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142.ツッコミ不在はメイドのやる気を掻き立てた
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私の脳裏に浮かんだのは、憎きあのクソガキ様だった。
厄介お坊ちゃまことフェリクス。
アレもそういうの好きだったように思う。
知らない地で遺跡を探索するとか、森で変な植物にちょっかいをかけるとか。
呪いの壺を拾わされて、三歩歩くごとに飢餓状態になった時はお前を調理してやろうと思ったっけ。
おかげでご要望にお応えするなんて精神、間違えても抱かないんだけど。
「という訳で、これでお嬢様と最後に行動した場所、例の洞窟に辿り着けるはずです……って聞いてますか、お嬢さん?」
「あっ、はい大丈夫です。聞いてました」
嘘である。
彼の言葉で我に返った私は、慌ててコクコクと頭を上下に動かした。
いかんいかん、今明らかに考えなくてもいい奴のこと考えてた。縁起でも無い、忘れよ。
「このコンパスを頼りにすればいいんですよね」
不安そうに見つめるご老人の視線を華麗にスルーし、私は気を引き締めて、手持ちのコンパスを確認した。
針は真っ直ぐに目的地を示している。
「ええ、きっとそこにお嬢様が」
「レイズ様も」
「いることでしょう」
再び私達の声は重なった。
「頑張りましょうね」
最後にそう付け加えたご老人。
最初、あんなに取り乱していたとは思えない落ち着きだ。
「……とはいえさ」
正直なところ、こんなアイテムがあるなら、初っ端お嬢様がいなくてもあんなに嘆く必要なかったんじゃないかな。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、なんでも」
私はうっかり漏れてしまった言葉の一部を笑顔でごまかした。
きっと気が動転してたんだ。そういう事にしておこう、うん。
彼は若干不思議な顔を浮かべていたものの、一先ず納得したのか、それ以上余計なことは聞いてこなかった。
「ああそうだ、肝心なことを申し遅れました」
代わりに別のことを思い出した彼は、はっとした表情で私の姿を見上げた。
「改めまして、私、従者のヘッセンと申します」
「メイドのルセリナです」
「よろしくお願いします、ルセリナさん」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして、非力なメイドとお爺ちゃんのコンビがめでたく結成した。
目指すはレイズ様。
はてさて頼りない私達二人が、無事に目的地まで到達するのだろうか。
それは誰にも分からない。
「この立ち位置、普通は逆ですよね」
そんな辛辣な言葉にも返答なんて来やしない。
なんだか少し物足りない事に気付いてしまい、自虐的に笑ってしまった。
囚われるのは王子様で、助けに行くのはお姫様。
これが某赤と緑の兄弟の配管工が活躍するゲームだったら、軽くブーイング来ちゃうよね。ほんと。
「あーやだやだ。こんなのさっさと終わらせよう」
そう言った自分の足取りは、何故か妙に軽やかだった。
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