。

 血筋なのかもしれない、とジェームスは生温かい目でペイトンを見た。
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