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第1章 MAXコーヒーが繋いだ奇跡

第39話 告るべきか⇔告らないべきか 其れが最大の謂わば問題だ。

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 これがみこすり半劇場の話の中ならば、顔射してこれが本当のホワイトデーだ、とかやるのに。
 なんて冗談は置いておいて。

 俺は答えを出せずにいる。

 あの時、バレンタインの時に、多分ではあるが好きだと言ってくれた。
 はっきり好き嫌いを言えないのは、まだ語れない過去が影響してるのだと思う。

 でも俺にも好きとか嫌いとかはっきり言えないのにはトラウマがあるからだとはまだ言えていない。
 
 言えていないが、この数か月はとても満たされていた。
 はっきりとしたカップルではないけれど、やってる事はカップル同然だし、気持ち的にもそうなんだと思ってる。

 俺の方も、これは多分好きという感情だとは思ってる。
 そうでなければこんなに悩まない。

 だから今出来る限りの気持ちを込めて作ろう。

 ダチには協力してもらった。
 といっても身近にいるダチって結城の事だけどな。

 俺が作ったものを試食させてるものだから、帰ってから大変らしい。
 霙さんには事情を説明しているから浮気を疑われたりはしていないはずだと信じたい。

 とある作品に影響されて、カヌレを作る事にはまっている。
 王道のバニラ、コーヒー、チョコと3種類ならどうにか作る事が出来る。
 一人暮らしも長いし、多少料理もするので、レシピさえあれば作る分には問題ない。
 最初こそうまくいかなかったが、回数を重ねる度に美味くなる実感がある。
 料理好きな人の気持ちが少しわかった気がする。

 味見をさせられる結城も褒めてくれたので上達はしているのだろう。

 一度家に持って帰って霙さんにも味見をしてもらったそうだが評価は良かったようだ。

 これでお姉ちゃんの胃袋を捕まえてねって言われたそうだ。

 そんなわけで失敗出来ない本番用が焼きあがった。
 匂いから察するに上々だと思う。

 後は熱を取ったらラッピングか。

 恥ずかしいけどそれっぽいのを用意してある。

 うん。これ俺好きだろ。好きでもないのにここまで出来るか?
 元々お菓子作りが趣味であれば別だけど。

 誕生日デートの後はひたすらホワイトデーに何をお返しするかで悩んでた。
 今では早めに何作るか決めて良かったと思う。
 練習の時間が必要だからね。

 そういえば結城や霙さん以外にも、数度天草家が遊びに来たっけ。

 あぁそうだよ思い出した。真理恵さんが隠し撮りした写真が東武動物公園のベストカップル賞に選ばれてホームページに掲載されてるんだった。

 それをチャラにする代わりに味見をしてもらった事があった。

 結城だと男性目線になるし。五木さんも含めて、男子2・女子2の意見は貴重だった。
  
 つまりこれは交友関係の薄い自分がその全てをかけて作ったカヌレなのだ。

 多分味は大丈夫。隠し味にMAXコーヒー…あ、入れてるわ。
 隠しじゃなくてコーヒー味のに普通に。
 甘過ぎね?と言われたのはこのせいか。
 俺にはそうは感じなかったのに。

 でも最終的には全員から高評価は得られたので良い。
 「これでうまくいかなかったら死刑な。」
 結城にそう言われたけどどっちの意味でしょうかね。
 美味く出来なかったらなのか、関係が上手く行かなかったらなのだろうか。
 …どっちもだろうな。

 だから俺は……
 「結城、俺は決心したよ。あの事話す。」

 それに対して結城は
 「そっか。お前が決めたのならそうするのが良いだろうな。安心しろ、もし万が一にでもうまく行かなかったらさっきの死刑は撤回してやる。」

 え?そこは骨は拾ってくれるとかじゃないの?

 そういえば、天草家2人と結城の3人はいつ間に仲良く?
 ってこの試食会のせいか。

 というか、なぜ当日に3人してこの場にいるんだ?平日ですよ?
 俺は休みを取ったけど。後輩には事情を軽く説明してあるけど、会社には普通に年休を取ってるだけとしか思われてないけど。
 バレンタインの後、3月の予定を作成する前に14日は休みを入れた。
 
 もしかすると勘のいい人には気付かれてるかもしれない。
 年が明けてから俺が妙に明るくなったらしい。
 そうなのか?とも思ったけど、心に充実感があるという事はそれが表にも出ていたのだろう。

 あれ?もしかしなくても大半にバレてる?

 まぁ良いか。

 作ってるところに登場したわけではないが、3人は完成形を確認している。
 「しかし随分可愛い包だな。」
 
 「まぁ無骨なものってわけにもいかないでしょ。」
 
 随分ファンシーに可愛い包とラッピングリボン。
 一つ一つを包み、大きな一つのくまさん模様の袋に収めた。
 
 「さて、そろそろ邪魔者は消えますよ。三依、ほら帰るよ。」
 最近五木さんも本名で呼ぶ事が増えた。
 このメンバーだし良いんだろうけど。
 
 「試食に付き合ってくださりありがとうございました。いつ……天草さん。」

 「あはは、その代わり友人代表の挨拶は三依に頼みますよ?」
 「じゃぁ新郎側の友人代表挨拶は俺に任されるわ。」

 結城、立候補制なのか?
 まぁ良いんだけど。
 というか気が早すぎるんだけど。
 
 俺達まだ正式なカップルですらないんだけど。周りにはそう見えるかもしれないけど。
 何だかんだと気にかけてくれて家まで来てくれた3人には感謝だ。

 だけど、お前ら仕事はどうした?
 
☆☆☆

 3人が帰った後、真理恵さんからメールが入ってきた。

 「多分、今日はお互い色々話す事になると思うでしょうけど、それを聞いても気持ちが変わらないなら友紀さんをずっと支えてあげてください。」

 彼女にしては珍しくおちゃらけてもいないし、至って真面目な文面だった。

 懇願に感じる文面だった。

 そして19時、霙さんに送迎されてきた友紀さんがウチにやってくる。

 なぜどこかでデートしたり外食したりしないのかツッコミがきそうであるが、友紀さんからのお願いであった。

 軽く食べてから行きますのでと。

 だから俺も1時間程前に炒飯を食べた。冷凍のじゃないよ?

 多分友紀さんもギリギリまで思い詰めているというか考えていたに違いない。

 そのための時間が欲しかったのだと思う。

 決心した事であってもいざ当日を迎えると、踏ん切りがつかなくなることはある事だ。
 
 ピンポーン

 家のインターホンが鳴った。

 ここからは、(愛の)告白と(過去の)告白のターンだ。
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