王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
81 / 533
本編

おぼうし、かぶる

しおりを挟む

新聞とパンを売る時の制服に、何か物足りないな、と思い、竜樹は、子供服の雑誌をしゅたたとスマホで見ていた。
帽子を被った子供モデルの写真に、そういや帽子か、と調べてみたら、新聞売りの少年が被ったという、キャスケット帽がヒットした。
うん、かわいい。イメージに合う。
「みんな、この帽子合わせたらどうかな?」
「おぼうし、かぶるの?」
「大人は、背が高いから、子供でもこの帽子被れば、いい目印になると思う!」
「帽子まで、くれるのかよ。代金は、大丈夫なのか?」
ジェムはかつかつの生活を送っていただけあって、経済観念が発達している。
「ある程度、かけるところにお金をかけるのも、商売だよ、ジェム。それに、代金は、オーダーメイドじゃなくて、セミオーダーにして、ある程度定型作ってもらうから、お値段ほどほどにしてもらう予定だよ。ね、フィルさん。」
デザイナーのフィルさん。毛先がくるんとした、えんじ色の長髪に瞳で、襟元だけがひらりとしたシャツにふわっとしたタイ、襟なしの上着。華やかだがスタイルはシェイプして、華美過ぎないのがいかにもデザイナーだ。座っている竜樹の後ろに立ち、デザインなどをメモしていたが、はい、とこっくり頷いて。
「洗い替えや、お子様ですと、成長に従って大きくもなりますから、思ったより枚数は必要でしょうね。ある程度の抑えた値段で、丈夫に、汚れが落ちやすく、夏は涼しく、冬温かく、が良いと思います。」
うんうん、と竜樹も頷く。
オランネージュは、スマホを覗き込んで、端に映っていた、猫耳がついた帽子に「ネコちゃん•••!」と反応していた。
そんなキラキラした目をしても、猫耳帽子はダメだよ、オランネージュよ。
可愛いすぎちゃうだろ!真面目な感じが必要です、と竜樹は言ったが、「私のだけ、私のだけでいいから!ネコちゃん帽子被って、最初の日だけお手伝い、したい!」と両手を組んでお願いしてきた。
「最初の日だけお手伝い、何だかジェム達に悪くない?」とネクターが、伺うように言う。
「いや逆に普段手伝う方が、おかしいから。王子様達は、式典とか、記念とか、そういう時にやるもんじゃない?」アガットが、首を傾げてツッコミした。
「わかった。分かりました。王子達のだけ猫耳にする。見分けがついた方が、護衛が楽になるから。これでどうだ、オランネージュ。」

「やったー!」
拳を突き上げての、大喜びである。

「それで、テレビで放送だな。新聞の宣伝にもなるし。王子達は、新聞とパンの宣伝のために、協力することー。」

「はーい!」
「わかったよー!」
「うん、うん、がんばる!」

竜樹の言葉に、フィルがニコニコして、デザイン案の横に、王子殿下達の分だけ、猫耳で、と注釈を入れて、グルグルと丸をした。


がたたん!

交流室の入り口ドアに、ぶつかりながら、ロシェが入ってきた。
「竜樹!オーブが、オーブが!」

ロシェの両手の上。
ピーンと脚を突っ張って、棒のようにオーブが固まっていた。
「オーブ!」
「おーぶ!?」
「えっ、まさか!」

ミランが、カメラで撮影しながら、なんて事だ•••と恐れ慄く。

ロシェは、うるうるうるっ、と涙を滲ませて、竜樹を見上げる。
「オーブ、外に出ていたから、連れてこようと思ったら、こんなで•••。オーブ、オーブ、死んじゃった!」
大事にしてたのに、可愛がってたのに!

ロシェは、オーブが好きだった。あったかくて、鼓動が速くて、抱きしめるとお日様の匂いがした。
家族といえば、同じ境遇の子供達の中で、理由もなくただ愛していい存在。そして、懐いてくる可愛いめんどり。
ロシェは一番に可愛がっていたかもしれない。みんなが、当番回ってくるのを、楽しみにはしていたが、朝起きられなくて遅くなった時など、自主的に気にかけていて、早くオーブの世話してあげて、と起こしに行ったり。当番じゃなくても、お水を頻繁に取り替えてあげたり。
そんなロシェが見つけた、オーブの固まった体。

うえ、うええ、ぐすっ、と子供達がオーブを囲んで泣き出す。大事に育ててたのに、なんで。
ぐすぐす泣きながら、竜樹に縋りついて、ロシェは、振り絞って、言った。

「こんな、つらい気持ち、知りたくなかった!そんなら、育てなかったら、よかった!ニリヤ王子が、育てるなんていうか、ら!ニリヤ王子が、悪い!!」
うわわわわん!
オーブを抱きしめて、大泣きして。

