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本編
陽炎の月9日から12日 アルディ王子5
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「はい!発言を求めます!」
ブルブルリ!と耳も尻尾も武者震いの後、手を上げて、発言を求めたアルディ王子だったが。
「あの•••あなたは、どなた?」
「ファング王太子殿下が連れていらした、と、いうことは、やはり貴族の方•••?」
でも、主だった高い位の、同じ歳ごろの貴族子女は、もう集まっているし。
そうなのだ。アルディ王子は、もっと小さい頃に、友人候補の貴族の子供達に紹介されたものの、日々咳の発作がひどく、ほとんど遊べなかったし、身体が弱すぎて全く相手にされず。また公の場に出ようとすると、緊張で咳が出るので、貴族達にも平民達にも、今の顔を知る者がいなかったのだ。
ピクピク、アルディ王子の黒い狼お耳が動いて、ピッ、と少し左右に開いて立った。
「そうだよね、皆、私のこと知らないよね。私は、ワイルドウルフの第二王子、アルディです。よろしくね。礼はしなくて、良いから。」
ハッ•••黒い、狼の耳尻尾!王様と同じ!
と皆慌てて、しかし礼をしなくていい、と言われてしまったので、何となく気まずい雰囲気になった。
「アルディ王子殿下。私はセルクル公爵家の長男、ルトランと申します。ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。」
「うん。挨拶とか、今日は気にしないで。皆の、おぼんの舞の事の方が重要だから、そして私も少し皆と、話したい事があるから、身分は不問で、お話してくれる?」
ファング王太子は、アルディ大丈夫かな、とハラハラして、見守り。
ルトランは、ああ、病気がちの、あまり表に出てこれない、役に立たない第二王子か、とアルディを甘くみた。
「はい、では、失礼して。アルディ王子殿下は、パシフィストの国に、病気療養に行っていたのではないですか?」
何でこんな所にいるんだ、と、目を細めてルトランが言えば。
あ、ああ!そうか、そういえば、そうなんだっけ。何だ、弱い第二王子だ。ルトランの後ろにいる、踊り上手いチームの貴族の子女は、ふ、と息を吐いて、それぞれ、初めて見るなー第二王子、とか、そんなに身体弱そうにも見えないわー、とか、まあ油断をしきっていた。踊り下手なチームは、アルディ王子が何を言いたいのか、予測もつかず、咎められるのか、それとも、と何となく居場所ない気持ちで、見つめて。
「そうだね、今ね、私は、ぜんそく、っていう、咳が出る病気と付き合いながら、パシフィストのお国で、ギフトの御方様がじょうほうを下さったやり方で、お試し治療を受けているんだ。同じ病気の人の、役に立てればいいなあ、と思ってるし、気をつける事もあるけど、段々と普通の生活ができてるよ。」
調子もいいし、おぼんだから、里帰りしてみたの。
なるほど。
保護者の人々は、新聞で報じられアルディ王子の現在を知っていたし、体育館とプールが出来た経緯も知っていて。その建設には王の私費も半分ほど使われての事だったので、王が大事にしている、そしてギフトの御方様とお近くに居られる、この王子が何を言うのか、と、ジッと見つめていた。
「それで、アルディ王子殿下。踊らない貴方が、何をおっしゃりたいので?」
ルトランは、面倒な気持ちを隠さず、腕を組んで問いただした。
うん。あのね。
「ひとりぼっちの王様は、いやだよね。」
「••••••はぁ?」
ルトランは、何だぁ?と、明後日の方から来た言葉に、熊耳と首を捻った。
アルディ王子は、うん、うん、と頷き、尻尾をゆらゆら振りながら。
