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130.過去の男と決着って聞くと修羅場感がある

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「何をやられているんですか?」

 疑問を含んだ涼しい声。
 私はゆっくりと首を捻った。

「……先輩」

 見られていたか。
 シュタイン先輩は冷ややかな様子で私を見ていた。
 冷ややかに……とはいえ、相変わらず笑みは崩さないあたり、この人にとって私の行いなど想定の範囲内なのかもしれない。

「いやあ、夢だったらいいなと思って」

 私はつまんでいた右手を後ろに隠し、苦笑交じりに答えた。
 先輩は何も言わずにこちらを見ていた。
 たぶん幼稚な発想だと私に対して呆れているんだろう。
 容易に想像出来てしまった辛辣な返答に、私は視線を落とした。

「そうですね」
「……えっ?」

 辛辣な言葉……じゃない?
 先輩にしては珍しくそんな言葉が出た事に、私は思わず俯きかけていた顔を上げた。

「……?」
 
 何か変な物でも食べたのかもしれない。
 じゃなきゃ明日は突発的な大災害が起こるとか。
 私はまじまじと先輩を観察した。

「どうしましたか?」
「あ、いや」

 つい目が合ってしまったのが気まずくて、私は慌てて視線を反らした。

「夢だったらいいなんて、先輩もそんな風に思うことがあるんだなあって」

 いつもはすっぱりと現実を言い聞かせてくるのに。

「普段は思いませんね。私達は現実を生きていかなければなりませんから」

 やっぱり。私の見立てに狂いは無かったようだ。

「でも」
「でも?」

 少し間を置いて、言葉を選ぶような素振りを見せた先輩は、その言葉を発すること無く小さく首を横に振った。

「いえ、なんでもないです」
「なんでもない?」

 いや、嘘だ。今、絶対何か言おうとしてたじゃん。
 けれど私がこれ以上問い詰めたところで、答えが出て来ないのはなんとなく分かった。
 私は、はぁと脱力して溜息を漏らした。

「いっつもそうですよね。変なところで答えをはぐらかす」
「私、こう見えて意外とシャイなもので」
「嘘ばっかり。シャイな人は自分をシャイって言わないって、昔から相場は決まってます」
「おや、そのような相場は初めて聞きました。今度紹介してくださいね」

 これも嘘。
 大体、私達に”今度”は存在しないことくらい知っているだろうに。
 ……だからこそ、そろそろ決着をつけなければいけない。

「シュタイン先輩」

 私はこれで最後になるかもしれない彼の名前を呼んだ。

「なんでしょう、ルセリナさん」

 いつもと何も変わらない、私の名前を呼ぶ声。

「今度こそお別れですね」
「そうですね」

 まるで日常会話をするみたいに、喜びも悲しみも感じない単調な会話。
 これじゃレイズ様とベルさんのことを言ってられないな。
 私は全てを清算するように、すうっと静かに息を吸い、そして言った。



「最後に一つ、忘れていることありませんか?」

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