王子様を放送します

竹 美津

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本編

誰がいなくてもまるッとならない

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キャリコは、むぐ、と黙ったまま、サンとサンジャックを撫でこする、通常営業な竜樹を見ていた。ボーテ神様の美しさに当てられもせず、変わりなく地味にショボショボ目、ニハーと笑っている。

さっき、ボーテ神様が、お帰りになる前に、チラッとキャリコを見たのだ。それで、分かった。
分かっておろうな、伝えるのだぞ、という神様のメッセージを、である。
キャリコは、感情が成長するまで呪術師としての力は封印されている。
だから、呪(のろ)いならずとも、軽いお呪(まじな)いをする事さえも出来ない。

しかし、呪術に関する知識はあって、またそれを感じる事も出来るのだ。それはそうだろう。記憶を消すほどの力が働いたとしたら、今のキャリコの存在は、呪術と共に成長してきた時間をさっぴかれて、どんなにか希薄になってしまうことか。
そんな事は、神様は、なさらなかった。
ザックス男爵未亡人が、元々大きなお呪(まじな)いを受けていたんだ、と感じる事が出来た。知ったのだ。



ザックス男爵未亡人ルレは、漏らして呆然として、腰をぺったり床につけ、後ろに手、かくかくしている。

ふわっとボーテ神様の香気が、名残惜しくも消え始めて、お客さん達も、バーニー君やマルサ王弟、エルフのロテュス王子にヴィフアートも、パチンとやっと瞬きが出来た。かの神は、目を瞑れないほど、吸い付いて離れないほどの美貌だった。

べセル伯爵も、テンテ少年も、ハッ、として竜樹の相変わらずを見てホッとし、そして座り込むザックス男爵未亡人を見て、えーっと、という顔をした。
漏らしてる大人の女性を見て、周りがどうしたら良いか、っていう。困った。

「ザックス男爵夫人、お~い、大丈夫ですか?」
勇者竜樹。近寄ってしゃがんで覗き込み、ポンポン、肩を叩く。子供達を世話しているのだもの、ション漏れくらいどうって事ない。
ビクン!と揺れた未亡人が、あわ、わわ、と後退りして、ハンカチをパチンと竜樹の顔に投げつけた。しと、としているドレスの裾を、真っ赤になって隠そうとモゾモゾする。

「神様をお招びするなんて、聞いてません!無効です!こんな恥をかかせたんですから、責任をとっ•••アガガガガ!!」
言いかけた言葉の途中で、赤い口が、かくんと開いて閉まらなくなった。

「あー、顎が外れたねぇ。」

どうすべえか、と周り中で顔を見合わせる。退廃青年達は、今まで女王様のように崇めていただろう未亡人を、チロリと見ると。気まずげに近寄らず、一歩、二歩と遠ざかり、どうする?どうする?って厄介そうな顔をしている。

顎の骨が外れて、口がズレて開いたままの顔が間抜けな事も確かだが。何だか悪の女王だった未亡人ルレは、登場した時の、毒をはらみながらもあった、ねっとりした魅力、色気が、しなしなと衰えて失われている。今、皆の目の前にいるのは、ちょっと肌のそこかしこが弛み始めたおばさんである。
普通の32歳より、大分老けているのじゃないか。

「え~と、顎が外れた時の嵌め方、か。」
スマホで検索して、竜樹が口頭説明したが、なかなか上手く顎の骨を自分で嵌められない未亡人。その姿は、アウアウ、アワワワ、ヨダレもたっぷりでそこに手を突っ込んで、かく、かくと試行錯誤しながら涙をつるす、うん、とんだ醜態である。

そんなこんなしていると、べセル伯爵の近くに、女性が2人と青年が1人、ソワソワしながら速足で近寄ってきた。
「お父様!テンテは、一体•••?」
「何故、神様がご降臨に•••?」
「あなた、どうなったの?どうしても会場に行きたい、っていうテンテと逸れてしまって、本当に心配して、あちこち探していたのよ!あなたと一緒で、安心したけれど•••。」
ハテナ、を出しながらも、竜樹の方を見て、あたふた目礼をする。

