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19.一級フラグな建築士

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 引き続き、フラグ議論が続いていた。

「でも、インパクトのある伏線が必要なんだって!」

 必死にジュネが力説する。
 その必死さ、普段の仕事にも生かしてもらいたい。

「分かってくれますよね、お嬢様?」
「食パンにインパクトはあるけど、非現実的過ぎじゃないかしら」
「お嬢様、真に受けてはいけません。基本的に馬鹿なんですよ、こいつは」

 ネインはそう言ってジュネを冷めるような目で見つめた。
 私もそれに倣って彼女を見つめる。

「ぐぬぅ……」

 今日はこれ以上、いい話は出来なさそうだ。

「……はあ。それじゃ僕はそろそろ仕事に戻ります。ジュネ、馬鹿な考えは捨てて、まともな案を考えろよ」

 ネインは馬車の扉を開けた。

「あ、待って。私もレクターに挨拶していくわ」

 彼に続いて馬車を降りようと体を持ち上げた、その時だった。

「あっ」

 つま先が馬車のへりに引っかかった。
 嫌な感触。
 足がもつれ体重が地面の方へと傾いていく。

 転ぶ。

 そう思った時には既に体は前のめりで、自分のバランス力では到底対応できない体勢になっていた。
 じゃりじゃりとした痛そうな砂の地面が目に映る。

「危ない!」

 その声と共に私の体を鈍い衝撃が襲った。
 当然、顔が潰れるくらいは覚悟した……けれど。

「痛く……ない?」

 顔に擦り傷を作るどころか、体のどの部分も痛みをまるで感じない。転んだのが白昼夢だったのかと思わせるほどに私の体は無傷だった。

「……っ大丈夫ですか、お嬢様」
「えっ……ええ……」

 答えはすぐに判った。
 私の体は、先に馬車を降りていたネインによって支えられる形となっていたのだ。

「ありがとう、助かったわ」
「……いえ」

 私は彼から離れた。
 彼のおかげか自分の服には砂埃一つない。
 その代わりに、立ち上がったネインの服には沢山の砂埃が付いていた。

「ごめんなさい」
「お気になさらず。お怪我が無さそうで何よりです」

 そう言って彼は軽く笑った。

 それがなんだか申し訳なくて、私はネインの服に付着した砂埃を手で払った。
 彼はいいと遠慮していたが、私の気持ちがそれじゃ済まない。

「そうそう、こういうハプニングが欲しかったんですよ。あー出来れば、その姿じゃなくて、王子の姿ならよかったのになぁ。あとは告白するだけでー……」
「いいからお前はこっちでお嬢様の身の回りをもう一度チェックしろ。血でも付いていたら僕は腹を切る」
「そんな。異国のお伽噺じゃああるまいし」
「いいから!」
「はいはい」

 ジュネが馬車からひょいと降りて、身の回りのチェックをしようと私の体に手を当てた時だった。

「えーと、どれどれ……ん?」
「どうかした?」

 彼女の動きがぴたりと止まった。

「っや、えと」
「?」

 ジュネと視線が合わない。
 彼女の視線が、私じゃなくてその先を捉えている。

 なんだろう。

 私はゆっくりと体を捻った。

「……セイラ。それにネインとジュネ、君達は一体何をやっているのかな?」

 そこにいたのは私の婚約者、レクターだった。
 
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