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86.撤退作戦
しおりを挟むベルさんには申し訳ないけれど、この場を離脱出来る以上、全身全霊をもってそれに挑む。これがこの私、ルセリナである。
サクッと追放、そして臨時ボーナスを早くこの手に。
それにしても。
「ま、まあまあ、大丈夫ですって」
正直、何が大丈夫なのか分からない。
私の発言によりやや重くなってしまった空気。自分のせいとはいえ、流石に気まずさを感じたので、それをなんとかするべく適当な言葉を並べた。
「なんというか、ベルさんならまた素敵な女性をパートナーとして見つけることが出来ますよ」
自分で言うのもなんだが、凄く雑なフォローだ。
でも大丈夫、この手のお話は時間が解決してくれるから。人間上手いように出来てるんだなぁこれが。そういう事にしてくれ。
「……」
あらま、無反応。
声を掛けたベルさんの背中は大きな石のようにじっと静かに動かない。
流石に不味かったか?
私はそっと首を伸ばし、ベルさんの表情を確認しようと思った、その時だった。
「『また』素敵な女性って。自分のこと、素敵だと思ってんのかよ」
「ちょっ」
よりによってコイツ。
せっかく話をほどよくコンパクトに纏めようとしてたのに、今一番要らない一声。あのー、外野からの参戦はお断りなんですけど。
思わず舌打ちが出そうになる。それをなんとか堪えて、ヤツの方を向いた。
「なんだよ」
なんだよじゃないよ、面倒なこと言い出しやがって。相変わらずふてぶてしい顔だなぁ。
本来であればこの怒りを込めし右こぶしをその顔面に突きつけてやりたいところだけど、今そんな事をしたら話がまとまらない。
落ち着け私、ステイだ、ステイ。あーあ……ったく。
苛立った心を抑えつつ、私は無理矢理に笑顔を作って言葉を返した。
「や、やだなぁ。勿論そんなこと全然思っていませんよ」
自分が素敵な女性だと表現したことを訂正。
「今のは冗談、冗談ですよ。まああれです、とにかく、今ここで撤退しても次のチャンスはきっとあるって話です」
そして、適当な言い訳を並べる。
これでどうだ。
「ふーん」
うわ、なんて信用してない顔だ。声だけじゃなくて表情からもろに伝わってくる! なんかまたいらん事で絡まれそうな気がしてきた。
面倒くさいなぁもう。話題そらせそらせ。
「えー……確かにマリアさんの行いは何とかしなきゃいけないと思いますよ?」
このまま見過ごせば、きっとまた似たような手でこのイベントを掌握すると思うしね。これは私の本心だ。
「でもほら、メイドはやっぱり主人ありきのものじゃないですか」
ここからが本番、撤退作戦開始だ!
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