意見交換会で会ったから竜樹も知っている。歳を重ねても栗鼠みたいに可愛らしい、ヘーゼル色の髪、べセル伯爵の妻、ジュジュさん。テンテ少年のお兄さん、がっしりした広い肩、父より一回り大きい、母と髪色が似た頼り甲斐あるリンツ青年。それから、ちょっと鼻とほっぺが赤い、でもなかなか綺麗なつぶらな小鹿の瞳、栗色の柔らかな髪を控えめに、でも少しだけ可愛い髪飾り、マジェステで纏めた、お姉さんフランフラン嬢だ。

3人は、サンジャックを抱いて少し呆けているテンテ少年と、何だか困っている父で夫なべセル伯爵と、竜樹とザックス男爵夫人、てんでにそれらに目を走らせて、一体これってどういう状況?ハテナ?になっている。

「ええとね、こちらの顎が外れているのが、ザックス男爵夫人。皆さんとテンテ君を恐喝していた、悪い人ですね。今、俺と美に関して賭けをして、美の神、ボーテ神様顕現、当然ですが負けまして。ワインコレクションとテンテ君、そして俺を諦めて、脅し小道具の写真を手放す、って決まった所でねえ。」

まぁ! おお! 本当に!?
口々に喜びの声が小さく漏れる。が、アウアウ!ガクン!と顎の骨をやっと嵌められたザックス男爵夫人が。
「神様と勝負なんて勝てっこないじゃない!無効よ!卑怯だわ!ワインコレクションか、テンテ様に責任を取っていただくか、どちらかガガがアウアウ、アウ!」

竜樹に食い込むのは、神を顕現させたその力にビビって言い出せなくなったものの。それならばと当初の目的だった、テンテ少年を餌食にする案を、諦めずに主張した所で。

あー。
「顎が外れるのって、ちゃんと診てもらって治さないと、癖になるそうですよ。ザックス男爵夫人、ボーテ神様に頷いてたじゃないですか。負けたんだから、竜樹の言う通りに、って。」

「アウアウ、アアー!!!」

何だか時が経てば経つほど、醜くみっともなくなってくる、未亡人なのだ。
バクン、カクッ。
あ、嵌った。

「ふ、竜樹様の言う通りに、ですわ!ですから、竜樹様が私を助けると言って下さればいいのよ!私が被害者なんでガッ、アウ!アウアウ!」

アウアウ、と苦しむ。もう喋らない方が良いのではないだろうか。
「夫人。あのね。貴女は神様にも言質とられまいと誓わないし、負けても何とか言い逃れしたいみたいだけど。それって神様はどう、お思いになるんでしょうかね。もしかしたら、そのせいで顎が外れるのでは?何か、治るのかな?それって?神様に誠実に、俺の言う通りにしないと、治らなかったりして?•••貴女、気付いてます?あのね、俺、あんまり美醜にはこだわりないんですけど、それでもどうかなあと思う位、どんどん、みるみる、醜く、だらしなくなってってますよ。」

「•••アウ!」

まさか、とキョロキョロする。退廃青年達に縋りの目を向けるが、フッと逸らされる。
テンテ少年の母、べセル伯爵ジュジュ夫人が、目を尖らせて。けれどそっと側付きの女性から皮の小さなバッグを受け取り、中から掌に収まる手鏡を出して。そろそろ、とザックス男爵未亡人ルレに差し出した。

その鏡に映った、自分の乱れ衰え崩れた顔を見た未亡人は。

「ウゥ!アウアウア!•••アワワワウゥ!!(がくん)はぁ、何故!何でよ!あの呪術師、生半可な事じゃ解けないお呪(まじな)いを掛けたって、言ったのに!こんな、こんなの私じゃない!!」

スッ、とキャリコが竜樹の前に出た。竜樹は、ん?と思って、その頭を撫でてやったが、それを気にして、竜樹の手の上から手で押さえて、マヌケな形だけど、静かに。
分かっておろうな、を、伝える時が来た。

「その呪術師、今頃たぶん、力の揺り戻し、破棄されたお呪(まじな)いの影響でクラクラしてると思う。すごく強い、魅了っていえるほどの、美のお呪(まじな)いだったね。力のある呪術師だろうな。•••ちょっと寂しい男の人なら、ふらっと好きになっちゃうような。そうして、何でも言うこと聞いちゃうような。あんまり良くない、呪(のろ)いに近いお呪(まじな)いだったね。」