「王様って、ひとりぼっちだと、何にも出来ないの。何のためにいるのかも、分からなくなる。皆のために、お国が、そこに住んでる人達が、上手くいくように、自分も頑張るし、皆にも手助けしてもらって、それで、王様ってなりたってるの。」
「ああ、まあ、そうですね。」
当然の事だ。ルトランは頷く。
「だからね、ファング兄様を、ひとりぼっちの王様に、しないでほしいの。私もお助け、できる事をするけど、皆も、自分達のためにも、ファング兄様を助けてほしいの。」
「ですから、舞の事も、ファング王太子殿下に相応しい、ちゃんとできる者達だけでと。」
ルトランは言うけれど。
「ファング兄様が、お父様から引き継いで治めるお国には、色んな人がいるでしょ。出来る人ばかりじゃない、色々な事が出来ない人もいる。そして、それでも皆、この国の大切な国民で、一緒にうまくやっていきたいのでしょ。ファング兄様は、だから、皆でやりたい、って言っているのじゃない?」
むぐ。
ルトランはムグリと口籠る。
保護者達は、うむうむ、と頷き聞きつつ、子供達を見守る。
ファング王太子は、アルディ•••と感動している。
「それに、お迎えする魂達の中にも、生きてた時は、足が悪かったり、少しふくよかだったり、動くのが得意じゃなかったり、色んな人がいたんだと思うの。だとしたら、上手い人ばかりの踊りより、色んな人がいて、それでも精一杯踊る舞の方が、喜んでもらえるのじゃない?」
むぐ、むぐぐぐ。
「でもね、上手い人が、舞を高めて、素敵なのを踊りたい、出来ない人に合わせて下手な踊りにしたくない、って気持ちも、分からないではないの。全部を一緒で、なくても良くない?だから。」
「踊らない、まだ皆の舞を見た事ない、私に、一度、皆で、通しで踊って見せてくれない?」
アルディ王子が、耳をピン!と立てて、提案する。
「それでね、踊ってる間に、誰か、ちょっと皆で食べられるような、お菓子を買ってきてくれない?踊った後に、皆で話し合ってみよう。疲れて、お腹すいてお話すると、皆、嫌になっちゃうから、飲み物も用意して飲んで、お菓子食べながら、落ち着いてお話しよう。」
これは、竜樹の方法である。
ジェム達は、あまり喧嘩をしないけれど、揉めると大きい子組が収めて、そしてそれでも何となくしっくり来ないようだと、皆、竜樹に甘えて訴えて。竜樹は、ちょっとしたおやつをくれ、お茶や果実水を飲ませて、じっくりお話しを聞いてくれるのである。
大勢で暮らしていれば、全員に上手くいかない事もある。それでも、聞いてもらって、上手く気持ちの落ち着き所を見つけて、時には良いアイデアを一緒に考えてくれて。
アルディ王子は、それを見てきているから、やってみたらどうか、と思ったのだ。
ファング王太子とアルディ王子に付いてきていた侍従達が、ニコニコッ!と笑顔で「私達がお菓子とお飲み物を、ご用意して参ります。」サササ!と動き出した。
「お願いね。」と頼んで、さて、と。
「あ、あと、コリーヌ嬢?足が悪いのは、生まれつき?」
アルディ王子が、今度は、車椅子のコリーヌ嬢へと顔と耳を向けた。
突然のフリに、コリーヌ嬢は驚きながら。
「えっ?あ、ああ、ええと、生まれつきではないです。これは、領地の草原で遊んでいる時に、突然出てきた獣にやられて•••。」
うん、うん。
「生まれつきじゃないなら、足、治るかもしれないよ。身体の中を見る魔道具がパシフィストにあって、見ながら神経が切れていたのを、魔法をそこに集中させて、つなげる事ができるって。友達が、その治療をやって、今も頑張ってるんだ。すぐ立てる訳じゃないし、りはびり、って言って、筋肉や骨、関節を整えるのに、時間と努力は必要かもだけど。」
え。
コリーヌ嬢は、思いもかけない言葉に、口が開いたままになり。
ガタタン!
