王子様を放送します

竹 美津

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本編

巡り巡る輪に入れて

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「お二人とも、良く来てくれました!」

竜樹が王宮の一室で迎えるのは、意見交換会で遊びに誘った、視力の弱いルフレ公爵家長男プレイヤードと、アシュランス公爵家ピティエ。
2人とも、視力の弱さをカバーする、お付きの人に伴われて、手には昨日お試しで渡された、白杖を持っている。プレイヤードはワクワクと鼻息荒く、ピティエは、少し大きい、光の眩しさを遮るサングラスをかけて、ぱち、ぱち、と目を瞬いた。

「白杖の具合はどうですか?」
寮に案内しつつ、竜樹が尋ねる。

「ほんとに、べんり!壁や段差や凹みを、振動で知らせてくれるから、ちょっと安心です。家でトイレに行く時、慣れてるから場所はわかるけど、この杖があると確認ができるから。」
ホッとします!

「わ、私、あまり家の中でも動かなかったんですけど。白杖があると、少し動きやすくて。久しぶりに家の食堂へ行って、家族と食事をしました。」
みんな、喜んでいました。

プレイヤードとピティエが、王宮の庭、芝生の上を手を引かれて、寮への道をゆっくり歩きながら、それぞれ白杖を使ってみて良かった、と嬉しそうにした。

「良かったです!いっぱい使ってみて下さいね。そして使い勝手を教えてください。さあ、寮の入り口はこちらですよ。玄関で靴を脱いでいただきます。」

え!?
2人は驚いて。意見交換会でも靴を脱いだけれど、ギフトの御方様方式は、本当に家の中では靴を脱ぐのだなあ、と思って。
「こちらに、脱いだ靴の目印になる道具があります。丸いのがプレイヤード君で、四角いのが、ピティエ様ね。靴の中に、入れておいて下さい。靴箱はここね。」
靴の栞ともいえる、一対の道具を脱いだ靴に入れて、2人は備え付けの靴箱を手で探り、空いていた端の方に靴を入れた。
靴の栞は、新聞売りで視力の弱いアミューズが、自分で自分の靴が分かるようにと、お試しで幾つか作ったものだ。

寮に入って、交流室に行くと、ラフィネとちっちゃい子組の3人が、押し花していた。おっきい子組は新聞売りの仕事に行っている。

「おはよう~みんな。押し花してるの?」
「おはようたつき父さん!おしばな、してるの!」
「きのう、いっぱいもらった。お花、きれい。」
「はやくしないと、枯れちゃうもん。」

押し花も仕事、と使命感を持ってやっているちっちゃい子組。サン、セリュー、ロン。ラフィネが、読み終わった古新聞や、挟む木片、重しの石などをスタンバイしてニコニコしている。

「みんな、えらいな~!今日は、お客さん連れてきたんだよ~。アミューズみたいに、おめめが見えにくいの。良かったら、お手伝いして、仲良くしてね。」
さあ、紹介。とプレイヤードとピティエを前に押し出す。
「ルフレ公爵家長男プレイヤードです。」
「アシュランス公爵家ピティエです。」
ちんまりしたプレイヤードはハキハキと、青年として背の高いピティエは猫背でおずおず、自己紹介。
「サンです!」「セリューです!」「ロンです!」
「プレイヤードさま、ピティエさま、おしばな、いっしょしよ~!手をさわるね。」

わわっと周りに集まって、手を取り、ゆっくりと押し花の道具の近くに2人を座らせる。
アミューズで慣れているから、ちっちゃい子組も、物怖じせずに、後ろからじゃなくて前から話しかける、ポンポンと触れた手を取り、などができた。
竜樹も一緒に座り込み、押し花を2人が四苦八苦しながらやってみるのを見学する。

「きれいに花びら、ひらいておすの。」
「ばらとかでっかいのは、花びら1枚ずつにする。」

厚みのある花を、花びら1枚1枚に毟る作業を、丁寧に恐る恐るやるピティエ。小さい花を、重ならないように手探りしつつ並べて、サンにこれで良いか聞くプレイヤード。
「あとで、しおりにしてうるの。だいじのお仕事なんだよ。」と聞いたから、2人とも真剣だ。

それからも2人には、初めての事が沢山あった。
新聞売りの子達が仕事から帰ってきて。
自分達と同じく視力の弱いアミューズとも、顔合わせをした。
「みんなが、困ったら助けてくれるからね。安心してあそぼうね。」
アミューズは、仲間のジェム達や竜樹に認められて、笑顔がふくふくしている。

オランネージュ、ネクター、ニリヤの3王子にアルディ王子、車椅子のエフォールもやってきて、賑やかに昼食となる。
「ぼくたち、おてつだい、できるからね!」
「遠慮なく、不安なときは言ってね!」
「私たちに、おめめが見え辛いと、どんな時に困るか教えてね!」
3王子達は、張り切って、でも強引にではなく声をかけるし。

エフォールは、
「私も、ここのみんなや、王子様方、アルディ殿下、竜樹様に色々と助けてもらったのです。それだけじゃなくて、一緒に楽しく遊んでくれます。プレイヤード様、ピティエ様、昨日の意見交換会には、私も行ったんですよ。きっとこれから、今まで動かなかった事が、何だったの!ってくらい、いい風に動きますよ。」
体験談から、励ましたり。