「そうなの?キャリコ。沢山喋るね。だから男の人らが、そんなに美人か?な、ザックス男爵夫人にふらふら集まってたんだ?」
茶化した訳ではなかったが、もう!とキャリコは、竜樹の言葉にペチ、と防御する手に、少年らしいまだ幼さ残る手を打って。

「•••うん。私だって、おしごと呪術師としてやってきてたんだから、説明するのに沢山しゃべれるよ!う、うん!ちょっと聞いてて!•••で、竜樹さまには、なんか、そういうごまかしのお呪(まじな)い、多分効かない。」
竜樹さまなんて言わずに、とーさでいいのに、とは混ぜっ返さず、黙ってはいる。とーさとは、強いて言わせるものでもないだろう。
そしてファヴール教皇などなら分かるのだろうが、キャリコにも、地味に見える竜樹を取り巻く、何か神っぽい場の力は感じられるのだ。どんなに強かろうが、お呪(まじな)い程度で、相対する本質を惑わせられる訳もなかった。

そう、だからザックス男爵未亡人は、自分の美に自信をもっていたのだ。
そういう呪術をかけていたから。大概は落ちる、確証があった。
触れれば触れるほど、毒が染みるごとく侵される。魅了される。やり過ぎて排除されないようにしろよ、と、まだ結婚前の夫人に呪術師は言ったし、そして本当の美には敵わないし、近寄ってはいけない、とも。その忠告を、覚えていたのかどうか。

「美のお呪(まじな)いは、本当に美しい人を側に近づけると、魅了のにせものの皮が剥がれちゃう。お呪(まじな)いだって、万能じゃない、制約があるんだよ。ふつうの美人程度なら、ごまかし惑わしもきいて、なかなか美で勝てないだろうけど、美の神さまなんていらしたら、一発だよ。敵うわけないもん、ホンモノに。」
「惑わしてた訳なんだ。じゃあ、元々は、そんなに美人でもなかった、って事?」

ワナワナワナ、と怒りに震える未亡人は、言葉さえ発せられない。
神様なんか、呼んだから!この私の美貌が!と目が言っている。

「うん。ちょっと美人くらい?だったかもだけど、会う人会う人に、こんなふうになんか、やらしい感じに好かれるような、魅力はなかったと思う。それで、きっと、女のひとって、美人でいるのに、すごく努力しなきゃでしょ。おばさんになってくれば、自然に太るし、細かったとしても、たるんでくる。シワもできるし、おはだも若くなくなってくる。私のとこにも、ちょっとだけダンナさんに、キレイに見えるお呪(まじな)い、かけて、って若いひとばっかりじゃなく、おばさんたちも結構きたりしたよ。」

それは微笑ましい依頼で。
キャリコは、全く禍々しい呪術師って訳でもなかったから、そんな依頼主達の、愚痴になるお喋りでもって、女性の悩みを色々と知っている。女性が美を保つには、並々ならぬ努力がいる。化粧、痩身、健康、若返り、食事に運動、お肌のお手入れ、諸々。
竜樹が味のある、良い顔が好きだ、というのとはまた別の意味で、美には地道な毎日の積み重ねを必要とする。

そんな努力を、目の前のザックス男爵未亡人が、爛れた生活の中で行っている訳がなかった。現在の化けの皮が剥がれた、歳より老けたおばさんっぽさは、自業自得なのだ。

「もう、きっと、まわりの男の人たちは、言うこときいてくれないと思う。魅了が消えて、今まで押さえつけてた、自分の自由な気持ち、いやだな、こんなことしたくない、って少しでもまともなら、元々はあるから、気持ちが強く出て嫌いになる、って言ってもいい。」

「それじゃあ、•••リオは、友達のリオは、もうこの女の人の言いなりには、ならないんですね?」
テンテ少年が、サンジャックを抱きしめていた手を緩めて、ホワ、と頬を赤くし目に光をポと灯して。