えっ と、急に矛先が向いて、ガーンとショックを受けて、オーブの事でウルっとしていたニリヤが、竜樹を見上げた。
大丈夫、大丈夫。
ポンポンとニリヤの頭を引き寄せて撫でてやり、竜樹は、「どれどれ。オーブ、見せてごらん?」ロシェを促した。
グシュグシュ泣いて、抱きしめていたオーブを、ロシェは差し出す。
受け取って、心臓の所に指をあてる。


トクトクトクトク。


「うん。 生きてるよ。」

「えっ」

「おーい、オーブ。起きな、ちちち。」
つんつん、つん。

ん? ぱち。

目を開けたオーブは、ゆっくりと固まった体を解いて、まるっと丸まった。
ココ、コココ?
どうしたの?って感じに、首を傾げた。

「寝てただけだな。ロシェ、大丈夫だろ?」
「うっ•••。」

目を見張ってオーブを見たロシェは、ポロリ、涙をこぼして。
「も、もうっ!」
「うん。」

「もう、もう、もう~~~っ!!!」
ポカポカ竜樹を殴った。
「何で、そんなで、ヒック、寝る!まぎらわしい!オーブ、もう!だめ!」
「うんうん。」

「ニリヤは、悪くなかったろ?」
オーブをニリヤに預けて、背中をポンポンしてやって。ロシェに聞けば。
「う、うん。」
悪く~、なかった!
うぐううう、と唸り、バツが悪いのか、しぶしぶ認めた。

「ハハハ、八つ当たりだ。」
「やつあたりだの?」

うるりとした目のまま、ニリヤが聞くと、「八つ当たり、だ!」と、ポカポカしながら応えた。

「ロシェ。あんまり辛かったから、八つ当たりしちゃったんだよな。それだけオーブを大事に思ってる、って事だ。」
オーブは鳥だけど、神様がくれた鳥だから、どのくらい生きるかはわかんない。でも、もしロシェが大人になる前に寿命がきて、死んじゃっても、育てたのが悪い事だった、には、ならないんだよ。
「オーブに会えて、一緒にいられて、嬉しかった事は、なくならないよ。」

生き物は死んでしまうから、飼わない。
そんな風に、竜樹は友達の家の人に言われた事がある。子猫を3匹も拾って、友達みんなで、家で飼えないか聞き回っている時だった。
今ならば、世話のことや、可愛がっている動物が死んでしまった時の辛さが嫌だから、とか、他の理由もあったと、分からなくもない。
でも、死んじゃうから飼わない、は、なんか違う、と子供の竜樹は当時、不満に思った。
だって、そんなこと言い始めたら、自分達だって、いつかは死んでしまう。
何もかも、死んでしまうからと、一緒にいないでいたら、じゃあ死ぬまでの間は、何なのだ。無かったことになるのか。
そんな事ないだろう、と思うのだ。

「オーブと出会えて、良かったって、俺は思うな。」
ニリヤを撫でながら。
ロシェは、竜樹に縋りついたまま、うん。とだけ返事をした。

「オーブを、これからも大事にしてやってな?ロシェ。みんな。それから、ニリヤ、オーブを連れてきてくれて、ありがとうな。」
「うん。大事に、する。」
「うん。」

子供達は、みんな、何だよ何だよ、とか、オーブ、もう!あんな格好で寝て!とか言っていたが、次第に、うふ、ふふふ、と笑いあって。オーブを撫でまわって、家の中に作った巣箱へ入れてやった。
オーブは、ココ、コココ!と鳴いて、みんなにすりすりしていった。

その後も、オーブは時々、ピーンと脚を伸ばして固まって寝る事があったが、その時は、そうっと心臓の鼓動を確かめて、子供達はオーブを巣箱に寝かせてやった。
またか、オーブったら。
とブーブー言いながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

「7人目の勇者」

晴樹
ファンタジー
別の世界にある国があった。 そこにはある仕来たりが存在した。それは年に1度勇者を召喚するという仕来たり。そして今年で7人目の勇者が召喚されることになった。 7人目の勇者として召喚されたのは、日本に住んでいた。 何が何だか分からないままに勇者として勤めを全うすることになる。その最中でこの国はここ5年の勇者全員が、召喚された年に死んでしまうという出来事が起きていることを知る。 今年召喚された主人公は勇者として、生きるためにその勇者達に謎の死因を探り始める…

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...