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31>>蛇に囲まれたハムスター

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 ティオレイドはにこやかに微笑んでいる。
 マリリンが困惑して無意識に姉を見ると、カリンナも嬉しそうに微笑んでいた。

「……え?」

 マリリンの背中を冷や汗が流れる。
 そんなマリリンの背を押す様にマリリンの背中に手を添えたティオレイドが、優しくマリリンに囁く。

「マリリンが間違っていたのなら謝らないとね?
 カリンナお義姉ねぇ様も、“自分は間違ってはいないけれどマリリンの考えを尊重して”マリリンを否定してしまった事を謝罪してくれたのだから、それを違うと言うのなら、“間違っていたマリリンが謝罪して”、ちゃんと“あの時の自分の方が間違っていた”のだとお義姉ねぇ様に理解して貰わないと。
 大丈夫。私が側に居るから。

 さぁ、カリンナお義姉ねぇ様に謝罪して? マリリン」

 優しい微笑みで自分を見るティオレイドにマリリンは絶句して一瞬息をするのを忘れた。

 マリリンは人生で一度だってカリンナに謝った事は無い。だって謝りたくないんだからしょうがない。謝ったらその時点で負けな気がする。カリンナがマリリンに頭を下げる事はあっても、マリリンがカリンナに頭を下げるなんて事があってはならないと思っていた。そんな場面は起こり得ないと思っていた。それなのに……
 マリリンは自然と震えてしまう口唇をグッと閉じて唾を飲み込んだ。握った両手に力が入り、困惑した頭が縋る場所を探してティオレイドの顔を見上げてしまうが、目に入るティオレイドの表情は慈愛に満ちた優しい微笑みをたたえてマリリンに謝罪を促している。

「……?!?」

 完全にマリリンが謝罪すると思っているティオレイドにどうしたらいいのか分からなくなってしまったマリリンが無意識にカリンナを見た。
 カリンナは苦笑してマリリンを見ていた。

「マリリン、いいのよ?」

「え?」

 困惑した表情で固まるマリリンにカリンナは優しく話しかける。

「無理しなくていいのよ、マリリン。
 を無理にする必要はないわ」

 その言葉にマリリンの血は一瞬で頭に昇った。

「……っ!? む、無理じゃないわよ!! 何が無理よ?! お姉様に出来てわたくしが出来ない事なんかないわっ!!!」

 カッとなってマリリンは反論した。それはもう条件反射の様なものだった。
 そして言った瞬間にマリリンは墓穴を掘ったのだと気付く。
 ハッとして慌ててティオレイドとカリンナの顔を見ると二人はそれはもう優しいにこやかな笑みを浮かべていた。

「あ……」

「マリリンならそう言ってくれると思ったよ」
「あぁマリリン……成長したのね」

 ──さぁ謝罪を──

 ニコニコキラキラとした二人からの笑顔に促されてマリリンはもう『そんな事はしない!』とは言えない状態になった。
 何よりティオレイドに失望されたくなかった。ここで嫌がれば一体どう思われてしまうだろうか……

「…………っ、
 ……お、……おネぇさま……」

「なぁに、マリリン?」

 絞り出した様な声でマリリンが呼ぶとカリンナは嬉しそうに返事をする。マリリンが無意識に助けを求めて視線を向けた先にはティオレイドの期待に満ちた笑顔があった。その目を見られなくてマリリンは直ぐに視線を逸らしてカリンナの方を向く。

「っ! っ……、………お姉様、
 ……わたくしが前に言った発言は間違いです……っ、姉妹でも、お互いの婚約者に馴れ馴れしくしちゃダメですっ! わたくしが前に言った言葉は忘れてちょうだい!
 あの時はっ、ごめんなさいっ!!」

 そう言ってマリリンはカリンナに向かって頭を下げた。



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