「うん、多分すごく嫌だな~、って、何で言うこときいてたんだろ、って、今ごろなってるはず。」

「裏切られたのに、まだ幼馴染の事を友達、って言うんだなあ。」

竜樹の言葉に、大人達は慈愛の目でテンテ少年を見る。
優しく、甘く、少年らしい繊細さ。許した訳ではないだろう。テンテが受けた傷は、未だ血を噴いていて、その証拠に兄リンツは心配そうに側に寄るけれど、母ジュジュと、姉フランフランは、女性への拒絶反応を引き起こさないよう、少し遠くで、心配そうに見守っているのだ。

「•••リオと会ったら、気持ち悪いこと思い出して、吐いちゃうかもだけど•••さよなら、言われちゃったけど。でも、リオが悪い事になるって、この女の人の言いなりで、まともじゃない、って、何か嫌だから•••。」

輝かしく温かい、今まで一緒にしてきた幼馴染との時間。それは思い切れと言われて、すぐに切り捨てられるものではないのだろう。
そしてリオ少年も被害者だ。加害者にもなってしまった。少年達の汚された絆は、本人たちがゆっくりと、時間をかけて、断たれた傷を癒すしかない。仲良しに戻れと言われても、単純にそういうことではない。
ただ、思いは、あるのだ。

16歳。ただでさえ、蛹から大人になるために、揺れる時期なのに。
もう頭を撫でられる歳ではなかろうが、竜樹は悲しみと慈しみを込めて、テンテ少年の頭を、髪を、撫で、撫で。とした。
テンテ少年は、瞳を揺らした後、目を閉じて、その触れ合いに、気持ちよさそうに息を吐いて落ち着いた。

「テンテ君。俺の住んでる新聞寮に、しばらく、子供達への読み聞かせや、勉強の先生として、通わないかい?サンジャックと仲良しできそうだろう?教会孤児院の子供達も、転移魔法陣でやって来るし、頼りになるお兄ちゃんがいてくれたら、とっても助かるなぁ。」

また、引き受ける!って目でマルサ王弟が、じと、としていたが、竜樹は構わずニコニコである。
「後々、子供達の学校教育の、教科書作りに体験から助言してもらったり、先生になってもらったりも、できるから。次男だから、ご領地の運営の補助をされる予定だったかもだけど、学園はちょっとお休みして、手伝って欲しいんだ。」

学園には女生徒も女性の教師もいる。
思春期で、女性に対して拒絶反応があるって、多分とてもキツイだろう、と誰もが分かった。
テンテ少年は、目をパッと上げて竜樹を見る。そして、サンジャックの髪に頬を、つ、と寄せて、コクンと唾を飲み込むと。
「はい•••お願いします。」
少し嬉しそうに、頷いた。

父べセル伯爵、母ジュジュ、兄リオン、姉フランフランは、口々に安心したため息を吐いて。そうねそうね、少しお休みだ、子供達の先生になるのも良い、テンテは本が好きだもの、読み聞かせいいわ!と嬉しそうに目尻を潤ませ。

「ちょっと!テンテ様は私への責任をとってもらわないと•••!」
あれ、まだいたっけな。
くらいの感じで、床に座ってまだしと、としたドレスの裾を気持ち悪そうにしているザックス男爵未亡人に、竜樹は目を落とした。

「あ。」

ゴゴゴゴゴゴ。
暗雲、にわかにかき曇り、ザックス男爵未亡人の頭上にもくもくと、墨を垂らしたかのごとく。屋内なのに。
空気が、冷や、とする。耳を騒がす圧を感じる、空を鳴らす、音、響き。
「な、何よ?なにか•••。」
人々の引きの視線を受けて、未亡人は、ハッと頭上を見上げた。ナニコレ、と口が言う前に。
瞬間。

ドンッ!!ビシャアアアン!!!!
ビリビリビリリ!!
「ィッ!ギャァッ!!」

あ~あ。
子供だって神様に嘘ついたら、ピリッと稲妻受けるのだ。
こんな風に言い逃ればかりしていたら、ボーテ神様だとて、いい気はしないであろう。既に神の裁定が下った事をぐちゃぐちゃと、煩いな!と言わんばかりの、周りには全く影響を及ぼさない、未亡人だけへの神雷である。

尿が乾く香ばしい匂いが漂う。
ザックス男爵未亡人の、自慢の黒髪は、雷コントみたいにチリチリになった。
まだビリビリ、ピクピクしている。

「夫人、神様って、言い逃れでどうにかなるような方達ではないですよ。貴女どんどん惨めになっている。抵抗はやめて、諦めて、俺の言う通りにしますか?」

「ゲホッ、な、なんで、い、いやよ!わ、私は、私の、私が•••。」

ゴゴゴゴゴゴ!

