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137.嘘でした。恋愛小説じゃなかったです。

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 我儘令息と平凡メイド。
 価値観の違う私達二人の関係は、決して交わらない永遠の平行線、だと思ってたのに。

「一緒に暮らすとなると、まずは住む場所探さないとな」

 噂の我儘令息ことレイズ様は、それがさも当然であるかのように、さらりと言葉を口にした。
 私達二人の間に、仲良く暮らしてハッピーエンド、そんな展開もあるの? えっほんとに?

「え、ええ」

 単調な返事をするだけで精一杯だった。
 どうしてこうなった?

「住みたい場所はあるか? 俺はお前と一緒ならどこでもいいが」

 次々と生み出される言葉たち。
 今までだったら絶対にあり得ない。急なキャラクター改変にも程がある。
 レイズ様そんな性格じゃなかったでしょ。
 ツッコミが周回遅れになっていた。

「あ、はは、そうですか。私と一緒ならどこでもね……」

 やばい、寒気がしてきた。
 きっとこれが少女漫画なら背景に薔薇が舞っている事だろうよ。
 お花畑空間はどんどん広がりを見せていた。

「しかし驚いた、俺の演奏を聞いているやつが居たなんて」

 キラキラオーラを振り撒きながら、レイズ様は更に話を続けた。

「お前と俺にはそういう運命があったんだな」
「……はあ」

 間の抜けた返事が勝手に口から漏れる。
 運命ってなんだ。
 そんなもの普段なら軽く一蹴しそうなのに……いや、待てよ。現に一蹴していなかったか?

「レイズ様」
「うん、なんだ?」

 私を見つめる相手の外見は特に変わらない。無駄に顔だけがいいレイズ様そのものだ。でも。

「本当にこのまま帰らなくてもいいんですね?」
「勿論だ」
「相手にまんまと嵌められて、命の危機まで与えられて、そんな屈辱を受けたままで本当にいいんですね?」
「ああ問題ない」

 レイズ様は笑った。穏やかに。それはまるで本人では無いかのように――
 
「誰にも告げずひっそりと、実は毎晩傍に居てくれた女性と一緒にいれれば、俺はそれで満足だ」
「……」

 涼しい風が吹き抜ける。
 生暖かいその風は静かに私の髪を揺らした。

「どうした?」

 そう言って、目の前にいる整った顔の青年は、不思議そうに首を傾げた。

「具合でも悪いのか? なあ、ル……」

 手のひらがぱしりと音を立てた。
 私の顔に優しく触れようとした右手は、私の手によってゆっくりと外に弾かれる。

「運命?」

 私は口元を緩めた。

「違います。レイズ様はそんなもの間違っても受け入れませんよ」

 だって最初に言っていたじゃないか。 
 そんなもの『つまらない』って。

「帰らなくていい? 問題ない? これも違う。あの人がここまで馬鹿にされたのにそれを見過ごすなんて、絶対あり得ません」

 周囲が彼を宥めても、彼のプライドが許さない。

「そして最後に」

 私はしっかりと前を向いた。

「あなたと”毎晩”一緒に居たなんて、私は一言も口にはしていませんよ」







「ねえ、あなた、一体誰ですか?」

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