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一章

☆7.遊び人フェルド・アンヴィル

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「かいちょ?かーーいちょ?…寝ちゃったの?」
「…………」
「……そっか…寝ちゃったんだ」

おれはソファーに寄りかかっただけの、不安定なかいちょの体を支えようと、自分の体を横に滑り込ませる。

「………ん…ぅ」

かいちょはちょっとだけ動いておれの肩へ、こてんって頭をのせた。

「ん………」
「…………………んんっ……ごほんっ」

別に無理やりってほど、強く寝かせようとしたわけじゃない。おれの…夢魔の種族特性で、少しだけ誘うように睡眠誘導したのは確かだけど…。
それに今、かいちょの横に座ったのも、この部屋まだ寒いしからだし、肩は…そのかいちょが首痛めないように副会長として、サポートしただけ…それだけ。そう、こんなの他の子にだってした事あるし、何も変じゃないって。うんうん。

「……………」
「……」


………ってかさ、そんなすぐ寝ちゃうとか。やっぱ…疲れてんじゃん…かいちょってば…。

淹れたコーヒーが冷めて……ニオイがしなくなったあたりで、おれの夢魔としての嗅覚があの・・ニオイを嗅ぎ取る。
おれは自分の頭をかいちょにしっかりとくっつけて、そんで夢魔の力を使った。

「んっ…」

おれの力が直に入り込むのを感じてか、かいちょの体が、びくんって少しだけ震える。

「……ふ…ぅ…」
「………………………」

これで…かいちょは簡単には目覚めなくなった。かいちょの意識は、おれ夢魔が夢に縛っちゃったから。
そうやって捕まえたかいちょの元に、今度はおれの意識だけを忍び込ませる。

くっつけたままの頭をもっと近づけて…重ねるような感覚で……おれは自分の瞼をおろす。


これすんの…もう何度目かなぁ。……覚えてないや。
回数は覚えてないけど、初めてかいちょの夢に入った時の事は、ちゃんと覚えてる。



この学園って、結構色んなのが自由で面白いんだけど、ちょっと面倒な決まりもあったりする。
その中に、全ての生徒は部活か委員会、どっちかに入らなくちゃいけないってのがあって……。

そのせいか知んないけど、わりと新学期の早いうちに、生徒会長なんてトップに入学して間もない新入生が選ばれるなんて…みょ~な事もおきたりする。
ま、おれもおんなじだから、その年はワンツーが新入生っていう状態になったわけ。

おれはどうにも部活を頑張る~だなんて性にあわなくて…。
適当な委員会でも入って、やりすごそうかなって思ってたら、おれの周りでキャーキャーいってた子たちから、生徒会への推薦を受けたんだ。

誘因フェロモン振りまいてる吸血鬼さんと、夢魔のおれってんで、体使って当選したーなんてのも、いわれてたっけね。
実際おれたちに入った票は、こっちの熱に浮かされてたような子たちからだったし、間違ってもないけどさ。

おれが副会長はないだろってのも、思ったけど。
適当に偉くて、二番手ならサボりやすそうだし、いっかーって結局引き受けた。

そんで噂の吸血鬼さんとも、会長と副会長として、付き合う事になったんだけど。
まぁ驚いた驚いた。おれ相手にも何度か誘因フェロモンを向けてきたんで、こりゃ噂にたがわず相当遊んでんだな~って思ったね。

流石に無視し続けるのも悪いし、好みじゃないけど…夢魔としても受けてあげるべきかなぁ~って、淫夢へ誘ったのに、まさかの無反応。

受けてやったのに、まさかの無視!

ムカついたおれは……それまでは比較的マシに顔を出してた生徒会に、一切いかなくなった。



そっから数ヵ月。サボってもなんにもいわれないし、楽し~学園ライフを楽しんでたのに。
たまたま通りかかった先生に、副会長だからって理由で、荷物運びをいいつけられた。

それも生徒会室に持ってけって。
面倒くさぁあああ~。誰かに押し付けようにも、その日は午前授業の日で、ほとんどの生徒は帰っちゃってるし、おれとさっきまで一緒にいた子とも、もう別れちゃってたしで…どうにもならなかった。


これ運んでって部屋の鍵、開いてなきゃどーすんだっての。
あ、部屋の前に置いとけばいいのか。

荷物をわきに抱えてから一応…って、ノブを回してみたら、扉はあっさり開いた。

「開いてんじゃん。……?」

誰かいるから開いてるのかと思ったけど、それにしちゃ物音がしない。

「あ?」

いや、いた。
机につっぷして、あの吸血鬼の会長さんが寝てる。
や~いいご身分ってな~。ったく、いるんだったらサボってないで、あんたが取りにいけっての。

おれは荷物を机の上に置いて帰ろうとしてから、思い直して…扉をしめた。

「い~の、思いついた」

もう数ヵ月前の事だけど、あの肩透かしは屈辱だったもんね。……仕返しにぃ。

「会長さんに、夢魔特製の悪夢をプレゼント~~ってな」

おれは立ったまま、会長さんの頭に手を置いて、そのまま夢魔の力使う。

「………ん」
「へ?あ……れ?」

悪夢を流し込む……そんな事すれば、普通…もっと…こう反発ってか…なんかあるのに…。
は?え?なんなんかな~これ…かき氷にシロップかけたみたいな浸透っぷりってか…いや、おれ何いってんだろ。

「っ…」
「!?」

おれの手の下で、会長さんの体が震えて、机につっぷしてた顔が横を向く…その…顔に……。

「…ごめ……はな……ごめ…ん…」

涙が……。い…や悪夢を見せたのはおれだよ。おれ…だけど…泣かせるつもりは。
ちょっとうなされればいいって…そんで……そんで。

「っ!くそっ」

おれは夢を縛りもせず、不安定なまま夢の中に飛び込んだ。
何も体ごと夢に入らなくてもよかったのに。

飛び込んだ先は、音も映像もニオイも…その何もかものがぐにゃぐにゃしてて、混ざってた。
女の子の泣き声がどっかでする。それになんだろこれ…アラーム?

曖昧で不安だけが渦巻く夢の中で、おれは目的のものを見つける。

「あった!」

悪夢の種を回収するのと同時に、周囲が明滅した。

「う…わ。まずい」

夢が終わる。おれが慌てて脱出して床に倒れ込むのと、夢の主が目覚めるのは一緒だった。

「はっ…はっ………は~~ほんともう何やってだか」
「………え?…あ?…」
「あーーーおはよーーーございます。会長さん」
「え、ああ…おは…よう?」
「ったくいいご身分っすね。生徒会室で寝る、だなんて」
「あ……はは、恥ずかしいな…。申しわけない」

会長さんの顔には、涙のあとがまだ残ってて目も潤んでた。
それを全部無視して、おれは立ちあがる。

「荷物」
「え?」
「その荷物、頼まれたやーつ、確かに届けたんで。じゃさよなら」
「あ、その」
「なんすか?」
「ありがとう」
「別に」

そっからは全力で走って、寮まで帰った。
なんでそんなに走ったかは、よくわかんないけど。おかげでちょっと落ち着いた。


それから数日後に、なんでか…おれはまた生徒会室にいった。
そこから知ったのは…今の生徒会の仕事をまともにしているのは会長さんだけって事…。
あの日はサボってたんじゃなくて、働きすぎの結果だって事…………。

「~~~~~~~~~!」

気づけば、おれは…会長さん………かいちょを手伝ってた。

…そのうちに、誘因フェロモンはかいちょが意識して出してるんじゃないってのもわかった。
冗談!?って思ったけど、や……かいちょ…呑気なところあるし…。
流石に…直接正解は聞けないけどさ…。
天然ってやつでしょ?そんなら、そういう事もあんのかって~~。

でもおれが手伝うようになっても…かいちょは無茶をした。
だからおれは、かいちょの為に、コーヒーを淹れるようになった。
まだ大丈夫ならそのまま休憩。疲れすぎてるなら眠りへ……。

それを繰り返して……何度目の眠りからか、おれはかいちょの夢に入るようになった。
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