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12.ご加護の本気を見せてくれ
しおりを挟む病気になりにくいでもない、美味しいご飯を食べて幸せになれるでもない、聖女の力はきっと本気を出せばもっと凄いんだ。さあ、本気出してくれ! 本気のご加護を。聖女パワー!
「もう一声! もう一つくらい何かありませんか? すごーい特殊能力みたいな!」
「すごーい特殊能力?」
「そうです。傷を癒したり、聖なる力で魔族を追い払ったり、他にも……」
「あ、えっとそれは」
あるのか? えっ、ある!?
「おい」
「ん?」
私は声のする方へ振り向いた。
おやおや、これは魔法使い殿。復活したんですね。
「馬鹿な話はやめろ」
「馬鹿な話って」
こっちは真剣に聞いてるのに。
「一般人の分際で、そんな特別な力が備わるわけないだろ。それとも何か、お前の親は有名な聖職者か? 王族の血を引いてるか? ドラゴンを手懐けているのか?」
「それは……ないですけど」
「いいか。何も持たない一般人が、いくら加護を受けたって、0に0を掛けているようなもの。何の効果も生み出さないんだよ」
「そんな……」
それは死刑宣告にも等しかった。やはり、一般市民は一般市民にしかなりえない。そう言われているような気がした。
「フリード、そんな言い方は」
「こういう時は、最初にはっきり言ってやった方がいいんですよ」
なんて奴だ。人の心が無さすぎる。
聖女様の爪の垢でも飲めばいいのに。
最初から分かってたけど、はっきり言いやがって。
「……悪魔」
「おい」
「やめなさいって!」
私はさっとクロム様の後ろに隠れた。
「やれるもんならやってみろ」
「ちっこいつ」
「もういいでしょ! 私達はこれから一緒に旅をするんだから、喧嘩しないの!」
「クロム様、私は嫌です。こんな男と旅なんか……え、旅?」
旅? 今、旅って言った?
私は困惑気味にクロム様を見つめた。
「かなり不本意ですけどね」
少女の代わりに口を開いたのはフリードだった。
「話が、ちょっと見えないんですけど」
「聖女の力が与えられた人間を、その辺に放置しておくわけにもいかないだろう。ですよね、クロム様」
「……ええ」
「?」
一般人は一般人なんだろう? だったら善にも悪にもならないんだし、このまま街に放置でもいいのでは?
「シズクさん」
少女はじっと私の顔を見つめた。
色白でツヤツヤの肌。金色の丸い瞳。お人形のように完璧に配置された可愛らしい顔立ち。聖女すごい。顔だけで世界を救えそうだ。
「は、はい」
眩しさに焼かれそうになる目を無理矢理開き、私は彼女の言葉を待った。
「私達は今、世界を救う以外にもう一つ、別の目的でも旅を行っています。それは――」
「それは?」
「い……」
ずずずずずず。
「!?」
「!」
地面から響く轟音。音だけではない。体が音に合わせ小刻みに震えた。最初に遭遇した建物の雪崩が起きた時に近い。この街の魔物は倒したんじゃなかったっけ?
「くそっ、無理にでも祈りを先に終わらせるべきだったか。このままじゃ面倒な事になる。おい、一般人」
「は、はいっ」
「細かいことは後で話す。ちょっと一緒に来い」
「でも私が行っても何の役にも……」
「いいから来い!」
彼が私の腕を引いた。魔法使いという割に、その力は案外強い。
フードが外れ、彼の頭が露わになった。さらりとした黒い髪。これはこれで綺麗かもしれない。
「クロム様もこちらです」
「ええ!」
私は流されるまま、彼らと共に走った。
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