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砂嵐の精霊と錬金術師と私達とが知りあう偶然
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「とりあえず、俺たちのいるここら一帯の時間を低速にさせた。馬車のあたりまでは同じ流れだが、それより外側の空間を安全のために停止してある。危険だからそれより外に出るなよ。…これで終わるまで待とう。」
ジョジさんが事も無げにそう言って砂に腰を下ろす。私は口をパクパクしながら、どうなってるんだろうってあたりを手で探ってみた。
「何やってんだ、お嬢ちゃん。」
ジョジさんが点のような目で私をみているのに気づいた。ちょっとムカッとする。けどなんか、このオジサンにあれこれ聞きたいとは思えなくて、私もその場に座り込むことにした。
家から着てきた洋服は、もうすでに気にしようもないくらい砂やホコリで汚れ切っている。たぶん顔とか髪の毛とかも。いまさら、というか、今ここで、そんなことを気にしたってしかたない。家に帰れたらしっかりとお風呂に入って汚れを落とせばいい。それまではしょうがないから、タオルでこまめに拭き取っていくしかない。ミラクくんの出してくれた、ウェットなんとかって言う使い捨てのあれ。あれを馬車からとってこようかな…。そんなことを考えてたときに、ジョジさんが話しかけてくるのが聞こえた。
「…さっきよう、あの精霊、あのお子さんをなんて呼んでたか覚えてるか?」
「聖なる聖霊ってやつ?オジサンものすごく驚いてたもんね。」
「よく見てんな、ちくしょう。」
そんな会話をしている間に、朝が来た。
「聖なる聖霊ってのはな、魔王とは正反対の存在なんだ。なんだってあの精霊、そんなことを言いだしたんだ?」
「そんなの知るわけないでしょ!聞く相手を間違えてない?」
「なるほど、その通りだ。」
なんかイチイチむかつく。だったら最初っから聞かなきゃいいでしょ!
「今回の依頼は、中国とロシアの間にある山脈の山あいに、異界へとつながる洞窟が発見されたことからはじまってた。その異界の先に、やがて世界を滅ぼす魔王が住むって話になって、俺や勇者たちのところに話がおりてきたんだ。」
なんなの、その安易な設定。異界につながる洞窟だとか、勇者だとか、まるっきり私の大好きなゲームと一緒じゃないのよ。
「それがどうしたって言うのよ?」
「それがどうしたって言うんだかな。まあ、言われてみりゃその通りなんだが…。」
「だから、さっきから何ひとりで喋ってひとりで納得してんのよ!」
「魔王が魔王じゃなかったら、そいつはどういうことだ?って話さ。」
その間にまた夜になった。ミラク達のいるはずの場所で、稲妻をまとった砂嵐はまだ、異様な大きさになって暴れ続けている。
馬車から椅子とウェットタオルと水筒を持って戻ってきたら、砂丘の上に座り込んだジョジさんが思いつめたような顔で、暴れ狂う砂嵐を眺めていた。あまり気が進まなかったけど、持ってきた椅子のひとつをジョジさんに差し出したら、ジョジさんはそれを受け取って座りなおし、話はじめた。
「精霊って存在は風や雲と同じだ。自然の一部で、人間や魔物みたいに嘘はつかない。その精霊があのお子さんを、聖なる聖霊と呼んだってことは、あのお子さんはそうなんだってことだ。」
「…なんだか難しい話ね。」
私も自分の椅子に座って、水筒の水を飲みながら言葉を返す。
「それを討伐しろって言ってきた奴がいる。そいつはつまり、俺たちに嘘の情報を教えたってことだ。」
夜中になって空を満天の星が覆いつくす。流れ星の集まりが一斉に流れ出した。
ジョジさんが事も無げにそう言って砂に腰を下ろす。私は口をパクパクしながら、どうなってるんだろうってあたりを手で探ってみた。
「何やってんだ、お嬢ちゃん。」
ジョジさんが点のような目で私をみているのに気づいた。ちょっとムカッとする。けどなんか、このオジサンにあれこれ聞きたいとは思えなくて、私もその場に座り込むことにした。
家から着てきた洋服は、もうすでに気にしようもないくらい砂やホコリで汚れ切っている。たぶん顔とか髪の毛とかも。いまさら、というか、今ここで、そんなことを気にしたってしかたない。家に帰れたらしっかりとお風呂に入って汚れを落とせばいい。それまではしょうがないから、タオルでこまめに拭き取っていくしかない。ミラクくんの出してくれた、ウェットなんとかって言う使い捨てのあれ。あれを馬車からとってこようかな…。そんなことを考えてたときに、ジョジさんが話しかけてくるのが聞こえた。
「…さっきよう、あの精霊、あのお子さんをなんて呼んでたか覚えてるか?」
「聖なる聖霊ってやつ?オジサンものすごく驚いてたもんね。」
「よく見てんな、ちくしょう。」
そんな会話をしている間に、朝が来た。
「聖なる聖霊ってのはな、魔王とは正反対の存在なんだ。なんだってあの精霊、そんなことを言いだしたんだ?」
「そんなの知るわけないでしょ!聞く相手を間違えてない?」
「なるほど、その通りだ。」
なんかイチイチむかつく。だったら最初っから聞かなきゃいいでしょ!
「今回の依頼は、中国とロシアの間にある山脈の山あいに、異界へとつながる洞窟が発見されたことからはじまってた。その異界の先に、やがて世界を滅ぼす魔王が住むって話になって、俺や勇者たちのところに話がおりてきたんだ。」
なんなの、その安易な設定。異界につながる洞窟だとか、勇者だとか、まるっきり私の大好きなゲームと一緒じゃないのよ。
「それがどうしたって言うのよ?」
「それがどうしたって言うんだかな。まあ、言われてみりゃその通りなんだが…。」
「だから、さっきから何ひとりで喋ってひとりで納得してんのよ!」
「魔王が魔王じゃなかったら、そいつはどういうことだ?って話さ。」
その間にまた夜になった。ミラク達のいるはずの場所で、稲妻をまとった砂嵐はまだ、異様な大きさになって暴れ続けている。
馬車から椅子とウェットタオルと水筒を持って戻ってきたら、砂丘の上に座り込んだジョジさんが思いつめたような顔で、暴れ狂う砂嵐を眺めていた。あまり気が進まなかったけど、持ってきた椅子のひとつをジョジさんに差し出したら、ジョジさんはそれを受け取って座りなおし、話はじめた。
「精霊って存在は風や雲と同じだ。自然の一部で、人間や魔物みたいに嘘はつかない。その精霊があのお子さんを、聖なる聖霊と呼んだってことは、あのお子さんはそうなんだってことだ。」
「…なんだか難しい話ね。」
私も自分の椅子に座って、水筒の水を飲みながら言葉を返す。
「それを討伐しろって言ってきた奴がいる。そいつはつまり、俺たちに嘘の情報を教えたってことだ。」
夜中になって空を満天の星が覆いつくす。流れ星の集まりが一斉に流れ出した。
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