19 / 30
19.一級フラグな建築士
しおりを挟む引き続き、フラグ議論が続いていた。
「でも、インパクトのある伏線が必要なんだって!」
必死にジュネが力説する。
その必死さ、普段の仕事にも生かしてもらいたい。
「分かってくれますよね、お嬢様?」
「食パンにインパクトはあるけど、非現実的過ぎじゃないかしら」
「お嬢様、真に受けてはいけません。基本的に馬鹿なんですよ、こいつは」
ネインはそう言ってジュネを冷めるような目で見つめた。
私もそれに倣って彼女を見つめる。
「ぐぬぅ……」
今日はこれ以上、いい話は出来なさそうだ。
「……はあ。それじゃ僕はそろそろ仕事に戻ります。ジュネ、馬鹿な考えは捨てて、まともな案を考えろよ」
ネインは馬車の扉を開けた。
「あ、待って。私もレクターに挨拶していくわ」
彼に続いて馬車を降りようと体を持ち上げた、その時だった。
「あっ」
つま先が馬車のへりに引っかかった。
嫌な感触。
足がもつれ体重が地面の方へと傾いていく。
転ぶ。
そう思った時には既に体は前のめりで、自分のバランス力では到底対応できない体勢になっていた。
じゃりじゃりとした痛そうな砂の地面が目に映る。
「危ない!」
その声と共に私の体を鈍い衝撃が襲った。
当然、顔が潰れるくらいは覚悟した……けれど。
「痛く……ない?」
顔に擦り傷を作るどころか、体のどの部分も痛みをまるで感じない。転んだのが白昼夢だったのかと思わせるほどに私の体は無傷だった。
「……っ大丈夫ですか、お嬢様」
「えっ……ええ……」
答えはすぐに判った。
私の体は、先に馬車を降りていたネインによって支えられる形となっていたのだ。
「ありがとう、助かったわ」
「……いえ」
私は彼から離れた。
彼のおかげか自分の服には砂埃一つない。
その代わりに、立ち上がったネインの服には沢山の砂埃が付いていた。
「ごめんなさい」
「お気になさらず。お怪我が無さそうで何よりです」
そう言って彼は軽く笑った。
それがなんだか申し訳なくて、私はネインの服に付着した砂埃を手で払った。
彼はいいと遠慮していたが、私の気持ちがそれじゃ済まない。
「そうそう、こういうハプニングが欲しかったんですよ。あー出来れば、その姿じゃなくて、王子の姿ならよかったのになぁ。あとは告白するだけでー……」
「いいからお前はこっちでお嬢様の身の回りをもう一度チェックしろ。血でも付いていたら僕は腹を切る」
「そんな。異国のお伽噺じゃああるまいし」
「いいから!」
「はいはい」
ジュネが馬車からひょいと降りて、身の回りのチェックをしようと私の体に手を当てた時だった。
「えーと、どれどれ……ん?」
「どうかした?」
彼女の動きがぴたりと止まった。
「っや、えと」
「?」
ジュネと視線が合わない。
彼女の視線が、私じゃなくてその先を捉えている。
なんだろう。
私はゆっくりと体を捻った。
「……セイラ。それにネインとジュネ、君達は一体何をやっているのかな?」
そこにいたのは私の婚約者、レクターだった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる