王子様を放送します

竹 美津

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本編

ロバ笑う

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パカポコ。パカポコ。
一角ロバは地道に歩く。
新聞社までの道を覚えていた訳ではないから、途中で降りて人に聞きながら。
行き交う人たちは皆、王子達に親切に道を教えてくれる。
王子様と撮影隊効果もあるだろうけれど、とっても可愛らしいその様子に、親切にせずにいられないのだろう。ロバは順調に歩いてもうすぐ、新聞社。
周りはお店がある通り、賑やかに。

パカポ 「きゃっ!」

んん~?

人が沢山いる中から、一角ロバの前に、ぴょんと飛び出してきてパタリと倒れた、女の子。
この、普通のお店通りを歩くには不自然にひらひらと着飾り、髪も結い髪飾り、胸にも飾り。何だか•••オランネージュを、ねっとりした視線で見つめている。倒れたまま。

急な事に、ブルルン!と鼻を鳴らして止まっていたロバだけれども。

•••パカポコ、パカポ 「ちょっと!助けて下さらない!?」


オランネージュは、弓なりにお目々を笑ませて、にぱっと応える。
「早く起き上がった方がいいよ。そこ、側に馬糞があるから。」
「ヒェッ!!」

女の子は、ババッと跳ね上がって、素早く起きた。素敵な服に馬糞が付いていないかどうか、「えっ、え~っ!?やだぁ!!」などと言いつつ、裾を持ち上げ袖を見て、パタパタ確認している。

馬糞は、馬車があったれば、仕方なく出てしまうもの。お店などがある道は、当然綺麗にしておきたいので、お掃除役がいるものだ。
着飾り倒れた不審な女の子は、そこらにいるお掃除役の、粗末な服を着てスコップとバケツを持つ子供に、乱暴に声をあげた。
「アンタのせいで汚れる所だったじゃない!仕事は、ちゃんとしなさいよ!ホラ!早く取って!!」
「は、はい、すみません、ロビーお嬢様!」

女の子は、ロビーお嬢様というらしい。でも関係ないもんね、とチーム王子達は、ぐぐっと女の子を避けて大回りに。

パカポコ 「あっ!まっ、お待ち下さい!」

一角ロバの前に腕を広げ、通せんぼをしたロビーお嬢様。邪魔されたロバが、足踏み苛ついてムヒヒヒン!と歯を剥いたのに、チッと舌打ちをし。
「うるさいわね!ちょっと止まってなさいよ!バカロバ!どうせあの安い貸し一角ロバ屋の駄ロバじゃないの!」
と、小さな声でロバに罵った。
うん、それ、皆に聞こえているからね?

しかし、お嬢様はくるっと表情を変えて、あざといくらいに。ニコリと微笑む。

「その•••道の汚れの事を教えて下さって、ありがとうございます!オランネージュ殿下!ここでお会いできたのもご縁ですわ!すぐ近くに、私の家がありますの。少し寄って、お茶でもあがってくださいな。」
しなっ、しなっ、とくねくねする。

「遠慮します。」

パカポコ 「お待ちになってったら!!」

んもう~。しつこい!
オランネージュは、お口をムンとしている。ネクターやニリヤ、ファング王太子にアルディ王子も、何だ何だ?と怪訝な顔。

「私達は、今テレビ撮影のお仕事中なんだよ。悪いけど、寄り道できないから、ごめんね。」
「あら!それでしたら、私がお手伝いできますわ!オランネージュ様は、将来、平民の女性をはんりょに求めるおかた。私のような、美しくてかしこい者と知り合っておくのは、おすすめですわよ!!」
「遠慮します。」

パカポコ「ちょっと!いいからお茶に来て下さいな!!準備も出来ていますし、私の顔がつぶれます!!」
ムッとしたロビーお嬢様は、対するのが一国の王子達だというのに、自分の思い通りに動かす強い意志で。
見ている者の方がヒヤヒヤするやり取りである。


モルトゥがモニターを見ながら。
「こりゃ情報屋が仕事したかな。王子達が新聞社に向かう、っていう情報を買って、あの女の子が、きっと家ぐるみで待ち構えてたんだろうな。」
「ええ!?耳、速くない?!」
「それが情報屋の仕事だよ。」


モルトゥの言葉を裏付けるように、王子達とロビーお嬢様、撮影隊を囲むようにして見ていた人の中から、退いて退いて!と、ふっくりした髭面の、これまた高価そうな服ーーだけれども微妙にこの場に似合っていないーーを着た者が飛び出て、ロビーお嬢様とオランネージュに話しかけた。
「ロビー、オランネージュ殿下に助けて頂いたのかい?ありがとうございます、殿下!娘を助けて下さって!さあ、さあ、こんな埃っぽい道になどいらっしゃらず。そんな粗末な一角ロバなど乗り捨てて、我が家へいらして下さいませ!しっかりとおもてなし致します!」

ニコニコ!
と笑う、似たような大人達に、オランネージュはこれからも沢山、囲まれて育つのだろうなあ、と。竜樹は気の毒に思った。
撮影隊は助けない。まだ。
身の危険でもなければ、アクシデントは王子達自身が判断して、乗り越えて欲しい。きっと、外に出れば、こんな事がまたある。頻繁ならガードしなくちゃだけれど、頭にガツンと自分でさばくのも、王子達が慣れなければならない、おしごとなのだ。勿論付いてきている護衛達が、対処したくてジリジリしている。

「ろば、いいこよ。ぱかぽこ、きにいってるんだから。まとめておとく!だし!」
ニリヤがお口をとんがらし。
「乗り捨てなんて、出来ないよ!新聞社まで行って、帰って、お店に返すんだもの。」
ネクターも、眉を寄せている。

「おやおや、話が分からない方もいらっしゃる。では私の家の者が返しておきましょう。」
ネクターとニリヤには、何だか冷たい。ロビーお嬢様のお父さんは、顎をくいっとやって、パラパラ出てきた、粗末な服の下働きの者にロバの口輪をとらせ。

「ロバ達から、手をはなしてくれないか。テジェ、怪我をさせないように、頼む。」
「はっ!」
オランネージュの護衛のテジェ。キリリとしたしなやかに動く身体、控えめに燃えるワイン赤の長髪をピッと纏めて、馬の尻尾、顔まわりもキッチリ撫で付けて上げてある。美丈夫の、今は軽装の剣士。スッと。
ロバの口輪を恐る恐る取る、下働きの者達に視線を流し。
「失礼。我が主の行く道を、遮らないでいただけるね?」
口を笑みながらも、有無を言わせず、強い圧で、ロバの口輪を取り返した。

「じゃあ行こう、テジェ、少しの間、引いておくれね。」
「はい、オランネージュ殿下。」
ホッとして、さあ行こうと。

「待ってって言ってるでしょ!女の子に恥をかかせるって何なのよ!一国の王ともなる方が、女性を軽く扱ってよいわけ!?ろくな王様にならないわよ!」
「そうですぞ!せっかくの機会です!民の声に耳を傾けてみてはどうですかな!ほら、お前たち、何を下がってるんだ!」
ですが、旦那様ぁ、と情けない声の下働き達は、板挟み、可哀想である。

ふむ。
オランネージュは、失礼な父娘に、怒るかと思いきや。

「私たち、これから新聞社に行くんだよね。」
「後でお送り致しますよ、乗り心地の良い馬車で。」
父親は、子供だと甘く見て、のニコニコを止めないが。
取り合わず、続ける。

「新聞社で、インタビューに応えて、こんな事を話そうと思う。私は、王族、貴族、平民から妻を得なければならない。その妃達に求める条件は、やっぱり、『しつこくしない人』『相手の気持ちや行動を尊重してくれる人』『お国の為にわがままを堪えられる人』が良いって。」
「勿論!ロビーは、お気に召す相手ともなりましょう。ささ、そのお話はこんな所では出来ませんよ。我が家へ、さあ!」

嫌味もなんのその。
こんなにぬるっと、言いたい事が通じない者があろうか。
ロバに付くテジェが、そして他の護衛達も、物凄く冷たい目で。命令があれば何でもしようと、足を少し開いて、待ち構えている。
何となくワイルドウルフ側の護衛は、プックス!と、勿論、ロビーお嬢様の父親にだが、軽蔑顔である。

「何かイライラするぅ~!オランネージュ殿下、がんばれ!あの親父、強引すぎ!」
「平民が、皆こんなことする連中ばっかりだと、思われたらいやじゃんね!」
ルムトンとステューも、何だか怒り呆れた顔である。

「そこのロビーとやら。もしかして、私の妃になりたいと?」
しぶとく交渉を続ける。オランネージュだって、このまま言いなりに、お嬢様の家に行く気などない。
「その資格が、私にはありますわ!」
手を組んで、キラキラと得意げに。

ふむ。
ふす、と鼻息を一つ吐いて。
「私は、私のだいじな弟達を、軽んじるような者を、王族の親戚にむかえる気はないけどね。まあ、それは置いといても、そんな気持ちで待ち伏せするほど妃になりたいのなら、なった後にどんなお国の仕事をしたいか、既に構想はあるのだろうね?」
「もちろんですわ!」

一見話がトントンと思ったように進み、嬉しそうなお嬢様である。

「私がお妃になりましたら、美しく着飾り、貴族達を従えて、夜会でお役に立ちますし、実家の商会を盛り立てて、金銭的にも後ろ盾となりますわ!」


「うわぁ。頭悪い回答だな。実家食い込む気満々だし、相当の大商会でないと後ろ盾ってならないだろ。そうさせろ、って言ってるって事だろ?大きく出たよ。それに着飾るってさ。」
モルトゥが、へっと笑う。


「不合格です。」
バッテン、とロバの手綱を持ったまま、オランネージュは指でバツを作って。

「へ?」

「私たち王族貴族が、夜会ばっかりしてると思ったら大間違い。お金もかかるし、そんなに遊んでばっかりいられるわけ、ないでしょ。夜会やお茶会を開く時は、自分の領地の宣伝になるものを、効果的に身につけて、話題を持ち、真剣に参加するのがほとんどだよ。結婚してないご子息ご令嬢だって、そうだよ。普段は案外、慎ましく暮らしているし、様々なモノやコトに対する勉強も、ずっとしてる。大貴族ほどお金にシビアだよ。王族なら、お国のお金なんだから、なおのこと。」
「も、もちろん、そういう意味でしたわよ!出来ますわ!」

ほんとかね。
「あと、平民から出身の妃の実家に、特別に目をかけてあげる、なんて事は、王室ではできないからね。むしろ、縁戚であるが故に、貴族達への商売なんかで、得したりしすぎないように、遠慮してもらったりもするくらい。大商人の、ニリヤのクレール・サテリットお祖父様だって、応えられる実力があるのに、リュビ様がお眠りになるまで、全くと言っていいくらい、縁戚を頼みにして、王宮関係の商売をしなかった。今は竜樹と仲良しだから、色々面倒見てくれているけど、それはサテリットのお祖父様に、それを考えても尚頼みたい実力と、やり過ぎないバランス感覚、利を周りに配る賢さがあるからだ。」
「私達にも、実力はありますぞ!」

何を言っても響かないんだなあ。

「•••私のお母様は、お国の外交と国王の仕事の補佐を担っている。貴族の妃は、貴族達の力のバランスなどをみて、整え、気を配る役割がある。平民の妃は、2人の妃を支え、民達の暮らしや市井の現場を、王宮に伝える役割がある。だから出来ればお嬢様すぎない、世慣れた人が良いんだ。そして、大事な事に。」
コホン、と咳払い。

「大事なことに?」

「私のお妃は、私が良いなぁ、って思う、容姿も多少は、そして性格も素敵な子でなくちゃいけないんだ!家庭は円満に限るからね!ロビーとやら、君は全く、私の好みじゃない。ごめんね。」
ニッコリ。

ブッヒヒヒヒヒ!
一角ロバって、お利口なのである。人が何を言ってるか、ほとんど分かっている。そして、駄ロバとも言われたのを覚えているし、何ならロビーお嬢様に、今まで借りて使われた事もあって、そのぞんざいな扱いに、ロバ達だって、やな奴だな、って思っていたのである。

ブヒ、ブヒヒヒ!
ブッヒャッヒャ!

3匹の一角ロバは、全頭、超バカにした感じの薄ら腹立つ嘲笑い顔で、歯を剥いてロビーお嬢様を笑った。

それを見ていたファング王太子も、ブフ、と軽く噴いた。私もそれ、機会があったら、何なら言ってやろ、とも思った。

カーッ!と顔を真っ赤にさせたロビーお嬢様は、「何よ、何よ!」と口の中でモゴモゴ怒り。
ガッ!と爆発!

「笑うなんて、ひどい!何よ、卑しいケモノ混じりの癖に!!!!」

叫んで、道に広がり側にいた、ファング王太子が手綱を持つロバに向けて、その髪飾りをざっと抜いて。

あっ、と護衛達が集まる。
のに、間に合わず。

ブッスリ!
髪飾りのピンが、嫌がるそっぽをむいたロバの首に、ザンと刺さった。

ブヒヒヒ、ひひん!!!

バカラッ!と前脚を持ち上げて駆け出すロバは、痛くて驚いたのだろう。引き車が、慌てるファング王太子と、その腰をギュッと握るアルディ王子を乗せたまま、めちゃくちゃに暴走を!

とはいえ、小柄なロバである。
護衛達と、見守っていた人達の中で、腕力のある男達が、ワッと取っついて、ロバを抱えてズザザっと。
ガラガタン!
見物人の中の、お婆さんが、近づき過ぎたロバに驚いて倒れた。後ろにいた人達が、それを支える。

「ファング!アルディ!」
「だいじょぶ、わわ!」
「ひどい!」

ぐるりん。引き車が回転する。
ぴょん!とファング王太子と、アルディ王子は、飛び降りてズズーっと地面に手を、足を擦り着地した。身体能力の高い獣人ならでは、である。
ててて、とファング王太子が手を振りながら起き上がる。手のひらを擦ってしまったようだ。

「私の友達に、卑しいケモノ混じりと言ったな!そして、大事な同盟国のファング王太子とアルディ王子を傷つけようとした!」
引き車から降りて、オランネージュはファングの側に駆け寄ると、手を添えて痛み。護衛に手を捕まえられて真っ赤になり身を捩る、ロビーお嬢様に冷たく。
「無事に家に帰れると思うな!そんなかんしゃくもちの、偏見もちの、問題を起こす女が妃などと、良く言えた!牢屋で沙汰を待つがよい!」
「何でよ!笑ったのが悪いんじゃない!私は悪くない!」

いや、悪いよ。
見ている人々の心は一つである。
ロビーお嬢様の父親は、流石にまずいと分かり、オロオロしている。

ファング王太子は、撮影隊の本日の応急処置担当、ルルー治療師に、手を見せて魔法の水で手を洗いーー馬糞の落ちる道である、万が一があるーー浄化を受け、治癒もしてもらった。アルディは上手に着地したようだ。
お耳をピッ、と左右に振ったファングは、ルルーに。
「ロバの首も、治療してあげてくれないか?私が笑ったとばっちりで、可哀想だから。」と頼んだ。
傷は小さいが、少し血が出て、興奮したロバは取り押さえられて汗をかいている。

「分かりました。癒しも少し、かけましょうね。落ち着く効果がありますからね。アルディ王子殿下、大丈夫ですか?」
ルルーは、土埃に咳き込む、ぜんそく持ちのアルディに癒しをかけた後、ロバもちゃんと、治してあげた。鼻息をフン!と吐いて、治してと言ってくれたファング王太子に頭を寄せ、すりすりする、人懐こいロバである。落ち着いて良かった。ありがとね、なのだ。

「オランネージュ、ロビーとやらを離してやって。」
「いや、だが、獣人に対する侮辱に、害そうとした行い。パシフィストの者として、許せない!友達だから心配したのもあるけど、君達に何かあったら、国家間で、いざこざにもなる所だったのだぞ!」
ムン!とオランネージュは許さない。
側でニリヤとネクターも、ムン!と腰に手を当てて仁王立ちした。
「こわいらんぼうなおんなのこ、ダメよ!」
「全くだよ!」

ふふふ、とファングは嬉しく思った。友達って、先に言ってくれた。

「女の子を笑った私も、悪かったんだ。それに、お父様だったら、これくらいの事、さばけずにどうする、とおっしゃるだろう。平民の女の子のかんしゃくに、いちいち言ってもね。確かに何も罰がないのは、パシフィストの皆も立場がないだろうから、罰金って事にして、ロビーのお父様には、ここにいる見物人達にも、あそこの果実水の屋台を奢ってもらおうよ。」
少し焦ったから、喉が渇いちゃった。

ウフフ、と笑うファング王太子の大らかな裁きに。
「すまない、ファング。パシフィストの民を寛大に許して下さって、ありがとう。これはテレビに流れるから、決して獣人達を偏見の目で見る事を、我が国は許さないと、ロビー当人への罰として、馬糞掃除1年間の無料奉仕の罰も加えるって言わせてもらうよ。お掃除のお仕事の者には、大事な仕事を罰にするなんて、と悪いけれど、あの格好のロビーだから、きっと普段、掃除なんてしないんだろうしね。」
「うん、それで良いよ。」

とほほのロビーの父親に、奢ってもらった果実水は冷たくひえて、喉に気持ち良い。赤い柑橘は甘く、酸っぱく、お口をサッパリさせる。
何だかんだあったが、王子達は益々仲良く、結束が固くなり、和やかに果実水の屋台の前、ロバ達にお水ももらって。
新聞社はもうすぐなのだけれど、ゆったりだ。

ちなみにロビーお嬢様は、何やら叫びながら詰め所の兵に連れていかれた。多分詰め所で、道で騒ぎを起こした件も含め、大きな雷、お説教である。父親はショボくれて、果実水の屋台を借り切って、やはり兵に連れられていった。
幾ら情報を手にしたって、それをこんな風にしか使えないのであれば、無い方が良いくらいである。

ぐうぅう、とニリヤのお腹が鳴った。
「そういえば、お腹すいたね。」
ネクターもお腹を押さえる。
ちょっと果実水飲んじゃったから、余計に何か食べたい。カーン!とお昼の鐘も鳴って、お昼時なのだ。
撮影隊が、ロケ弁ありますよ、と言う。
「ろけべん、って?」
アルディ王子が、じゅる、と果実水を啜って言った。
「撮影のとき、休憩して、外で食べるお弁当ですよ。」
アシスタントが、小さな時止めの鞄を。ポンと叩く。
「ここで食べましょうか?」
本当は、新聞社で場所を借りて、と思っていたけれど、子供のお腹とは待ったができないものである。ここは道端だけど、皆が温かく見守って、避けていってくれるから、屋台の並び、石の段々に座って、食べられない事もない。ちょっと、馬糞の埃は気になるが、いやいやお掃除はマメにしてるから、道は綺麗だ。お掃除の子が、浄化もしてるんである。

「王子様達、ちょっと良いですか?」

おずおずと、見守っていた街の子供達が、声を掛けてきた。そのリーダー格かと思われる、キリッとした太眉の、ポニーテールの焦茶髪、凛々しい女の子が、続けて。
「さっきは、うちのおばあちゃんを、治療してくれてありがとう。」
「倒れちゃったお婆さん、大丈夫だった?」

驚いて、どこも傷めはしなかったのだけど、倒れて呼吸がはあはあ、心臓ドキドキになっちゃったのだ。ルルーが、癒しをしてくれて、落ち着いた。

「ええ、大丈夫よ。ついでに、最近した火傷まで治してくれて、助かったわ!そのお礼と言っては何だけど、狭いけどウチに来ない?お弁当くらいは食べられるし、お茶くらいは出すし、タープを張った庭があるから、撮影隊の人たちも、ベンチでお弁当食べられるわよ。あっ、下心とかないわよ!お妃とか狙ってないから!何も要求しないわ!すぐ近くの、小さなお茶屋なの!」
腕を後ろに回して、良かったら、と控えめな女の子には、好感が持てる。
「アイリスんちは、古いけど昔っから試飲の場所が、店の中と外にあってね、庭もキレイにしてあるから、きもちいいよ。」
アイリス、という名の少女より、少し背の低いメガネの、クルクル巻き毛の男の子が、プッシュする。
「あのわがままな、ロビーお嬢様をやっつけてくれたから、俺たち、王子様達にかんしゃなんだ。」
メガネはかけていないが、巻き毛もそっくりな、多分双子の片割れの男の子も、お礼を言う。
「おうじちゃま、ロビーたんと、けっこんちないわよね?」
小さなクリクリお目々の、オレンジがかった茶髪の、少しお鼻がペチャとした女の子が、心配する。幼児の鼻ペチャは、将来の素敵な女性、の姿を予想させた。

子供達は、皆、ボロではないけれど質素で清潔な、この道をゆく平民達の中で馴染んだ、落ち着く格好をしていた。
タハッ、ウフフと王子達は笑った。
「しないよ、ロビーと結婚なんか。私にも選ぶ権利はある。」
オランネージュの言葉に、あはは、と子供達も安心した様子。
ロビーお嬢様の家には行きたくなかったけど。

「お茶屋さんて、行った事ないんだ。王宮には、商人が持ってくるばっかりじゃない?お店で買うって、してみない?」
オランネージュが言えば。
「良いな。パシフィストのお土産に、お茶屋で買ったんだ、なんて、お父様もお母様も喜びそうだ。見せてもらいたいな。」
ファング王太子も応えた。
「私も一緒にえらびます!お弁当のついでなら、お仕事中でも、寄ってもいいよね?」
ニコニコ、ブン!と尻尾を振るアルディ王子に。
「わーい!おちゃやさん!」
「美味しいおちゃ、おすすめのある?」
ニリヤとネクターも、ニッコリである。

「うん!高級なお茶は、少ししか置いてないけど、色々美味しいお茶があるから、見てってよ。お安くするよ!ウチでブレンドもしてるんだ。ちょっとは、ここで名の知れた、がんばってるお茶屋なんだからね。」
アイリスが、くふっ!と、ポニーテールの尻尾を揺らして、ムニュ、と大きな口を、広い受け皿の形にして。
それはとっても、上品ではなかったけれど、自然でキュートな、素敵な笑顔だった。男の子達は、何となく嬉しくなって、飲み終わった果実水のグラスとストローを屋台に返すと、えへへと小走り。
コッコッ、行こ行こコケコっこ、とロバを引き、アイリスのお茶屋へと向かう事にした。
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