王子様を放送します

竹 美津

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本編

私もふにふに

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女騎士で、お胸をふにふにしないと眠れないポムドゥテール嬢は、自分から皆にそれを告白して真っ赤なままーーどんなに恥ずかしかった事であろうか、そんな個人的な秘密は、本当に、花街あがりのヴィフアートが言うように、近しい伴侶に、機会があれば共有してもらって、何ならずっと自分の秘密のまま位で良いのに。
ポムドゥテール嬢を好きだという、呪いで眠ったままの車椅子のタイラスは、何だか分かっているかの如く血色良く、耳を赤らめて、しかし起きないまま、今は頼りにならない。

「ヴィフアート。アー兄ちゃん、俺は取られないし、ポムドゥテール嬢は取っちゃう気もないから、大丈夫だよ。」
「•••ウン。」
ぽんぽん、とヴィフアートの頭を撫でてやれば、小ちゃい子組も、とられない!とられない!と、大人しくなった彼を取り囲んで、ぱふぱふ、背中をたんたんしたり、ぎゅ、したり。

何というか子供達は、ヴィフアート、アー兄ちゃんを、自分らの下の小ちゃい子!みたく思っていて。多分、その幼い竜樹に執着する言動で、彼の年齢通りではない内面を分かってくれているのだろうか?おれたちが、めんどうみて、あまくしてやらなきゃな!と思っているみたいなのだ。
それは、ラフィネが、アー兄ちゃんは、花街で辛いめにあったから、皆が先輩として面倒みてくれると、助かるわ!と機転を効かせて言った事にもよる。

「わ、私、普通ですか。そうか、そういう事、他の人にもあるんだ。その、ヴィフアート?殿、ありがとう。何につけても満たされない、未熟者な私ではあるけれど、そう言ってもらえると、少しは私もましなのかな、って、恥ずかしさも堪えられます。」

ポムドゥテール嬢は、目を伏せ微笑で、ヴィフアートにお礼を言った。
普通だ、って言ってくれた。
恥ずかしくて、やめたくて、でも、ぬいぐるみなんかを抱いて寝てみてもやめられなくて、誰にも知られたくなくて。知られて馬鹿にされて、ずっと後ろめたく小さくなって眠った。
でも、私だけじゃないのか。そうか。
満たされない者は、結構、いるーー。それを知れただけで、恥をかいたかいがあった。ミモザ夫人や、タイラスの父ヘリオトロープ様達は、こんなトンデモ娘を、息子の嫁には、要らないなどと思った事であろうが。

ちょっとだけホッとして、スッキリして。そうなのだ。タイラスにだって、夫婦は一緒に寝るから、この癖を知られない訳にはいかないだろうと、そんな事が出来ようものかと、結婚に躊躇いがあったのだ。打ち明けられない、そんな信じきれないポムドゥテールでは、タイラスとも上手くいかなかったのでは。
ああ。すっかりスッキリ諦めた。

そんな事位、本当に好きな相手の事なら、何でもないよとタイラスが抱き寄せて慈しめば、それだけで済む話なのに。何だか公にした事で、どうしたものやら男達は困り、女達は何と言ったらいいか考え中、子供達は•••ラフィネかーさのおむね、さわりたくなるとき、おれもある。などと照れれ。何かこんがらがり始めている。


「あら。私もお風呂で、毎回お胸をふにふにしますよ。」

ええ!?と皆が振り返る発言の主は、ラフィネである。
竜樹は、言われて、あ、と思い付いた。そうだ。竜樹が、そうした方が良いよ、って言ったのだ。

「女性が自分の身体を確認するのは、良い事ですわよ。もっと恥ずかしくて言えない事もありますわよ?竜樹様が言った、タンポンっていう生理用品など、女性器を自分で分かってないと、短いものや、長いものなどがあって、物によっては浄化した清潔な手で、自分で正しく入れたりしないといけないのだし。自分の身体の欲求や、精神の調子だって、健康に関わるわ。甘えたい気持ちで、お風呂に入って、ゆったり眠る時に、気持ちよくお胸をふにふにしたって、何の悪い事もないわよ。だって、じゃあ、未婚で、多分身持ちも固いポムドゥテール嬢を、誰がお母様のように、甘えさせてくれるというの?安心して、ほっとして、緩んで、自分を解放する時間。大人だって、恥ずかしい事でも何でもなく、それはあるわよ。ねえ、ミモザ様。」
「えっ!えっ!そんな、ひええ!!」

貴族夫人のミモザ様は、突然話を振られて焦った。いやあるよ。そりゃあ、男性があるなら女性だって色々、いやらしいと言い切れない曖昧な、ふわふわとした事がいっぱいある。
だけど!今言わなくても!

「男性の方の前で言う事ではないかしら。何か、変に想像されそうだし。人にもよるしね、えーと、今はお胸ね。」
とラフィネは身を切り恥を一緒にかく。ニッコリ頼もしく。

「竜樹様が教えて下さったの。女性には、お胸に、しこりが出来る時がある、って。それ、早く知って、治療をしなければ、命に関わるものの時があるのですって。乳がん、というそうなんだけど、お胸の腫瘍よね。だから、毎回お風呂に入ったら、触って確認した方が良い、って。ポムドゥテール様のされている習慣は、命を守る習慣よ。」

お母さんというものは、娘に女性としての必要な情報を、段々と教えてくれる存在である。大丈夫よ、生きていけるわ、しっかりね、と命を与えて、愛しんでくれる存在である。
ポムドゥテール嬢は、言われて、じんわり涙が出そうだった。
竜樹様達は、どうしてこんなに、優しくしてくれるのだろう。

「そうだわ。ポムドゥテール様。私のお胸を、ふにふにしてみない?お母様というには烏滸がましいけれど、そして私は悪い事だとは全く思わないけれど、少しはお胸をふにふにする日が、減るかもしれないわよ?」

えっ?

ポポポッ、とポムドゥテール嬢の頬が、赤さを増す。いやそれは、と言おうとした時、ラフィネが、さあ、と両腕を広げて迎えてくれてーーーその母性に、吸い寄せられるように、そっ、と手を伸ばす。

ふに。

若干、自分のものより、柔らかい感触。
ふに、ふに、とポムドゥテール嬢は、とても真面目な顔をして、右手でラフィネのお胸に手を触れた。
そーっと広げた腕に娘を囲い、抱きしめて、ラフィネは背中を撫でてあげる。
背の高いポムドゥテール嬢は、腰を曲げるようにして、母性のラフィネ、その胸に、掌と顔をつけて、ふすー、と息を吐いた。
赤ちゃんが真剣な顔で母に縋るように、その表情は、泣いたばかりで慰められる子供の、すん、とした顔にも見えた。

お母様の匂いは、優しい匂い。

ポムドゥテール嬢は、石化していく眠った母が、眠りながらも身体を石にされていく痛みに、僅かな振動でも呻く為、本当に幼かった時しか眠る枕元に身体を投げて寄り添わせる事が出来なかった、その僅かな思い出の中から、匂いの記憶を甦らせて味わった。

竜樹は、ふ、と笑って。

ミモザ夫人は。
あ、お母様。ポムドゥテール嬢のお母様、その役、この方に、取られちゃう!と、ババッと汗が出て急激に焦って言った。
「わ、私のお胸も空いているわよ!これでも子供を2人育てたんですから!わ、わ、私のも、ふにふにして!」

何を見せられてるんだ、と男性陣は思ったが、けれど、真面目な話、満たされない満たされたい小さな子供のような欲求を、ここで、ミモザ夫人が、ポムドゥテール嬢へ満たしてあげる事に、意味はある、と言うか口が挟めない雰囲気でもある。

ポムドゥテール嬢は、微笑むラフィネから身体を離すと、顔を見合わせて、うんうん、と頷いてもらって、ミモザ夫人に振り返った。

どんと来い。どんと!
の気持ちで、ミモザ夫人も腕を広げて待った。
その胸に、娘は、ふっと笑って、パッと腕を広げて、ふわっ、と抱きついて。すり、と頬を擦り付けた。

ミモザ夫人は思った。
あ、女の子って、息子と匂いが違うわ。
髪の毛がいい匂い。抱きつく力も優しい。すべすべしてる。
そして、わたし。
女の子を産んで育てたかった事があったの、思い出したわ。

「あはははは!!ばっかじゃありませんこと!?やっぱりあなたじゃ、子供っぽ過ぎて、タイラス様には合いませんわよ!ミモザ様!私は確かに、タイラス様を呪いました!でも、でも、それも私を良く思って貰いたかったが故なんです!呪いは元々、解くつもりでしたし、私なら、大人として、キチンと今度こそタイラス様をお支えできます!」

ジャスミン嬢が、高笑いの後、悪あがきをし出した。いやそんな。これでジャスミン嬢がお嫁さんになる事は、まあ無いでしょう。
しらっ、とした視線が、ジャスミン嬢に流れる。

「ジャスミン嬢、それじゃ貴方は、タイラス様と結ばれる為に、良い嫁と認めて貰いたくて、その機会を作る為に彼を呪ったんですね?」
竜樹が問えば。

「ええ、そうよ。可愛いものじゃない?眠るだけなんですもの。タイラスだって、眠ったままでも、親身になって献身的に世話をする私の方が、きっと良いと選んでくれますわ!だって眠っても音は聞こえているし、感触も分かるんですもの、私がどれだけ心を砕いた事か、知っていますわ!」

子供達が、むぅっ、とし出す。
このお姉ちゃん、やな人!認定である。

「あなたは堂々と、普通にお嫁さん候補として競う事も出来たでしょう。タイラス様に呪いなんかかけずに、ご家族を不安や心配の気持ちにさせずに。それを望まれていたのじゃないんですか?」
竜樹が重ねて聞く。だが。
おほほほほ!嫌ね!これだから平民出のギフト様は甘ちゃんでいけませんわ、と笑う。
「貴族なら、ある程度、はかりごとも必要ではなくって?ポムドゥテール嬢では、幼すぎて、貴族の女性のやり取りは、無理でしょう?確かに私はやり過ぎたかもしれませんわ。お詫び致します。でも、将来的に私を選んでいただいた方が、絶対によろしくてよ!ミモザ夫人、お分かりでしょう?貴方様も貴族の夫人なんですもの、どれだけご婦人方が、一筋縄ではいかないか。」

「たつきとーさ、ジャスミンおねえちゃんが、およめさんなっちゃうの?のろい、したのに?」
サンが、ムーッと、そして心配顔で見上げてくる。
小ちゃい子組、セリューも、ロンも、ジゥも、そして白熊耳のデュランも、違うよね、違うよね、と見上げてくる。

ジェム達大きい子組や、3王子やワイルドウルフ組は、竜樹に安心の頼る目で、しっかと視線を。
そして、オランネージュが、呪いがバレたのに、ずうずうしいな、ジャスミン嬢。と呟くと。うん、ずうずうしい、ああいう口が上手い奴って、何かと自分の良いようにしようとするから、一緒にいると損ばっかするんだよ、乗っちゃダメだぜ、良い感じしないよね、ダメでつ、などとヒソヒソ。

タイラスの父、ヘリオトロープも、弟コリブリも、そのジャスミン嬢の言い草には、ムーッとした。

「ジャスミン嬢。私の我儘で、貴方を婚約者候補になどしてしまって、ごめんなさい。」
ミモザ夫人が、ポムドゥテール嬢を胸から、背中を促して顔を上げさせて。

「そうですわよね。候補などでなく、最初から婚約者が私に相応しかったですわ。ですから私も、少し戸惑って呪いなんか。良いのですわ、ここから正していただければ、私こそがお嫁さんに相応しいーー。」
「いいえ。」

キッパリ、とミモザ夫人はキリリとした表情で断言した。
「何故ですの?ポムドゥテール嬢は、まさか、そんな恥ずかしい貴族として相応しくない痴れ者ですわよ?」

ううん。フリフリ、とミモザ夫人は顔を振る。じっ、と突き刺すような、その、覚悟をもった、視線。

「貴族のご夫人方は、確かに一筋縄ではいかないわ。そして、はかりごとが必要、っていうのも、分からないではないですわ。でもね、ジャスミン嬢、貴方、分かってらっしゃらない。」
キョトン、とした狸顔は、いっそ悪気の一つもない、不思議そうな顔で。何が、分かってないですって?

「はかりごとよりも何よりも、勝るものがあります。それは、それは、可愛げよ!!!」

かわいげ?
ハテナの子供達に、その後ろ、ラフィネが、ウンウン、と目を瞑って腕組み、頷いている。

「可愛いわ、何かお世話してあげたくなっちゃうわ、っていう、自然に湧き出る、貴方がしたみたいなあざといのと違う可愛さが、ポムドゥテール嬢には、あるの!この娘には、本当に悪い事はしたくない、虐げたくない、っていう、最強のね!私だって、もっとタイラスと言い争って、自分の言う通りにジャスミン嬢を通したって良かったけど、それをさせない、ちゃんと筋を通さないとな、っていう真っ当な感じが、この娘には、するの!」

ぎゅむ、とポムドゥテール嬢の手を握って、ミモザ夫人が力説する。
「どんな意地悪夫人にも、打ち勝つのが、純粋で天然な可愛げよ。皆に可愛がられる、ってそれ以上の事はないわ。そんな、今までは少し隠されていた可愛げを、私が素直に出せるように、幼さをゆっくり育てながら、ポムドゥテール嬢のお義母様になります!だから貴方は。」

ごめんなさいね。

ニッコリ、と笑ったので。
一拍置いて、子供達は、わぁ~!と歓声、ピョンピョン飛び跳ねた。

ーーーーー

私は、ふにふに話を、うんうん、と真面目に書いているのですが、時々、何だこれ、何か変な話になってきた?うにゃ?って感じもしています。
うん、笑って時々、良かったら、うんうんしてね。
そして、イヤ!っていう、こういう話に拒否感のある方はごめんなさい。

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