上 下
12 / 23

12.ご加護の本気を見せてくれ

しおりを挟む
 
 病気になりにくいでもない、美味しいご飯を食べて幸せになれるでもない、聖女の力はきっと本気を出せばもっと凄いんだ。さあ、本気出してくれ! 本気のご加護を。聖女パワー!

「もう一声! もう一つくらい何かありませんか? すごーい特殊能力みたいな!」
「すごーい特殊能力?」
「そうです。傷を癒したり、聖なる力で魔族を追い払ったり、他にも……」
「あ、えっとそれは」

 あるのか? えっ、ある!?

「おい」
「ん?」

 私は声のする方へ振り向いた。
 おやおや、これは魔法使い殿。復活したんですね。

「馬鹿な話はやめろ」
「馬鹿な話って」

 こっちは真剣に聞いてるのに。

「一般人の分際で、そんな特別な力が備わるわけないだろ。それとも何か、お前の親は有名な聖職者か? 王族の血を引いてるか? ドラゴンを手懐けているのか?」
「それは……ないですけど」
「いいか。何も持たない一般人が、いくら加護を受けたって、0に0を掛けているようなもの。何の効果も生み出さないんだよ」
「そんな……」

 それは死刑宣告にも等しかった。やはり、一般市民は一般市民にしかなりえない。そう言われているような気がした。

「フリード、そんな言い方は」
「こういう時は、最初にはっきり言ってやった方がいいんですよ」

 なんて奴だ。人の心が無さすぎる。
 聖女様の爪の垢でも飲めばいいのに。
 最初から分かってたけど、はっきり言いやがって。

「……悪魔」
「おい」
「やめなさいって!」

 私はさっとクロム様の後ろに隠れた。

「やれるもんならやってみろ」
「ちっこいつ」
「もういいでしょ! 私達はこれから一緒に旅をするんだから、喧嘩しないの!」
「クロム様、私は嫌です。こんな男と旅なんか……え、旅?」

 旅? 今、旅って言った?

 私は困惑気味にクロム様を見つめた。

「かなり不本意ですけどね」

 少女の代わりに口を開いたのはフリードだった。

「話が、ちょっと見えないんですけど」
「聖女の力が与えられた人間を、その辺に放置しておくわけにもいかないだろう。ですよね、クロム様」
「……ええ」
「?」

 一般人は一般人なんだろう? だったら善にも悪にもならないんだし、このまま街に放置でもいいのでは?

「シズクさん」

 少女はじっと私の顔を見つめた。
 色白でツヤツヤの肌。金色の丸い瞳。お人形のように完璧に配置された可愛らしい顔立ち。聖女すごい。顔だけで世界を救えそうだ。

「は、はい」

 眩しさに焼かれそうになる目を無理矢理開き、私は彼女の言葉を待った。

「私達は今、世界を救う以外にもう一つ、別の目的でも旅を行っています。それは――」
「それは?」
「い……」

 ずずずずずず。

「!?」
「!」

 地面から響く轟音。音だけではない。体が音に合わせ小刻みに震えた。最初に遭遇した建物の雪崩が起きた時に近い。この街の魔物は倒したんじゃなかったっけ?

「くそっ、無理にでも祈りを先に終わらせるべきだったか。このままじゃ面倒な事になる。おい、一般人」
「は、はいっ」
「細かいことは後で話す。ちょっと一緒に来い」
「でも私が行っても何の役にも……」
「いいから来い!」

 彼が私の腕を引いた。魔法使いという割に、その力は案外強い。
 フードが外れ、彼の頭が露わになった。さらりとした黒い髪。これはこれで綺麗かもしれない。

「クロム様もこちらです」
「ええ!」

 私は流されるまま、彼らと共に走った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...