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11.降臨! 悪役令嬢
しおりを挟む「レイズ、ルセリナ、二人に今回の件での処分を言い渡す」
ハスター様のその言葉。私も観念、レイズ様も観念。
ここから助かるルートは存在しない。
「二人とも当面の間、無償でこの家の一切の仕事を行うこと。いいか――」
無償。ただ働きって事か。優しいハスター様のことだから衣食住は保証してくれるんだろうけど、ただ働きかー
ああ無償。
もちろんその言葉に、私ももう一人の罪人様も反論はしない。それなりのことをやったんだ。その辺は大人しく従うしかない。殺されるとか首になるとかそんなんじゃないだけマシだ。
さあて、これにてエンディングを迎えよ……
「お待ち下さい、お父様!」
おおっと突然割り込んできた待てとの要求。物言いイベント発生か。
でもこの声、レイズ様では無いようだ。
「どうしたアリーゼ」
アリーゼ様か。
クルックルの縦ロール、キュッとつりあがった目、バサバサの長いまつげ。そんないかにもな風貌をしたお嬢様こそレイズの姉アリーゼ様である。弟が悪役令息だとしたら、こちらは典型的な悪役令嬢。圧が強い。
ちなみにこちらも下手に関わると遠慮なく顔面に水をぶっかけられたりするので関わらない。
それでそんなお嬢さんが一体何の用だろう。
「この二人の処遇、これでいいのか疑問ですわ」
「疑問?」
「ええ。その処分、考え直した方がいいと思います」
これは驚いた。
今まで散々性格が悪いところをひけらかしていたはずのアリーゼ様が、ここに来ていきなりの身内擁護。善性が覚醒した……? あるいは異世界転生した悪役令嬢でも中に入ったか。
「うむ、しかしな流石に何も処分しないというわけには」
いやいやいいよ、今回は不問で。次回から心を入れ替えてきっちりと働くからさ。
「そうではありません」
え、違うの?
「アリス、いえアリスさんのような王族にゆかりのある方に失礼を働いたのです。この程度の処分では軽すぎるのではないかと言っているのです」
「えっ私は別にそんな」
「ああ、アリスさんは優しいのね。心のうちに王族ならではの品性を感じますわ。いいの、無理はしないで。辛かったでしょう、苦しかったでしょう。大丈夫、危険なものはこのアリーゼお姉さんがなんとかしてあげますわ」
「あ、えっと」
「そういう訳でお父様、私は今後万が一アリスさんが王族になった際にも示しがつけられるよう、二人の国外追放を要求します!」
は? 国外追放。いやちょっと待ってよ。
それって追放された奴が実はチート的な能力保持者で後に「ざまぁ」ってするために用意されてるルートじゃん。どこにでもいる凡庸メイドが陥っていいルートじゃないんですど。
「おい、アリーゼ姉……」
「ああなんて悲しいのかしら! レイズ、まさか私のたった一人の兄弟と永遠の別れになってしまうなんて! でも大丈夫、残ったお家のことは私が責任を持って守っていきますわ」
「……っ」
わー姉ちゃんに完全に縁切られたよこの人。姉弟なんてこんなもんかね。でもまあ、親はそんなこと無いでしょ。親は。
「ローザ」
いよいよ、状況に困ったハスター様が奥様に助けを求め出したぞ。
よーしいいぞ、ローザ様! さあそのぴっちぴちの若さと母性で私達を擁護してくれ。お願いします!
……あれ、なんか様子がおかしい。首を左右に振って……えっどうして、母性はどこローザ様!?
「私には今回の処遇に口を出す権利はありませんわ。ここは真の父親であるアナタが決めてあげてくださいな。私はどちらの判断を下してもアナタの味方ですわ」
「そうか、そうだな」
そうだなじゃないんだよ。ローザ様、なんで身を引くんだよ。もっと母性引き出そ……ん、そう言えば。
「シュタイン先輩、シュタイン先輩」
「……なんですか、小声とはいえあまり話しかけないで下さい」
「まーそう言わずに。レイズ様とアリーゼ様のお母さんってローザ様では無いんでしたっけ」
「はぁ」
うわ、明らかにため息ついたよ。馬鹿にしたよ、この先輩。
「最初に屋敷に勤めた際に一通り教えたはずですよ」
「すみません」
あまり興味がなかったもので。
「レイズ様とアリーゼ様が前妻セルシア様との間に生まれたお子様で」
ああ道理で母性は無かったわけだ。
「フェリクス様がローザ様との間に生まれたお子様ですよ」
「ああ、そうでしたね」
フェリクス。
嫌な名前を聞いてしまった。出来れば思考にも入れたくなかったのに。
「お父様!」
あー出たよ。噂をすればなんとやら。
「僕、思うんですけど」
さてさて今回は何を言ってくれるのかな、このクソガキさまは。
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