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154.権力者には媚びる(ただし嫌いな奴を除く)

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「ではお二人ともこの度は本当にありがとうございました。どうかお元気で」

 コンパスと地図を手にした私達。
 そんな私達に向けてヘッセンが頭を下げた。彼のその後ろでは、ココネお嬢様はじっとレイズ様を見つめている。

 ふむ、なるほどこれは。

「レイズ様」
「なんだよ」

 なんだよ、ではない。
 私は鬱陶しそうにこちらを見たレイズ様に近づくと、相手に聞こえないくらいの声で囁いた。

「ココネお嬢様にご挨拶」
「なんで?」
「見れば分かるじゃないですか。慕う相手と離れなきゃいけないのに離れたくなくて、上手く別れの挨拶すら出来ない少女の乙女心ですよ。察してあげて下さい」
「……知るかよ。そんなの俺に分かる訳ないだろ」

 絶対嘘だ。
 本当はなんとなく察してる癖に、知らないような顔してるだけだろ、それ。なんだ、相手を焦らすモテテクニックの一つなのか? そんなもん捨てちまえ。
 私は露骨に大きく出てしまいそうな溜息を飲み込み、優しく諭すようにレイズ様に告げた。

「いいですか、ココネお嬢様は我々に高価な魔法道具をプレゼントしてくださった方。いわばパトロンも同然なんです。そんな相手に愛想振りまかないで、いつ振りまくっていうんですか」
「いつもなにも、俺がそんなもん振りまくか」
「いやいや嘘言わないでください。私、知ってるんですからね」
「は。何を?」

 まだしらを切るつもりらしい。じゃあ教えてやろうじゃないか。

「アロマスクでの花嫁選びのイベント」
「……」
「そこに参加した謎の異国美少女ト・イレニ」
「……」
「その美少女に、やたら気取った紳士的振る舞いで話しかけてきた男性がいた事を私は忘れてはいませんよ?」
「……こいつ」

 心底嫌そうなレイズ様は顔を歪めた。手元を見るとしっかりと拳が握られている。しかしここで手を引く訳にはいかない。

「そんな怖い顔しても無駄です。金持ちには媚びる。これから先、我々が生き抜く為に必要な要素ですからね、レイズ様も覚えて下さい」

 強者とのコネクションというのは何よりも大事なのだ。

「じゃあお前はいつ俺に媚びたんだよ」
「!?」

 おおっと、ルセリナ選手これは痛い。手痛いブーメランが返ってきた。何せ私は媚びていない。性格的にこの男が苦手だったので、そもそもの遭遇自体を避けていたのだぁ!! ……ふう。参ったねこりゃあ。

「いっ……いつも、媚びて……ました、よ?」
「語尾弱々すぎだろ」
「にこにこ」
「口で擬音言って誤魔化した気になるなよ。あとで覚えてろ」

 嫌です、忘れます。秒で。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

虎 正規
2023.11.05 虎 正規

初めまして、虎正規です。よろしくお願いします。
フェリクスが下剤を紛れ込ませたことをルセリナは恨んでいるとのことですがじゃあ彼女はそれを食べて下痢になったと想像してよろしいですか?

椿谷あずる
2023.11.11 椿谷あずる

はい、お見込みの通りです。彼女に悲劇が訪れました。

解除

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