より一層大きな暗雲が形成され始めた。
「あ、多分、今度は無事で済まなかったりして•••。」

はく、はく。
頭上を見上げ、ひい、となった。
ビッ カッ ゴロゴロロ!!!

「分かった分かった分かりました言う通りにします諦める諦めます!写真は大元のフィルムから複写も全て竜樹様に渡します!テンテ様には近寄りません!ワインもいらない!それで良いでしょ!」

暗雲ピタッと止まりて、そこに消えず。

マルサが、ぽん、ぽん、と剣の鞘を叩きながら、ニッコリ追い打ちをかけた。
「それだけで済む訳ないだろ。写真も、きっとテンテだけじゃなかったりするんだろ?騎士団の特別顧問な俺の前で、良く恐喝とかできたもんだなぁ。神様から見放されちゃあ、悪運も尽きただろうしな?王族権限で、バシッと捜査させてもらうぜ。ドレスは乾いたんだろ?拘束して良いな?」

「な、何でよ!」
立てない未亡人が、ジリジリお尻で下がろうとするも。騒ぎに駆けつけていた衛兵さん達が、マルサの視線を受けて、パッと取り囲み、退路は断たれた。
退廃青年達も、暗雲に毒気を抜かれて、言うなりに腕を掴まれ、捕まってゆく。

「証拠はないし、普通なら拘束出来なかっただろうがよ。ギフトの竜樹に絡んだだけでも厳重に調べたいとこなのに、神様案件に抵触するときちゃあ、証拠以上の証拠だし。俺たち騎士団が黙ってはいられねぇよ。神に背いた重罪人だ、しょっ引いて牢屋に入れとけ。後で俺が直々に尋問して、調査の指示出すからな。」
「ハッ!」「ハイッ!」

何でよー!!と未練がましく叫ぶ声は縛られて引き摺られて遠くなってゆく。
テンテ少年が、肩をゆっくり落として、ふう、と息を吐いた。
家族の、べセル伯爵一家も、じん、と安堵の感情を、そわそわお互いに手を触れ合わせたり、顔を見合わせたりしながら、味わい、竜樹に目礼し、胸に手を置き、ふわっとなっている。

「テンテ君。俺は、多分、神様と少しだけご縁があって、そのおかげで、ほんのちょっとだけ、悲しい事があって傷ついてる子達が、側にいると落ち着くって、ホッとするって、言ってくれるんだよ。だから、側にいてくれたら、きっと悪い事には、ならないから。」

女性がダメになっちゃった事も。
お酒が、見るだけでダメになった事も。

「竜樹さま、自分でわかってたの?神のお力が、なんか場っていうか、もれてるって。」
だから、キャリコも引き取ってくれたのだろうか。それにしても、気軽にホイホイ心を怪我した子を呼びすぎじゃないか?とキャリコは思った。

「う~ん。元々、元の世界にいた時から、落ち着くなぁとかは言われてたんだけど。荒んだ気持ちの子供達が、俺にくっつくと、ピッと落ち着くだなんて、あれっと思ってたんだよね。司祭様とかにも、新しい子が来た時とかに、よく一緒にいてやって、って頼まれるけどさ。そんな不思議、それって俺の力というよりは、神様にお借りしたお力でしょ、って思って。なら、色々と問題があって、困っている子達や、気持ちが荒れて辛い子達に、ちょっとだけ落ち着いてもらう。そういう役目が、きっとあるんだと思うんだ。だから出会う子は、必然で出会ってるんだろうね。ご奉仕しなきゃ!って気持ちでもないんだけど、う~ん•••。」