「ここに来て良かった事は、友達ができたことなんです。1人で悩んでるより、気持ちを聞いてくれて、話してくれて。元気、でるんです。」
アルディ王子が、友達になろう?と2人の手を握って。

プレイヤードもピティエも、促されてトレーを持って並んで、豆ご飯にスープをよそってもらって。それから飛び飛び魚のフライに千切りキャベツ、トマトを切ったの、常温のお茶、と順に進みながら受け取って。
自分が受け取るのを後にして、王子達はプレイヤードとピティエがちゃんと受け取って席につけるかどうか見守り、どんどんやっちゃうのではなく、案内、いる?などと聞いてから、腕を握って誘導したり。食べ物や飲み物がどの位置にあるか教えたりした。

お皿はこの位置にあるよ、というのは、時計の針の方向で示すといい、3時の方向にお茶、などである。そう勉強はしたが、この世界にアナログ方式の時計はまだない。今、この世界の時の数え方に合わせて作成中なのだ。
だから、トレーのこの位置に、お茶、真ん中は魚フライ、などと、手を取って教えて。

プレイヤードは、「トレーがあると、場所わかりやすいね!」と、喜び、パクパクと食べた。お豆のごはん、好き。と、隣り合ったアミューズに話しかけて、美味しいね、なんて言い合っている。見えないながらに、そこそこお行儀良く食べられている。

ピティエは、食事に緊張していた。なかなか見えないとお行儀良くは食べられなくて、スプーンからポタポタと汁物をこぼしてしまったり、ポロリと刺したおかずをこぼしてしまったり。それが無作法だと知っていたから、人前で食事をするのに抵抗があった。
家族のアシュランス公爵家の皆は、気にすることない、と言ってくれるが、たまにお客に来る親戚と一緒の食卓につくと、軽くお説教されたりするのだ。
そうして、ゆっくり緊張して食べて、味も分からずにいたら。

隣の席のジェムが、ピティエに話しかけた。
「ピティエ様。やっぱり見えない人って、勘がいいんだな!」
へ?と訳がわからないピティエである。

「俺たち、アミューズが視力が弱いって竜樹父さんにバレてから、1日見えない日、っていうのを体験でやってみたんだ。目隠しして暮らしてみたけど、全然何にもうまくできなかった。歩く、とか、食事、とか、ぜーんぜんダメだったんだ。竜樹父さんは、道具で便利になる事は、便利にしちゃえ、っていう考えだけど、人によっては、甘えるな、とか言うだろ?」

新聞を売りながら、見えない人への、見える側の気持ちを、お客さんと雑談しながらジェムは聞いてみたのだ。

羽毛布団を作る工房にいるお兄さんは、羽毛毟りの盲目の人について「職人としては、良くできるし、助かるよ。でも給金が安くて、大変そうだね。後、1人だけでは仕事できないから、親切にする人もいれば、厄介がってる人もいるね。」と言った。
「俺は別の布団縫の仕事だから、直接頼られたりしないんで、別に考えた事ないなーってかんじ。」だそうだ。

青果店のおかみさんは、「かわいそうな連中よねえ。店でも悪い連中に目をつけられて、買い物しててもぼられたりしてるわ。私の所では、そんな事しないから、ウチには良く来てくれるわよ。」と、頬に手を当てて答えた。

なめし革職人の管理長は、
「あいつら甘えてんだ!あれはできないとかこれはできないとか言うし、聞けばなんでも教えてくれると思ってさ。それでも使ってやってんだから、感謝してほしいね。食事もうまくできないんだぜ!」とセカセカ去っていった。

もちろん、友達に視力の弱い人いるよ、色々できて、すごいな、って思ってるよ。という人もいたし、家族に視力の弱い人がいて、仕事も大変で安い仕事しかないし、でも仕事があるだけいいから•••どうにもならないしね、と苦笑し、ため息ついてたりもした。
それから、「ジェムちゃんが目の見えない人の事を聞くって事は、ギフトの御方様が、また何かしてくれるの?」と期待に目を輝かせた人も、結構いた。

「竜樹父さんは、甘えるのが悪い事じゃないって。誰も1人きりで生きられないし、誰かの作ったものを使って、人は生きてるからって。もらって、自分以外のひとの為の事をやって、人は生きてるからって。巡ってるんだって。」

「巡ってる•••私が、やってもらうばっかりじゃ、なくて?」
「うん。」

俺は、目が見えなくてもご飯がちゃんと食べられるピティエ様すげえな、って思うし、仕事だってできるって思うし、それに、番組作りに、手伝うんだろ?

もぐもぐ、と豆ご飯をフォークで食べるジェムに、ピティエは、何とも返せなかった。
ラジオ番組は、素敵だ。ピティエは、見本の番組を、真剣に聞き入ってしまった。窓が開いた、ような気がした。
けれど、自分などが、それをできるだろうか?

そうしてそれを、プレイヤードは横から、ふんふんと聞いていた。
そうして、見えない目を、ピカリと輝かせて、パクリとフライを食べた。

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