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一章

■6.夢魔の副会長

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人気ひとけのない学校に、足を向ける。

「おや、どうしたね?まだ学校は休みだぞぉ~」
「ええ」
「なんだい、生徒会ってのはそんなに忙しいんかぃ?」
「そういうわけでは…」

私に気がついた警備の職員が雑談を交え、校門の横の通用口を開けてくれる。
今日は日曜。通常授業はなく、当然門も閉まっている。
時期によっては、部活動等で開放されている場合もあるが、新学期を迎えて間もない今はそれもない。

「ま、なんにせよ。無理しなさんなよー」
「はい。ありがとうございます」



近く必要な資料の用意は、昨日までに終わらせてあるので、今日はそこまで急ぎの仕事があるわけではない…が…。

「は…………」

普段は暖かい廊下も、空調の切れた今は、外と変わらず冷えたものだったが、その分…澄んでいて気持ちがいい。

自分の足音だけを聞き、昨日も訪れた目的地へとたどり着く。

この学園に通う生徒は、みなが寮生活を義務付けられている。
とはいえ、届けさえすれば外泊は許可されるので、ゲームでの彼女のように………いや彼、ノアのように、手違いでしばらく入寮出来ない生徒が出たとしても、そこまで騒がれる事はないだろう。


休みの二日目である今日は、出かける生徒が少ないのと新入生の影響で、寮内は早々に喧騒に包まれた。

いつもならば、それほど気にはならないが、今は…何故か少し距離を置きたくて…。
朝食を終えたあと、昨日同様、生徒会室へ向かう事にした。


「?」

部屋の鍵を開けようとして、鍵がかかっていない事に気づく。
昨日確かに施錠した記憶はある。ならば…私以外の誰かがきているという事か?
冷えたノブを回せば、ちょうどカーテンを開き朝日を背にした人物が目に入る。

「かいちょ。おはよ」
「フェルド。………はっはは」
「え、なんで笑ってんの」
「いや…すまない。まさか夢魔が…朝日を全身に浴びて、挨拶をしてくると思わなくて」
「や~それいったら、かいちょだって吸血鬼じゃん。何朝もはよから、動いてんの」
「それもそうだな。……それで、フェルドは何故ここに?」
「ややや、それもおれの台詞だから」
「?」
「かいちょってば土曜も、ここにきてたっしょ?」
「ああ」
「それであの資料、全部用意し終えたね!?」
「ああ」

「おーーーれ…。いつもいってるよね?」
「……あーー…んんーーその…」
「かーーーいちょ?なんの為に、生徒会役員がいると思ってる?」
「いや、しかし」
「上に立つものは、ふんぞり返ってればいいんです~~~~~」
「そのどうにも…性分で…」

ゲームのトワ・ルトエであれば違ったのだろう。
生徒会長という役職に就くまでは同じであったが、私はその…人に物事を任せるのが苦手なので……。
ゲームのトワ・ルトエのようにふるまう事は出来なかった。

「そーーんなに、こっちが信用出来ませんかね~~」
「そんな事は!?」
「ですよね~知ってます~」
「う、……そ…そのすまない」

役員のみなを信用していないなど、とんでもない。
ただ…他の役員に迷惑をかけるなら、私がやるべきではないかと…。

「かいちょがそんな甘々だから、おれ以外の役員に舐められてるんですよ~わかってる?」
「そうか…な?」
「あーーーはい。自覚なーし。ったく…ホッチキスどめとか、なんで、全部かいちょがしてんだってか」
「いや…そのそれは…あの…」

それについては、単純に楽しくて…気がついたら全部やってしまっていただけで…。


「ま、いいや。そんでー」
「?」
「週明けでも余裕で間に合う資料を、ホッチキスどめまで終わらせたかいちょーさんは、今日何しにきたんですかねぇ?えぇ?」
「そ…の…他のも少し進めておこうと……」
「それぜんっぜん、まだ急ぎじゃないやつねーーーははははっ…はぁあああ…。本当にも~~~~…昨日は見逃したけど、今日はだーめです!」
「?」
「おれいったでしょ?忙しい日が続くんだから休めって…」
「ああ……ま…ぁ」

実は休む為に、ここにきたんだが…。……それをいってしまうと…フェルドを邪魔者扱いしているようにとれてしまうし……い、いえないな、これは。


「資料うんぬん以外にも、生徒会長として参加する会議とか、やる事自体が増えんだからねーー!そこんとこわかってる?」
「は、はい」

しかし…寮の喧騒とは違い、気心の知れた相手との会話だからか、疲れる気配はない。
むしろ一人で作業をするより、休めているのかもしれない。

「も~~~とりあえず、座ってかいちょ」
「ん?ああ」
「コーヒー淹れてあげる。特製夢魔ブレンド!」
「はは、ありがとう」


そのまま会話は途切れ、フェルドがコーヒーを用意する作業音だけになる。

「…………」

その音を聞きながら、そういば…こんなシーンがゲームにもあったなと、ふと思い出した。
フェルド・アンヴィル、彼もゲームの攻略対象者で、不真面目な夢魔の副会長だ。

「……ふふっ」

不真面目…か。その情報に口の端がついあがってしまった。
彼はいつも、会長である私の補佐も、生徒会の仕事も積極的に担ってくれている。不真面目とは……ははっ、ほど遠いいな。

「ん………」

コーヒーのいい香りがしてくる。
目が覚めるような朝日だというのに…、それを浴びながらフェルドを待っていた私はいつのまにか眠りに落ちていた。
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