保護者の中から、ウサギ耳の、コリーヌ嬢とよく似たイケオジが、急に椅子から立ってアルディ王子へと、ずんずん近寄ってきた。真剣な、真剣な、眉を吊り上げた顔で。
「パラディ辺境領伯、アミ殿の怪我の治療の噂は、本当だったのですか!!アルディ王子殿下、どうか、どうかその話を、私に、コリーヌのために、詳しくお聞かせください!あ、ああ!踊り、踊りが終わってからでも、いつでも良いですから、どうか!」
アルディ王子の前で膝を折り、胸に手を当て深く礼をして。
「コリーヌ嬢のお父様、かな?うん、お話し、しようね。」
コーディネーターとは、こんな風で、まずは良かったかな?とアルディ王子は、息を吐いた。緊張したけれど、咳は出なくて、よかった、よかった、と胸のペンダント、癒しの魔道具をキュ、と握る。
周りの皆は、話の主導権をさらりと奪って、そして今も注目されている、弱い、何の役にも立たないはずの、アルディ王子に、驚きの目が隠せなかった。
ニコニコしているのは、ファング王太子だけである。
ブルブルリ!と耳も尻尾も武者震いの後、手を上げて、発言を求めたアルディ王子だったが。
「あの•••あなたは、どなた?」
「ファング王太子殿下が連れていらした、と、いうことは、やはり貴族の方•••?」
でも、主だった高い位の、同じ歳ごろの貴族子女は、もう集まっているし。
そうなのだ。アルディ王子は、もっと小さい頃に、友人候補の貴族の子供達に紹介されたものの、日々咳の発作がひどく、ほとんど遊べなかったし、身体が弱すぎて全く相手にされず。また公の場に出ようとすると、緊張で咳が出るので、貴族達にも平民達にも、今の顔を知る者がいなかったのだ。
ピクピク、アルディ王子の黒い狼お耳が動いて、ピッ、と少し左右に開いて立った。
「そうだよね、皆、私のこと知らないよね。私は、ワイルドウルフの第二王子、アルディです。よろしくね。礼はしなくて、良いから。」
ハッ•••黒い、狼の耳尻尾!王様と同じ!
と皆慌てて、しかし礼をしなくていい、と言われてしまったので、何となく気まずい雰囲気になった。
「アルディ王子殿下。私はセルクル公爵家の長男、ルトランと申します。ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。」
「うん。挨拶とか、今日は気にしないで。皆の、おぼんの舞の事の方が重要だから、そして私も少し皆と、話したい事があるから、身分は不問で、お話してくれる?」
ファング王太子は、アルディ大丈夫かな、とハラハラして、見守り。
ルトランは、ああ、病気がちの、あまり表に出てこれない、役に立たない第二王子か、とアルディを甘くみた。
「はい、では、失礼して。アルディ王子殿下は、パシフィストの国に、病気療養に行っていたのではないですか?」
何でこんな所にいるんだ、と、目を細めてルトランが言えば。
あ、ああ!そうか、そういえば、そうなんだっけ。何だ、弱い第二王子だ。ルトランの後ろにいる、踊り上手いチームの貴族の子女は、ふ、と息を吐いて、それぞれ、初めて見るなー第二王子、とか、そんなに身体弱そうにも見えないわー、とか、まあ油断をしきっていた。踊り下手なチームは、アルディ王子が何を言いたいのか、予測もつかず、咎められるのか、それとも、と何となく居場所ない気持ちで、見つめて。
「そうだね、今ね、私は、ぜんそく、っていう、咳が出る病気と付き合いながら、パシフィストのお国で、ギフトの御方様がじょうほうを下さったやり方で、お試し治療を受けているんだ。同じ病気の人の、役に立てればいいなあ、と思ってるし、気をつける事もあるけど、段々と普通の生活ができてるよ。」
調子もいいし、おぼんだから、里帰りしてみたの。
なるほど。
保護者の人々は、新聞で報じられアルディ王子の現在を知っていたし、体育館とプールが出来た経緯も知っていて。その建設には王の私費も半分ほど使われての事だったので、王が大事にしている、そしてギフトの御方様とお近くに居られる、この王子が何を言うのか、と、ジッと見つめていた。
「それで、アルディ王子殿下。踊らない貴方が、何をおっしゃりたいので?」
ルトランは、面倒な気持ちを隠さず、腕を組んで問いただした。
うん。あのね。
「ひとりぼっちの王様は、いやだよね。」
「••••••はぁ?」
ルトランは、何だぁ?と、明後日の方から来た言葉に、熊耳と首を捻った。
アルディ王子は、うん、うん、と頷き、尻尾をゆらゆら振りながら。
「王様って、ひとりぼっちだと、何にも出来ないの。何のためにいるのかも、分からなくなる。皆のために、お国が、そこに住んでる人達が、上手くいくように、自分も頑張るし、皆にも手助けしてもらって、それで、王様ってなりたってるの。」
「ああ、まあ、そうですね。」
当然の事だ。ルトランは頷く。
「だからね、ファング兄様を、ひとりぼっちの王様に、しないでほしいの。私もお助け、できる事をするけど、皆も、自分達のためにも、ファング兄様を助けてほしいの。」
「ですから、舞の事も、ファング王太子殿下に相応しい、ちゃんとできる者達だけでと。」
ルトランは言うけれど。
「ファング兄様が、お父様から引き継いで治めるお国には、色んな人がいるでしょ。出来る人ばかりじゃない、色々な事が出来ない人もいる。そして、それでも皆、この国の大切な国民で、一緒にうまくやっていきたいのでしょ。ファング兄様は、だから、皆でやりたい、って言っているのじゃない?」
むぐ。
ルトランはムグリと口籠る。
保護者達は、うむうむ、と頷き聞きつつ、子供達を見守る。
ファング王太子は、アルディ•••と感動している。
「それに、お迎えする魂達の中にも、生きてた時は、足が悪かったり、少しふくよかだったり、動くのが得意じゃなかったり、色んな人がいたんだと思うの。だとしたら、上手い人ばかりの踊りより、色んな人がいて、それでも精一杯踊る舞の方が、喜んでもらえるのじゃない?」
むぐ、むぐぐぐ。
「でもね、上手い人が、舞を高めて、素敵なのを踊りたい、出来ない人に合わせて下手な踊りにしたくない、って気持ちも、分からないではないの。全部を一緒で、なくても良くない?だから。」
「踊らない、まだ皆の舞を見た事ない、私に、一度、皆で、通しで踊って見せてくれない?」
アルディ王子が、耳をピン!と立てて、提案する。
「それでね、踊ってる間に、誰か、ちょっと皆で食べられるような、お菓子を買ってきてくれない?踊った後に、皆で話し合ってみよう。疲れて、お腹すいてお話すると、皆、嫌になっちゃうから、飲み物も用意して飲んで、お菓子食べながら、落ち着いてお話しよう。」
これは、竜樹の方法である。
ジェム達は、あまり喧嘩をしないけれど、揉めると大きい子組が収めて、そしてそれでも何となくしっくり来ないようだと、皆、竜樹に甘えて訴えて。竜樹は、ちょっとしたおやつをくれ、お茶や果実水を飲ませて、じっくりお話しを聞いてくれるのである。
大勢で暮らしていれば、全員に上手くいかない事もある。それでも、聞いてもらって、上手く気持ちの落ち着き所を見つけて、時には良いアイデアを一緒に考えてくれて。
アルディ王子は、それを見てきているから、やってみたらどうか、と思ったのだ。
ファング王太子とアルディ王子に付いてきていた侍従達が、ニコニコッ!と笑顔で「私達がお菓子とお飲み物を、ご用意して参ります。」サササ!と動き出した。
「お願いね。」と頼んで、さて、と。
「あ、あと、コリーヌ嬢?足が悪いのは、生まれつき?」
アルディ王子が、今度は、車椅子のコリーヌ嬢へと顔と耳を向けた。
突然のフリに、コリーヌ嬢は驚きながら。
「えっ?あ、ああ、ええと、生まれつきではないです。これは、領地の草原で遊んでいる時に、突然出てきた獣にやられて•••。」
うん、うん。
「生まれつきじゃないなら、足、治るかもしれないよ。身体の中を見る魔道具がパシフィストにあって、見ながら神経が切れていたのを、魔法をそこに集中させて、つなげる事ができるって。友達が、その治療をやって、今も頑張ってるんだ。すぐ立てる訳じゃないし、りはびり、って言って、筋肉や骨、関節を整えるのに、時間と努力は必要かもだけど。」
え。
コリーヌ嬢は、思いもかけない言葉に、口が開いたままになり。
ガタタン!
保護者の中から、ウサギ耳の、コリーヌ嬢とよく似たイケオジが、急に椅子から立ってアルディ王子へと、ずんずん近寄ってきた。真剣な、真剣な、眉を吊り上げた顔で。
「パラディ辺境領伯、アミ殿の怪我の治療の噂は、本当だったのですか!!アルディ王子殿下、どうか、どうかその話を、私に、コリーヌのために、詳しくお聞かせください!あ、ああ!踊り、踊りが終わってからでも、いつでも良いですから、どうか!」
アルディ王子の前で膝を折り、胸に手を当て深く礼をして。
「コリーヌ嬢のお父様、かな?うん、お話し、しようね。」
コーディネーターとは、こんな風で、まずは良かったかな?とアルディ王子は、息を吐いた。緊張したけれど、咳は出なくて、よかった、よかった、と胸のペンダント、癒しの魔道具をキュ、と握る。
周りの皆は、話の主導権をさらりと奪って、そして今も注目されている、弱い、何の役にも立たないはずの、アルディ王子に、驚きの目が隠せなかった。
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