70 / 533
本編
らぶれた
しおりを挟む「出来たよ!」
バラン王兄殿下が、サラリと封筒を配達員に渡す。
「よろしく頼むね。」
「はいっ!」
「バラン王兄殿下も、ニリヤ王子様と同じく、鼻歌歌いながら書いてましたね。どこか工夫された点が?」
「私は偉大な巨匠のお力を借りました。」
「ん?代筆を頼んだと言う事でしょうか?」
むふふふ、とバラン王兄は自信ありげに微笑む。
「違います。」
パージュさんに届いた手紙が読み上げられる。パージュさんは、流石に良い声で、みんな聞き惚れている。
『貴女は風 きまぐれに
私に吹いて 気を引いて
貴女は花 朝露まとい
私の心に 咲き誇る
恋よ恋 寝ても覚めても
貴女の事が 忘られぬ••••••』
「んん、詩ですか?これは。」
竜樹は分からなかったが。
「これは、歌詞ですね。有名な歌ですよ、『恋よ恋』っていう。」
ミランが、にはーと笑って解説した。
「ん!?まるパクリって事ですか?」
「人聞き悪いなぁ。私ごときが文を捻るより、恋の歌詞の方が、グッとくるだろう?ラブレターに歌詞を書くのは、よくある手だよ。私もあやかったという訳さ。」
バチーン!とウインクをして、バラン王兄は、ワハハと笑って腕を組んだ。
パージュさんは、読み終わりパチパチと目を瞬いていたが、バラン王兄の言葉を聞いて、「バラン王兄殿下らしいですね。」とクスクス笑った。
「むむう、やる人と歌詞によっては、かなりくどい事になるこのテクニック、バラン王兄殿下は、流石に自分を分かっていると言いましょうか。彼ならさもあらんと思わせます。一点突破の人って、強いですね。」
竜樹とミランがうむうむと頷く。
エーグル副団長が、何故か焦って、書いては反故にし、書いては反故にしている。「その手があったとは•••!」と、苦しい吐息。
「あー、もう何だか分からなくなってきた!これで!」
グイッと便箋を折って、封筒に入れると、ペタンとのりをつけて綺麗な丸い紙を貼って配達員に託した。
「恋文、お届けします!」
「はい、ありがとうございます。」
パージュさんが受け取り、ぴぴっとペーパーナイフで封筒を開ける。
ピラッと一枚、便箋を。
「え。」
ダラダラダラ、エーグル副団長は、なんだか緊張して汗をかいている。
パージュさんは、読みます、と前置きして。
『好きです。』
カサリ。便箋を折って仕舞う。
「ええ!!?それだけ!?」
全員一致の声である。
「エーグル副団長、ずいぶんシンプルなラブレターですが。何か•••意図が?」
スーリールが、そそそそ、と近寄って、頭を抱えるエーグル副団長に聞いた。
「もう、もう、何が何だか分からなくなって•••考えてきた恋文は、カシオン君が言うように、くどくて、暑苦しくて、ダメだと思ったら、もうこれしか書けなくて•••!」
「カシオンさん、罪な男ですね。」
「自滅してますね。」
解説席がツッコむ。
しかし、パージュさんは、「これも、エーグル副団長らしくて、いいと思います。男らしい感じで。」ふふふ、と嬉しそうにしている。
エーグル副団長は、それを聞いてホッとして、「パージュさん•••。」ホワッと緊張を解いた。
さて、残るはミネ侍従長である。
サラリと封蝋をして、配達員に渡す。
お届けして、クロシェット侍女長がそれを開く。
『クロシェットへ
長い時間を共にしてきました。
これからも、貴女と、仕事と、良き時間を過ごしたい。
後進の育成も、まだまだこれから。
私達が残せる事が、沢山あると思っています。
そして、少しだけ、私達2人の時間も増やせたら。
あとちょっと頑張って、老後は一緒にのんびりしませんか。
これからも貴女と共に
ミネより』
「渋い!」
「もう、誰も何も言う事ない、ピッタリのお二人です。」
クロシェット侍女長は、ふふ、と笑って便箋をたたむと、うんうんとミネ侍従長に頷いてみせた。
この二人は、安泰です。結婚するとかしないとか、もう関係なく、出来上がっているよ。
「できた!ぼくのらぶれた!」
ニリヤ王子が、封筒を両手で持ち上げて、ぴょん、と椅子から降りる。
王子達は、姫君達宛てではないので、自分で読むようになった。トコトコ竜樹の側に歩いてきて、ニリヤが読み上げる。
『ししょう
いつも あそんでくれて ありがとう
ぼくは たのしくて うれし
やくそく ずっと いっしょだから
また いっぱい あそんでぬ
おべんきょおも がんばる
だい だい だいすき です
にりや』
竜樹は、読み終わったニリヤをうわ~っと持ち上げて、ニコニコしながらグルグル回してやった。キャハ、ハ!とニリヤは笑って、「いっぱい遊ぼうな!」と竜樹が言って抱きしめると、「うん!」と良いお返事をした。
ネクターは、観客席に近づくと、口をまむまむして、サンセール先生へ手紙を読み始める。
『サンセール先生へ
いつも、私に、勉強を教えてくれて、ありがとうございます。
小さい時から、勉強のことだけじゃなくて、いっぱい、さみしい気持ちのこととか、きいてくれた。
