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76.ここは照れるとかじゃないのか……
しおりを挟む「ふと思ったんですが」
「何だ」
ダンスはまだ続いている。
当たり障りなく続けられるダンスの中、私はそっと顔をあげた。
「そもそもお前、会話してる程余裕あるのか、無いだろ」
レイズ様はそう口では冷たく言うものの顔は涼しげだ。何、このジェントルマン。言葉が外見に合っていない。詐欺だろ。
「無いですよ」
私は正直に答えた。
「無いなら集中しろよ」
仰る通りで。
一見イラッとする口振りも事実だから仕方ない。
本当なら彼の言う通り余計なおしゃべりなどしない方がいいのだが、それでも敢えて私は口を開いた。
「レイズ様」
「おいだから集中を……」
「レイズ様って、何気に凄くないですか?」
「……はっ?」
不快そうな声が一瞬だけ拍子抜けた声色に変わる。
「私、全然踊れないハズなんですよ」
「知ってる」
「そんな私がこんなに何の問題もなく踊っていられるなんて」
これが魔法や私の元々持つ才能や奇跡では無いのなら、サポートする側が凄いって事じゃないんだろうか。
「レイズ様、凄すぎません?」
人間何かしら取り柄はあるものだ。
きっとレイズ様の場合、それがこのサポート能力だったに違いない。レイズ様おめでとう、アナタの活躍する場はここだったのですね。
この時ばかりはドヤ顔されるのも仕方ないと思った。チラと相手の様子を窺う。
「何を言い出したかと思えば」
あれ?
ドヤ顔必死だと思ったその表情は、ドヤ顔のドの字も浮かべていない。外部に取り繕うための澄ました顔のままだ。
どうした、慣れないことして表情筋バグったか?
「んなもん才能ってほどでもないだろ」
あっ普通に否定してきた。
「社交の場面でこういう機会は腐るほどあるし、当然ダンスに不慣れな相手だっているだろ」
「ま、まあそれは」
小さいお子さんやご高齢の方、単に不器用な方など確かに存在している可能性は勿論あるだろう。
あまりにも最もらしい言葉。私の方がバグりそうだと思った。
「相手に恥をかかせるわけにはいかないんだから、それなりのサポートくらい出来なくてどうする」
な、なるほど。
まあ確かにあの手の場で女性に恥をかかせる訳にはいかないだろう。相手だってそれなりの身分や立場があるんだろうし。
えー、何この人、普段私には辛辣な言葉を浴びせるくせに、そういう所の感性はまともな……ん、いやちょっと待て。
「ダンスが下手ならともかく、未経験の人間をそれなりに見せるサポートってなんですか」
相手は腐っても社交の場に出る立場の人間だ。いくらダンスの実力が不安定でもそれなりに練習や準備くらいするだろう。
そのための魔法アイテムだってあったし。
でも私みたいな完全未経験者を相手に出来るその振る舞いって何さ。
「知るか」
あ、返事が適当になった。さては面倒臭くなったな。
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