何か、あ、あの子、胸がぽっかり傷んでるな、って思うと呼んじゃうんだ。
「撫でこしてあげる方も、気持ちが良いんだよ。癒されるんだ。元気出る。サンジャックを抱っこしてるの、とても癒されるでしょう、テンテ君。その温かみは、裏切らないって、思うから。」

喧嘩したり思い通りにならなかったり、成長して離れていっても、注いで注ぎあったもので共に育ってゆくその時間は、真実だから。

「俺はとっても、素敵なお仕事を頂いたな、って思ってるんだよ。ほんと。」

誰もが何も言えなくて。
ウンウン、とテンテ少年のジュジュお母さんが、頷き、べセル伯爵がグスッと鼻を鳴らして。
バシッと、マルサがニヤニヤしながら竜樹の背中を打ったので、ニッと返して。

サンジャックはテンテの胸の中、見上げて同じきもちわるいヘンタイの被害者なお兄ちゃんを、ニコニコと笑って瞳を合わせた。
泣きすぎて瞼が腫れていたテンテだけれども、涙は一旦、これでお終い。サンジャックに、ふ、と笑って返す。今滲んだ、やつれたけれど希望を胸にした涙、だけで。

ヴィフアートもニコニコしている。やっぱり竜樹様はそういうお方だから。助けてくれて、でも、助けてやったんだぞ!なんて言わない。
誰かが助かるかも、って、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
バーニー君も、お助け侍従タカラも、エルフのロテュス王子だって、やっぱり竜樹様だよね!とニンニンしている。

キャリコは、ふす、と鼻息吹いた。
じゃあ、私が竜樹様に呼ばれても、仕方ないかぁ。と思って。
呼ぶ人なのだもの。そういう、人なんだ。と、しっくりきたんだ。

「べセル伯爵、手放すはずだったワインコレクション、活用してみませんか。隠れ家レストランでも作って、週に5日くらい、一日に1組、事前予約だけのお客様を招んで、お値段時価のおもてなし、高いか安いか、お値段どうかに拘らず、貴方が心を尽くしたお食事とワインの組み立てを考えてする!って感じのお店、やってみられませんか。」

話題にもなるだろうし、ワインコレクションを狙う人も、飲めるかも、ってなれば落ち着くだろうし、それに、お店の警備をちゃんとして、お酒はそこに置いて、楽しむのもそこで、お休み日の週2回にしたら良いでしょ?

そうしたら、テンテ君の目の前で、飲まなくていいでしょう、とは言わなかったが。
意図は伝わり、テンテがニコッと顔を上げて。そして、むぐむぐとべセル伯爵が感激して、鼻を啜って。



「•••よろしい!我が家の威信をかけて、貴重なワインを、飲めるかもしれない、素敵で特別な、隠れ家レストラン!来るお客様のお好みやご事情まで考え抜いて、心尽くしに丁寧におもてなしするレストラン!是非やってみせましょう!」


ワッ!とお客さんまで一緒になって、拍手喝采。
お酒の品評会は、美しい神様の顕現まで話題となって、一層盛り上がるのだ。
テレビカメラが、記念飲みからボーテ神様のお姿まで、ちゃんと撮影して、映像では伝えきれないが圧倒的な美でもって、人々をポポッとさせ。
ザックス男爵未亡人のお呪(まじな)い魅了を、嫌悪感と共に解いて、テレビを見ていたリオ少年が、神の美に心洗われ。毒婦の支配から苦痛と共に抜け出し叫び声を上げて後悔を。

リオ君も、テンテ君と会わないようにさせて、何か教育かテレビラジオのお仕事手伝ってもらうかな。と竜樹が考えている事を、まだ誰も知らない。


ーーーーー

年末年始休みは、12月29日から1月3日までを考えています。4日に更新する感じで。
少し日常の都合で前後するかもですが、閑話の企画もワクワクと楽しみに書きたいと思っています(o^^o)
つつがなく、皆さま良い年末年始となりますように。


※登場人物、
 →神様たち
 →新聞寮、地方教会孤児院の子供たちと大人たち
を新しく別に増やしました。
今まで書いてた登場人物メモから削除はしないので、該当部分重複します。
チラッと見たい方いましたら、どっち見ても大丈夫です。
エルフも別立てすべきか考え中です。
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