大人になって、幸せになれるように、ずっとお話ししてくれました。
私は一人の気持ちがしてたけど、でも先生がいてくれた、って思いました。
竜樹に、気持ちを話してごらん、って先生が言ってくれてなかったら、ニリヤを、うらやましくて、ぶっちゃった時に、気持ちを話せてなかったかもです。
私も大人になったら、先生みたいに、さみしい子供の側にいてあげたいと思います。
これからも、勉強いっぱい教えてください。先生を、そんけいしています。
ネクター』
読み終わった後、観客席が、うんうんと頷き合い、ほんわりした顔でネクターに拍手を送った。
サンセール先生は、観客席から会場へ降りてきて、ネクターの手を両手でギュッと握ると、
「ネクター王子殿下。私は、あなたという教え子を持って、とても幸せです。これからも、よろしくお願いしますね。」うるっと潤んだ瞳で、ぎゅうぎゅう両手を揺らした。
オランネージュも、王様の前に行くと、一つ礼をして、読み始める。
『父上へ
いつも、国のお仕事、お疲れ様です。
私も、将来、父上のように仕事をするのだと思うと、お手本が父上で良かったなと思います。
どんなに忙しくても、ちょっとしたユーモアを忘れない所、そういうのが案外重要なんだよ、と教えてくれました。
厳しい仕事も、みんなと一緒に解決していけるように、私も頑張ります。
あと、忙しいのは仕方がないけど、たまにはお休みをして、私も、ネクターも、ニリヤとも、お話する時間を下さい。もっと父上とお話したいです。
竜樹と遊んでるの、面白いから今度お休みの時、一緒にやりましょう。
貴方の息子 オランネージュより』
王様は、目をパシパシしていたが、涙を目尻に、指で拭いて、
「オランネージュ、もっと話をできるよう、父は仕事をもっと頑張るぞ。お休みがもらえるようにな。」
封筒を受け取ると、オランネージュの背中をポンポン、叩いて抱き寄せた。
姫君達のラブレター評価は、ずいぶん紛糾した(それぞれが、それぞれ良い所があると)。あわや誰も選べない、となる所だったが、みんなで見比べて、そしてやはり、カシオン文官に1ポイント、入った。
地味だが、貴女が好きで、これからお付き合いしたいですよ、という重要案件が入っていること、そしてこれが決め手となった、美しい字である。
なんか、感じいいよね!
とは、姫君達の総意であった。他の者は、それぞれ、特徴のある癖字であった。
それはそれで、いい•••!
という事ではあるのだが、やっぱり好感もてる。字が綺麗だと。
字か•••!
会場の男達、読み書きできるみんなが、自分の書く字を思い浮かべて、ため息をついた。
「こちらの世界でも、美しい字の書き方教室、とかあるの?」
「学校で習いますね、でも、必須ではない授業なので、文官になりたい者か女性でもないと、受けませんかね。」
ミラン情報局が教えてくれた。
こちらの世界でも、女子の方が、字が綺麗だったりするんだなあ、と竜樹は思った。
44
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします!
実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。
冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、
なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。
「なーんーでーっ!」
落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。
ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。
ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。
ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。
セルフレイティングは念のため。
サフォネリアの咲く頃
水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。
人と人ではないものたちが存在する世界。
若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。
それは天使にあるまじき災いの色だった…。
※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も?
※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/50469933
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる