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 全て、全て、と言う言葉がずっと気になっていました。
 『全て』とはどこからどこまでを指すのか。

 1から10まであって、その、1から10までを入れ替えた時、それはだと言えるのでしょうか?
 そんな疑問を持っていたわたくしは自分が消える期待と、もあるのだろうと思っていました。

 ──わたくしの全てを手に入れたベアトリーチェは、わたくしエカテリーナになる──

 答えは……わたくしの予想通りでした。

 『愛するベアトリーチェ』を失ったと気付いた両親が泣き叫んでいますが、そんな両親に悪魔は優しく声を掛けます。

「どうして泣いているんです?
 あなた方とその最愛の娘様が願いを叶えて差し上げたでしょう?」

「こんなことは望んでいない!!
 望む訳がない!!!」
「そうよ!! 娘を返して!!
 わたくしのを返して!!!」

「おかしなことを言うご夫人だ。
 あなたの娘のベアトリーチェ嬢は目の前にいるでしょう?」

 悪魔の言葉にわたくしも続きます。

「えぇ、お母様。わたくしはですわ。

 ベアトリーチェですわ」

 お母様に向かってニッコリと微笑めば、お母様は白くなった顔を更に絶望に染めて悲鳴を上げました。

「違うわ!!!! 違う!!!!
 ベアトリーチェは!? わたくしの娘はっ!! 違うの?! そうじゃっ……! そうじゃないのっ!!!」

 顔を両手で覆って床に頭を付けるようにして母は頭を振りました。違う違うと騒いでも、悪魔はベアトリーチェの願い』を叶えたのです。今更騒いでも……

「おかしいだろう!?!」

 父が叫びます。

「ならはどこに消えた?!
 私の娘だ!! ではない方の娘だ!? 今までそこに居た娘はどこに消えた?!!!」

 悪魔を射殺さんばかりに睨んで父は訴えます。しかしそんな目で見られていても悪魔は涼しい顔で微笑んでいます。

「困ったなぁ。何を言っているのか分からないよ?
 消えた? 消えてはいないだろう?
 消えたのは『望まれなかった姉』の方だ。

 ちゃんとて、

 あなた方の娘様はここにいるじゃないか? 目の前に。
 願い事を理解していなかったのかな?

『全てが欲しい』と、はそう言ったんだ。

 だから『エカテリーナの全てを奪って』、
 彼女は、
 『エカテリーナになった』んだよ」

 子供にさとすように、優しい声で、ゆっくりと語った悪魔の言葉に、父は両目を目一杯に開き、その言葉の意味を受け入れたようでした。

「あ、……そ、そんな………そんな…………」

「違う……、違うの…………ちが……」

 床にへたり込んだ両親が生気の無くなった顔で小さく呟くばかりになってしまいました。

 自分たちのというのに……
 
 
 
 
 
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