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6.元の世界には聖女も魔法使いもいないんだよ

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「魔法使い……」

 道理で。確かにあのビリビリは自然現象じゃ説明がつかないもんね。やっぱりこの男の仕業か。

「そして私がこうして瓦礫の山から生還できたのも彼のおかげ」
「っていうと」
「瓦礫の山を吹き飛ばしたのは誰だと思ったんだ。僕がいなければ、クロム様もお前も今頃あれの下敷きだよ」
「え……」

 そうなの?

 私はぽかんと口を開ける。

「ははっ」

 そんな私を見て、彼は憎たらしい笑みを浮かべた。

「まさかあんな状況で、自分だけが助かるとか能天気な事を考えてたのか?」
「それは……まあ」

 普通に考えてた。
 だって逃げてとか言われたし。
 私だけは助かると思うじゃん。

「勢いを考えてみろよ。助かるはずないだろ。逃げ遅れて一緒に飲み込まれるのがオチさ」
「うっ……確かに」

 まともに正論を叩きつけられて、私はなんだかすごく恥ずかしくなった。穴があったら入りたい。

「だから今回、お前が助かったのはクロム様が近くにいたからだ。ついでだから助けてやったんだ、普通なら助けない。クロム様に感謝しろよ」 
「こら、フリード」
「ふん、当然の話をしたまでです。僕にはあなたとその辺の一般人を同一には扱えません」

「……」

 言われてることは癪だけど、反論できる余地はない。元は私の認識の甘さが原因だ。
 感謝はしよう。

「ありがとうございました。クロム様、それと……フリード、さんも」
「いえいえ私は別に」
「……まあ、及第点だな」
「フリード!」

 そしてついでといっちゃなんだが、もう一つ気になった事がある。

「それであの、無知な私に一つ教えていただいてもよろしいですか?」
「ん?」
「なあに?」

 これで失礼なこと聞いてたら嫌だなあ。

「さっきからクロム『様』って言ってますけど、クロム様って、その……何者ですか?」
「!」
「な!!!!」

 反応はそれぞれだった。
 クロム様の方は目を丸くしているし、フリードの方はどことなく怒りがにじみ出ている。
 でも、どっちも驚いていることには変わりない。
 なんとなく気になったから聞いてみたけど、やっぱりマズい質問だったかもしれない。

「ごめんなさい、聞いちゃいけない質問でしたか。じゃあ今の無しで――」
「お前っ」
「うわっ」

 フリードから突如二本の手が伸びて、私の肩をがっしり抑えた。

「このお方を知らないのか!?」
「し、知りませんって」

 だってこの世界に来たばっかりだし。何? 有名人? アイドルとか??

「聖女だぞ?」
「は?」
「聖女のクロム・エルレリット様だぞ? 本当に知らないのか!?」
「ししし知りませんって!」

 大体、魔法使いもそうだけど聖女ってシステムすらリアルでは初見だもん。名札を付けてるわけでも無いし。

「信じられない」

 そう言って、脱力したように彼は掴んでいた手を緩め、頭を抱えた。

「えっと……」

 どうにも困った。
 無論、困惑しているのは彼女も同じのようで、控えめに眉をひそめていた。

「あの」
「はい……」
「聖女、さんだったんですね」
「そうですね……」

 気まずい空気が流れた。
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